第5話
「今日は何処へ行ってみる?」
「俺、聞いたんだけど、川の上流の方で魔石が落ちているらしいぜ。今、街の冒険者が挙って川に来ているんだってさ」
「そうなの? あそこの川なら魚もいるし行ってみようよ」
二人でいつものように山歩きの装備をして出かけた。近くとはいえ、魔物の出る森。何かあると大変だもの。
狩りをして帰る場合もあるので、村を出る時は常に袋やロープ、小型ナイフや傷薬をセットにしている。
私たちは鳥の鳴き声や風の音を聞きながら慎重に川沿いを上流へと向かって歩いていく。
しばらく行くと少し高い崖のようになっていて岩場には水苔が生えていて足場はズルズルと滑りやすくなっていた。
冒険者たちはここをどう上っていくのだろう?
やはり魔法を使って上っていくんだよね。
私たちはというと、ファルスも魔法が使えるので彼が私を抱えてジャンプし、崖の上に一気に登る。
私も本当なら出来るけど、誰が見ているか分からないので余程の事が無い限りは魔法を披露しないの。ファルスも私の事情を知っているので何も言わない。
そうして歩くこと三十分。
ようやくポコポコと水が湧き出している水源地所に到着した。
私たちは川べりに座っておしゃべりをしながら休憩している。森の中はいつ魔物が出てもおかしくはないので注意しながらだけどね。
……気配を探ってみたけれど今の所いないみたい。
「ファルス、川の中に落ちているのかな?」
「どうなんだろうな。多分そうじゃないか?」
「いつもの適当な情報じゃ困るわよ」
「いいじゃないか。時間はあるんだし、探してみようぜ」
私たちは立ち上がると手分けして川の中や周辺を手探りで探し始めた。
探す物は落ちている魔石。宝探しと称した遊びをウキウキしながら二人でしている。
「これは小さな魔石ね。キラキラしているわ!」
私はいくつかの小さな魔石を拾い袋に入れていく。ファルスも同じようにいくつか拾っているみたい。
「小さい物ばかりね。大きい物はもう取りつくされてしまったのかも」
「そうかも知れないな。まぁ探検を楽しむことも出来た事だし、そろそろ帰るか」
「ええ」
そうして私たちが帰ろうとしたその時、魔物の気配が風上から匂いと共に降りてきた。
それまでの雰囲気が一変し、緊張感が生まれる。
私もファルスも口を閉ざし、頷き合って一歩また一歩と後ずさるように静かにその場から移動しようとしたのだが、魔物は私たちの気配に気が付いたようでガサガサと草むらから私たちに向かって飛び出してきた。
「ファルス、ビッグベアだわ」
「チッ。やっぱり魔獣か。このサイズじゃ家に持って帰るのは面倒だな」
「少し大きいわね。二人で引きずって帰れば大丈夫じゃない?」
「仕方がないな」
すぐに戦闘態勢に入り、ファルスはファイアボールをビッグベアへと投げつける。私は身体強化を掛け、ビッグベアが怯んだ所で首めがけて剣を振り下ろし、頭を切断する。同時にファルスも心臓を目がけて横へと回り込み剣を突き刺した。二人の攻撃でビッグベアは動かなくなった。
「ふう、倒せたね。ファルスありがとう」
「あぁ、思ったより簡単に倒せて良かったよ」
話をしつつ、私たちはビッグベアを倒した事で安堵から油断していた。
ビッグベアに縄を掛けていた時、ガサリと草むらから魔物が出てきた。私たちはビッグベアに気を取られていたので不意を突かれた形となった。
……グレートスネークだ。
獰猛な上、素早く執拗に攻撃してくるため、あまり相手をしたくない相手だ。
ファルスが身構えるよりも先にグレートスネークの尻尾が早く、ファルスを叩きつけ、ファルスを吹き飛ばした。
「ファルス!」
私はファルスを心配しながらグレートスネークを睨み、剣を向け牽制しつつどう攻撃しようか考える。よく見るとグレートスネークは所々鱗が剥がれ、片目も怪我している。
誰かに攻撃されて逃げてきた?
手負いの獣は更に狂暴化し、危険度が増す。身体強化し、魔法を使って退治するしかないのか。
私は剣を握り直し、切りかかろうとした瞬間。どこからか【アイスランス】の呪文と共にいくつもの氷の槍がグレートスネークを貫き、グレートスネークはそのまま息絶えた。
「君たち大丈夫だったかい?」
草むらから出てきたのは一人の冒険者らしき男の人。
「私は平気。でもファルスが飛ばされてしまったの」
私はファルスの飛ばされた方向を見る。
「いてててっ。マーロア、大丈夫か?」
「ファルスこそ大丈夫?」
ファルスはお尻をさすりながら歩いて戻ってきた。
「あぁ、受け身を取ったから怪我はなかったけど、着地に失敗してお尻を強打した。グレートスネークめ。……ところでお前は誰だ?」
ファルスが警戒するように冒険者の男に話しかけた。
「私はアレン。趣味で冒険者をやっている。一応これでもランクはAだ」
なんという事だろう。こんな辺鄙な村にAランクの冒険者がくる事は滅多にない。アレンと名乗る冒険者はファルスのお尻に回復魔法を唱えてくれた。
「兄ちゃん、ありがとうな!」
「これくらい当たり前だ。グレートスネークを取り逃がした俺の責任だ。ファルスと言ったな、お前は回復魔法が使えないのか?」
「俺、魔法は使えるんだけどあまり得意じゃないんだ。それに使っても攻撃魔法を使うくらいで回復魔法は苦手なんだ」
アレンはフムフムと頷いている。
「そっちのお嬢ちゃん、マーロアだったか。君はどうなんだ?」
「私? 魔法は使えないわ。魔力無しなの」
そう言うとアレンは眉をピクリと上げ、口を開こうとしていたが、私はその様子からすぐに体内の魔力を消し、話を変えた。
「ファルス、早くビッグベアを持って帰るわよ。皆が心配しちゃうわ」
「お、おう! そうだな。兄ちゃん、じゃあな!」
私たちは冒険者に手を振った後、二人でビッグベアを引きずり、逃げるように急いで森を出る。
川沿いを歩いてきた私たちは楽をするためにビッグベアを川に浮かべ、川の流れに任せるようにビッグベアを村の近くまで運んだ後、ファルスが風魔法で持ち上げながら家に持って帰った。
「ユベール! ビオレタ、レコ。ただいまー」
三人は私たちが持ち帰った魔物を見てまたかという顔をしている。
「お嬢様、また狩りに出かけていたのですか」
「違うわ。今日はファルスと宝探しをして遊んでいただけよ? 途中でビッグベアが出てきたから持って帰ってきたの。綺麗に首を落として血抜きをしてあるわ」
ユベールはちょっと散歩に行ってきましたという感じで魔獣を狩ってきた私たちを見て額に手を当てている。
「大体にして村の者たちも狩りをしますが、こんなに大きな魔獣を狩るのはファルスとお嬢様だけですよ」
「あら、じゃぁレコの教え方が良いからかも。二人であれば楽に狩れてしまうんだもん」
「お嬢様はいつになったらお淑やかになっていただけるのでしょうか。ビオレタは心配でなりません!」
いつものようにビオレタの説教が始まったわ。こればかりはファルスと二人で受け入れるしかない。と思っていると、レコは魔獣を肉屋へと持っていく準備していて、ファルスもそれとなくレコに付いて行ってしまった。
結局私一人が叱られる羽目に。ファルスめっ、後で覚えておくがいいわ!
まぁ、これが私たちのいつもの生活ではあるかな。
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