第50話
「ファルスおはよう」
「マーロアおはよう。今日から学院が始まるなんて憂鬱だな。もっと休みが欲しいところだ」
私とファルスはそう言いながら早朝のトレーニングに励む。そして寮に帰ってから汗を流し、授業に向かう。
また学院での生活が始まった。
「おはよう、マーロア嬢」
「おはようございます。シェルマン殿下、エレノア様」
私たちは臣下の礼を執ると殿下はさっと手を挙げ、エレノア様もごきげんようと挨拶を返してくれる。
「舞踏会の参加、ありがとう。君とガウス侯爵子息とのダンスは素敵だったよ。美男美女のダンスに会場は盛り上がっていた」
殿下もエレノア様も互いに見つめ合い頷いている。
「恐れ多い事です。私は殿下とエレノア様のダンスが素晴らしく感動しておりました」
「ふふっ、マーロア様ったら。褒めてもらって嬉しいわ」
私から見て二人の仲は睦まじい。このまま何もなければ卒業と共に結婚するのだと思うわ。少し羨ましくもある。
私もいつか誰かと結婚して仲睦まじく過ごせるといいな。
クラスメイトと休みの間の出来事を話したりして楽しんだ。
そうして後期の授業も前期とあまり代わり映えのない授業が始まった。
私はファルスと平民食堂でランチ戦争に出掛けたり、イェレ先輩の部屋の物を掃除をしている最中に遊んで備品を壊して大目玉を食らったり、なんてそんな楽しい日々が続いた。
もちろん週末のギルドへは足しげく通ったの。偶にアルノルド先輩から素材が足りないと一緒に狩りに出掛ける事もあった。着実にギルドポイントもお金も貯まって来ている。
そして気が付いたのだけど、私はクラスメイトと違和感なく仲良くさせて貰っている。
他のクラスはというと、魔力無しの侯爵令嬢のイメージが強いらしく(妹や弟のせいが殆どだが)あまり良いものでは無かった。
だが、闘技大会後はどこか違った雰囲気というか、表現しづらいのだけど、冷ややかな、軽蔑したような視線は殆ど感じなくなった気がするのよね。
そして令嬢たちからにこやかに挨拶される事が増えたの。よく分からないけれど、嫌われていないだけマシだと思う事にするわ。
「アルノルド先輩、研究は終わりそうですか?」
「あぁ、全然終わらないな。終わりも見えないな」
アルノルド先輩もイェレ先輩もだんだんと窶れてきている。
私たちには素材を持ってくるしかお手伝いする事が出来ないのが残念なところね。
他の魔術科の先輩たちも同じような感じで目の下にクマを作っている。
「ねぇ、ファルス。アルノルド先輩たちが喜ぶ物ってなにかしら?」
「んーやっぱり素材じゃないか? 珍しい物がいいと思うけど」
「やっぱりそう思う? じゃぁ今週末に少し遠出して珍しい素材を取りに行かない?」
「そうだな。今週末は侯爵様に呼ばれていないから遠出するにはいいな。どこへ行くつもりなんだ?」
ファルスは興味深そうに聞いてくる。
「ヴィロル山の万年氷とか魔女の森にある魅惑の実とか、ドワーフ村の力の水とかどう?私たちで行けるギリギリのレアアイテム」
「中々に難しい所を選んだな。でもまぁ、普段は出回らない代物だし喜びそうだよな」
「でしょう?」
私たちはどこへ行くか考える。
ヴィロル山の万年氷は雪山の奥に特殊な氷がある。純度の高い魔力の帯びた氷で王都へ運んでも溶ける事がない不思議な氷なのだ。
入手困難だと言われている理由は雪山に入らないといけないし、雪山にはスノードラゴンが住んでいる。出会ってしまうとBランク未満の冒険者は生きて帰る事が出来ないと言われているほど難関なものになっている。
魔女の森にあるという魅惑の実は魔女が住んでいるという森にある特殊な植物の実。
魔女の森に入る者は皆生きて帰れないと言われている。道に迷ってしまうという話や森の中で見たこともない強い魔物と遭遇し、逃げ切れないという話もある。
願い事がある場合、森の中を迷わず進むことが出来て魔女に会えるらしいのだが、その後魔女の元を訪れた人々はどうなったのか分からないらしい。殺されたという話も聞く。だが、一方で対価があれば願いを叶えてくれるという話も聞いた。ここも難易度はかなり高い。
力の水はというと、そもそもドワーフの村は何処にあるかもよくわかっていない。
認識阻害を掛けているのだろうと言われている。極々稀にドワーフの村に迷い込み武器を強化してもらったり、村の水を飲んで身体強化して帰って来たりする。
ドワーフたちは気が良いという話らしいが、なんせ村の場所がわからない上、数日程度の学院が休みに見つけるのはとても難しいと思う。
「ファルスはどう思う? 雪山か魔女の森どっちがいいかしら」
「うーん。雪山は寒いし、装備を持っていないよな。魔女の森の方がまだ生存率は高そうだけど?」
「そうよね。対価があればいいらしいし。今回は魔女の森に行きましょう? 対価は何がいいかしら」
「魔女の森に無いものがいいんじゃないか? 魔女が手にしなさそうな代物だろう? 対極にありそうな教会にでも行ってみるか」
「そうね」
私たちは考えた末に魔女の森にいく事にした。授業後、街へ出る申請を出して私とファルスは魔女の森で魅惑の実探しと狩りをする許可を得るために教会へと向かった。
ファルスが『今日は所用のため、魔法特訓はお休みします』と魔法鳥でメッセージを送っている。
魔法郵便と魔法鳥の違いはそれほど無い。まぁ、鳥の方は言葉を届けると消えてしまうが、魔法便は手紙など軽い荷物は送る事が出来る。荷物が大きければそれだけ魔力を消費するんだけどね。
私たちは教会の中へ入りお祈りをした後、周りを見回した。何か良いものはないかなぁと。王都の大聖教会は様々な土産物が売っているんだよね。有難い代物という感じかな。
教会の入口付近にはお守りやハーブ、聖水等様々な品物が売られていた。
その中で一番端にあった品物に気が付いた。
「ファルス、あれはどうかしら?」
「乙女の花? あれって聖女が育てた花ってやつだろう? あんなんでいいのか?」
ファルスはどことなく胡散臭いと思っているに違いない。乙女の花と呼ばれる純白の花は聖女が魔力で聖水を作り出し、その水で育った花という事になっている。
真偽は定かではないけれど。
乙女の花は教会の花として入手は王都の教会のみ、他では手に入らないのよね。土産用なので切ってから魔法で枯れないように加工されている。
私は聖水と乙女の花を数本買って花は可愛くブーケにしてもらった。
「これはきっと魔女が喜ぶわよ。魔女だって女でしょ?」
「どうだかな。こんなもんで喜んでくれるなんて俺は思わないけどな」
あくまでファルスは信用していないみたい。ファルス的には聖女が祈りを込めた髪飾りのような物がいいんじゃないかって考えていたみたい。
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