第91話 心拍

見られる時間は少しずつ長くなっていったきがした。

その度、胸は弾み続け、ドッドッドッと早い心拍と共に高速で思考が巡る。


そして純粋な疑問が頭に浮かぶ。


好きってなんだ?


「あ。」


「ん?」


書き間違えてしまった。


「どうした?あー。書き間違えな。よくあるよなわかるわ。」


俺はまるで、二つ脳があるみたいに、脳は二つの思考を持っている。


まず、決まった文章を書かなければいけないと、定型文を反芻して読み上げる脳。


それとは別に、俺は高嶋に好意を抱いているんじゃないかなどと分析を繰り返す脳。


右ポケットで携帯のバイブレーションがする。

高嶋にいま、確実に見られた。


俺は反応したくなかった。

いつもだったら携帯を手に取って通知を確認するが、今は、反応できなかった。


まるでメデューサみたいに、見られてる間に顔をあげる勇気は、俺にはなかった。


顔を上げて、目を合わせようものならこの気持ちは全て悟られる気がした。


俺はうなじから汗をかきはじめた。


またバイブレーションがした。

高嶋は見ていない。


また間違えた。修正テープを手に取る。


「あっ。」


カタンと修正テープは落ちる。


全てが上手くいかない。


早い速度で物事が動いているけど全てで転んでいるような感じがする。


「はぁ。」と言いながら高嶋は拾ってくれた。


「しっかりしなよ。」

まるで全て理解されているような言葉だった。

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