第76話

「オットーただいま」

「お帰りなさいませ。お嬢様」

「ファルスはもう帰って来たのかしら?」

「いえ、まだクラブ中だと思われます」

「そう、ファルスを待っている間に湯あみがしたいわ」

「承知いたしました」


 私は部屋で暫く待っていると、湯浴みの準備ができ、ゆっくりと湯あみを楽しむ。

 私が湯あみを終えてゆっくりと果実水を飲んでいる間にファルスは邸に帰ってきていたみたい。従者の服を着て部屋に来たと言う事は急いで着替えたのね。


「ファルスおかえり。久々の騎士クラブはどうだったの?」


 ファルスはニヤリと笑っている。


「あいつらがどうなったのか聞きたかっただけだろ?」

「ふふっ、何のことかしら?」

「今日、久々に行ったら半数も居なかった。一、二年生は厳しくはなかったようで殆どいたが、上級生の半数以上は脱落したっぽいな。騎士クラブに復帰してきた先輩たちは人が変わったような感じだったぜ? どんな修行をしたんだか」


「あら、脱落した人たちはどうなったの?」

「一応まだ騎士科にはいるらしい。ただあいつらって貴族のボンボンが多いから卒業したら領地に戻るかもな。騎士クラブの先生が騎士として働こうにも王宮騎士団の評価は低いから騎士になったとしても役職は望めないだろうって言っていたぞ。俺も騎士団長に直々に鍛えて貰いたいなぁ」


 ファルスにとっては修行に出掛けた先輩たちを心配するより現役の騎士団員と混ざって野営をしたかったようだ。そして騎士団長と一緒に魔獣を討伐するのが羨ましかったのだと思う。


 それにしても半数以上脱落ってどうなのかしら。腑抜けも良いところだ。


「まずはレコに一対一でいい勝負する程の実力が無ければ騎士団長に相手にしてもらえない気がするわ」

「俺もそう思う。レコって一見ひ弱そうに見えてめちゃくちゃ強いんだよな」


「そうね。久々に村に帰ってレコに相手をしてもらったのにあれだけの差がまだあるんだもの。悔しい」


 私たちは村に居る間、レコに指南を受けてきた。覚えたことは忘れない間にやらないとね。


 次の日から自分たちの動きを確認しながら基礎鍛錬を行い、学院で授業を受けてから午後は勉強と王宮通いをする。ファルスは騎士クラブで同級生と騎士団直伝の訓練をする日が続いた。





 そんなある日の午後。


「マーロア、待たせて悪かったね。剣が出来たから取りに来な」

「マージュさん、本当!? すぐに取りにいきます」


 私と同様にファルスにも連絡が来たようでファルスは騎士クラブを休んで私と一緒にマージュさんの元へ向かった。


「どんな剣かな。すっごいわくわくしているの」

「俺も! 王都一の腕前なんだろ? この間、研いでもらった剣だけで魔獣が真っ二つだったもんな」


 私たちはマージュさんの待つ武器屋に入ると、マージュさんはお酒を呑みながら綺麗な女の人と話をしていた。


「マージュ、後は頼んだわ」

「仕方がないねぇ。リディアの頼みだ。出来上がり次第連絡するよ」


 綺麗な女の人は武器の依頼をしていたのかしら? 私たちが待っていると、用は済んだとばかりにさっと出て行ってしまった。


「マーロア、ファルス。待たせたね」


 マージュさんは机の上に置いてある木箱の蓋を開けて二本の剣を取り出した。ファルスにはツヴァイハンダーを基としたような装飾をあしらった剣、私にはハンティングソードを基にし、装飾と刻印があしらわれている剣を渡された。


「凄い! 軽いわっ」

「俺のもだ! 握りやすくて重さもちょうどいい」


 私たちは鞘から剣を取り出して剣身を確認する。初心者用の剣とは違って吸い込まれるような輝きを放っている。


「ファルス、凄いね」

「ああ、これなら何でも斬れそうだ」

「おっと、ここで剣を振らないでちょうだい。危ないからね。裏手の庭に人形があるだろ? あそこで試してみな」


 私たちは剣をしっかりと抱えながら裏庭に出てみた。庭は小さいながらも試し切りが出来るように小さな丸太や甲冑を着た人形、魔法で作られた土人形があった。


「マーロア、斬ってみたら?」

「うん。私はあの土人形を斬ってみるわ。ファルスは騎士なんだから甲冑を着たやつを斬ってみたら?」

「そうする」


 二人でどれを斬るか話した後、早速試し切りをしてみた。


 ……絶句するしかなかった。


 今まで使っていた剣の感覚で力を入れて斬ったつもりがいとも簡単に真っ二つになってしまった。ファルスも同じように一瞬固まった。


「……すげえな」

「……凄いよね」


 二人で凄い、凄いと言いながら何度も試し切りをしているとマージュさんが声を掛けてきた。


「二人とも説明するから工房に入ってちょうだい」

「「はい!」」


 私たちは剣を鞘に仕舞い、工房に戻った。


「切れ味はどうだった?」

「紙のように土人形が斬れて驚いたわ」

「俺も、びっくりしました」


「そうかい、良かった。マーロアはこれから魔獣を主に倒すために使っていくだろうから身体強化に耐えるように装飾を施した。

 ファルスは対人戦を考えて相手の剣を受け止めやすいようここに返しを付けてある。

 魔力を通して一瞬だけなら剣に魔法を纏わせることが出来る。


 使いどころは間違えないようにね。ああ、もちろん学生のうちは闘技大会でこの剣は使用禁止だ」

「「わかりました」」


 こんなに素晴らしい剣を作ってもらって嬉しいけれど、気になったのはお値段。


「あ、あのっ。マージュさん。この剣の支払いなんですけど……」


 ファルスもそれを考えていたようで二人してドキドキしながら聞いてみた。


「お金? イェレの方から貰っているから大丈夫。イェレがこれからも協力してもらうにはこれくらいなら安いもんだってさ。イェレもいい人材を見つけたもんだ」


 イェレ先輩が払ったの!?


 国一番と言われているマージュさんの剣を二本も買ってくれるなんて太っ腹過ぎる。これからもイェレ先輩には足を向けて眠れないわ。


 私たちは細かな説明を聞いた後、早速イェレ先輩に感謝の伝言魔法を送った。


『イェレ先輩! 剣をありがとうございます。まさか支払いも終わっているとは思っていなくて……』

『あれくらい何でもないから。それよりさ、ちょーっと素材が欲しいんだよね。ファルスと取りに行ってくれる? ブルーローガ三頭分ほどの素材が欲しいんだ。あいつらったら魔法で攻撃すると霧散するんだ。騎士団に頼んでも素材はボロボロになるし、困っているんだ』


『ブルーローガですね! 防具も頼んであったのを取りに行ってからでよければ。ここからなら一時間程で巣に着くし、すぐに送りますね』

『ありがとう。助かる!』


「早速、イェレからの仕事かい? 頑張ってきな」

「はい! その前にダンジオンさんのところにイエロードラゴンの皮で装備を作って貰っていたのを取りに行ってきます」

「ファルス、行くわよ! マージュさん、ありがとうございました!」

「気を付けていきな」


 私たちはマージュさんにお礼を言った後、ダンジオンさんのところへ足を運んだ。


「ダンジオンさん、取りに来るのが遅くなりました」

「ああ、ファルスとマーロアか。取りにこんなと思っていたとこだ。準備は既に出来ている。装備していくか?」

「はい。このままブルーローガを狩りに行くんで着ていきます」


 ダンジオンさんは店の奥から二つの装備を出してきた。私とファルス鱗の鎧装備は形は違うが、対になっているような装備だった。


 私の方は機動力を最優先に考えられていて胸当て部分はドラゴンの皮が多めに使われていた。ファルスの装備は剣の衝撃を防ぐような胴当てになっていて薄い金属にドラゴンの皮が貼り付けられている。


 肩当や籠手、腿当の部分はドラゴンの皮が使われていて軽くて強度の高い防具になっていた。そして私には防御力強化魔法、ファルスには機動力強化魔法が刻印されている。


「すごい! 軽いわ」

「ダンジオンさん、これ、凄い。俺の体にしっくりと馴染んでる」

「イエロードラゴンの素材は伸縮性があるからな。二人とも良く似合っているぞ」

「「ありがとうございます」」


「これから討伐に行くんだろう? 気を付けてな。また今度ドラゴンを討伐することがあったら素材を持ってきてくれると助かる」

「わかりました。今度ドラゴンと対峙することがあれば持って帰ってきますね!」

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