第77話
私たちはダンジオンさんに改めてお礼を言った後、剣を腰に下げて街の外へ出て北側の森の中を歩いていく。
ブルーローガはカエル型の魔獣で体が大きく額には青い魔石のような石が埋まっている。
魔石のような石は魔石とは違い、魔力を貯めることが出来ない。また宝石とも違って綺麗な色をしているけれど崩れやすい特徴がある。肉質も固く、臭みもあり好まれる食材ではない。
ブルーローガ自体は素早い動きで攻撃してくる。魔力と融和性が高いのか魔法攻撃をするとすぐに倒せるのだが、素材が溶けたようになってしまうなんとも不思議な魔獣なのだ。人気が無いのも手伝って生態も謎が多い。
「マーロア、確かこの辺に巣があったはず」
「前に来たときはあったよね」
「いたわ」
ブルーローガは十頭ほどの群れを成していた。この中の三頭となると難しい。
私とファルスは剣を抜いてブルーローガを急襲する。私たちに驚いたブルーローガは動けずにいた。
鎧の効果のせいかファルスは一瞬自分の動きに戸惑っていたが、すぐに速度調節に慣れたようでそのまま攻撃態勢に入った。
「いまだ!」
ファルスの声と共に斬りつけていく。
「凄い!」
「マーロア、今日は凄いしか言っていないんじゃないか?」
「そうかもね。だって本当に凄いんだもの」
「わかる! この剣で斬るとついつい斬りすぎる」
私たちは会話をしながらブルーローガの頭を刺し、絶命させていく。二匹ほど逃げようとしたけれど、ファルスはその機動力で残りの二匹も難なく倒した。
剣の切れ味と防具の効果を堪能した後、イェレ先輩に連絡を取った。
『イェレ先輩、お待たせしました。今から送りますがいいですか?』
『仕事が速くて助かるよ。今庭に出るから待ってて』
『三頭の予定だったんですが、十頭倒してしまったんです。全部送りますか?』
『助かる! んじゃいつでも送っていいよ』
ファルスは倒したブルーローガを集めて一気にイェレ先輩の元に送った。
『ありがとう! 助かった』
『私たちこそ、ありがとうございます!』
私たちも改めて剣のお礼を言ってから邸に戻った。剣の鞘には自動修復機能が付けられていて多少の傷なら修復してくれるようになっているようで魔獣討伐によく出かける私たちにはありがたい。
「マーロアお嬢様、アルノルド先輩から送られてきました」
邸に戻り、従者となったファルスが持ってきたのは先ほど倒したブルーローガの額の石だった。アルノルド先輩が特殊な加工をしてくれているようで崩れることはないみたい。
「綺麗な石ね。これなら装飾品として使えそう」
「アンナ、これをネックレスに出来る?」
「このサイズであれば素晴らしい物が出来ます。すぐにネックレスにいたします。ネックレスに合うドレスも一式作りましょう。早速商会を呼びますね」
「あ、あとでもいいわ」
「いえ、明日には来ますから! 絶対、新しいドレスを作りますからね!」
アンナは石を受けとり、喜んでいる。アンナは私を着飾りたくて仕方がないようだ。
その様子を見てファルスはフッと笑っている。
そうしている間に二年があっという間に過ぎた。
私たちは最上級生になり、サラは去年学院に入学してきた。入学する一月前に侯爵家に帰って来たのだが、我儘は健在でメイドに当たり散らしている様子を時々見かけた。
ただ、いつも甘えていた母が居なくなり、殿下から注意を受けた事もあり、次は無いと思っているのか私に突っかかってくる事は無かった。
そしてサラが過去に行っていた事が未だ後を引いているようで学院には馴染めていないらしく、貴族食堂で一人食事をしている姿を見かける事がある。
こればかりは仕方がないわ。
やらかした事を今更無しにする事は出来ないのだもの。卒業までは厳しい目に晒されると思う。けれど、サラは侯爵家の跡取りではないので卒業を待たずに結婚する手が残っている。
実際、預け先で出会った子爵子息と仲良くなり、嫁に迎えてもいいと返事が来ているらしい。サラも悪い気はしていないらしいので成人すればすぐにでも婚姻するかもしれないわね。王都に残っていても評判の悪い娘を嫁に貰ってくれる貴族なんてたかがしれているもの。
まぁ、その辺は私も同じような感じだけれど。
私もファルスも四年生になり、就職が目前に迫ってきている。結局ファルスは闘技大会を二度目も優勝し、王宮騎士団のスカウトに二つ返事で答えた。
そうそう、一度優勝すると陛下にお願い事を言えるけれど、二度目は無いんだよね。学生だから優勝金もない。ファルスは王宮騎士団に入るのも決まったことだし、賞金がないので今回は参加しないと言っていた。
卒業するまで穏やかな気持ちで過ごせるみたい。
騎士クラブはというと、ファルスは下級生からかなり人気があるらしく、入部希望者が増えたのだとか。
それを見にくるご令嬢たちも増えて騎士クラブは大盛況らしい。令嬢の半数はファルス目当てじゃないかと専らの噂だ。
その話を聞いて消化出来ない僅かな感情に蓋をする。
私はというと、いつもと変わらずアルノルド先輩やイェレ先輩の研究所に入り浸って、週末はファルスとギルド依頼をこなしてついにCランクからの卒業が出来ました!
ここからランクが上がるのが一気に難しくなるのよね。
王都付近の活動ではなく遠征もたまにあるの。そしてBランクまで上がったし、最終学年になり、レヴァイン先生に手紙を送った。
先生は今東部の村にいるらしい。侯爵の許しが出たら一緒に冒険者として様々な地域を見て回ろうと返事が返ってきたわ。
私はレヴァイン先生の手紙を持って父に話をすると渋い顔をしていたけれど、了承してくれた。
私もファルスも夢に向かってもう一息だ。
そしてクラスも最上級生となるとみんな授業も殆ど無いので就職に向けて時間を費やしている。
シェルマン殿下とエレノア様は結婚式に向けて忙しくしているようで学院に来ることはあまりない。
殿下やエレノア様の側近として側に居た方々もほぼ王宮にいるのでクラスはかなり閑散としているのよね。
四年生ともなると卒業試験は希望で早めに受けていいらしい。授業もほぼないので試験はそう難しくはない。
魔術大会で騎士科以外の生徒は研究発表があるので早めに試験を受けて残りの期間は研究に当てる人も多いのだとか。私とファルスは最終学年でやることもないので必然的にギルドの依頼をこなす事になる。
騎士クラブも最上級生は出たり、出なかったり、と出席についてあまり言われることはないようだ。
ファルスは下級生から慕われていて毎日来て欲しいと言われているのだとか。
いつだか『騎士クラブでファルスを待っている人は沢山いるんじゃない?』と何気に聞いてみると『お嬢様は一番の優先事項なのでクラブの事は気にしなくていいです』とあっさり言われてしまったのよね。
ファルスが従者として活動するのは今年が最後。来年からは王宮の独身寮に住むらしい。寮に住んだらイェレ先輩たちが休日にファルスの部屋に入り浸っていそうな気がする。
そう考えながら部屋でファルスにお茶を淹れて貰っていると、アンナが手紙を届けてくれた。
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