第53話 会話。

俺は気まずかった。

それはきっとアイツも同じなんだろう。


この空気を少しでも晴らせられれば。

俺ら以外の音がこの空間を満たせば空気は晴れるんじゃないか、そう思った俺はテレビをつけた。


アイツは幾年か前に、寂しいだとかもっと遊んで欲しかった、だとか言った時があった。


その時に初めて気づいた。

俺の子供なのに、俺は。

コイツの事を、こいつの何を知っているのだろう。


話せと言われたら、何を話すべきなのか。

会社で世間話に出てくるような親子の会話をした事があったか。


あいつに、何をしてやれているのか。


その時反省したはずなのに、アイツが入院したあの時、俺は行かなかった。


仕事で忙しかった。


いつもと同じように仕事を言い訳にして、息子の顔を見なかった。


息子の笑顔の為にと働くことを気負っていたはずだったのに、いつの間にかアイツの笑顔は消えていった。

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