第75話

 休みギリギリまで領地で過ごしていたから登校日は私もファルスもぐったりしていたのは内緒。そして午前中の授業を終えて私は王宮へ向かう。


 ファルスは久々に騎士クラブに顔を出すと言っていたわ。帰ってから様子を聞いてみることにしよう。


「アルノルド先輩、イェレ先輩、お久しぶりです」


 私は久々にアルノルド先輩の部屋を訪れた。イェレ先輩は私が来ると分かっていたのか既に部屋でお茶を飲んでゆっくりしていたわ。


「マーロア久しぶりだな。休暇は楽しんだか?」


 アルノルド先輩は研究の手を止めてイェレ先輩の淹れたお茶を手にした。


「おかげさまで久々の実家を満喫いたしました」

「それはよかった。ファルスも元気か?」

「ええ。今度ファルスがお兄ちゃんになるのでとても喜んでいました」

「そうか、今度お祝いせねばな」


 私は部屋をキョロキョロと見渡し、部屋の空いている場所へと歩く。休み前まで私がちょくちょく来て片づけていたからそこまで散らかってはいないようだ。


 足元にある書類を何枚か拾い上げ、机に置いてスペースを確保する。


「アルノルド先輩、イェレ先輩も居る事ですし、ここにお土産を広げてもいいですか?」

「ああ、構わない」

「俺もマーロアたちのお土産を待ってたぞ」


 イェレ先輩は何が出てくるかと興味深げに見ている。私はリュックから村でしか採れないであろう植物の瓶をいくつか取り出す。


 瓶は前もってアルノルド先輩から借りているの。私たちは採取上手だからね!


 そして珍しい小動物。リスのようなモモンガのような小さな生き物。雌雄のセットを捕まえたの。


 これは籠に入れて偶に木の実や魔法で水を器に入れて連れてきた。この小動物はどこにでもいそうで居ないのよ? 小動物は魔獣の暮らす森で生き抜くために様々な知恵や特技が備わっているの。


 このリスのようなモモンガのような生き物に名前はまだない。


 村の家の屋根裏等に住んでいる事が多いのだけれど、瘴気や魔力に敏感で特に魔獣の気配を良く察知してくれる。人とは共存関係にあると言っても過言ではないのかも。


 普段家に住みついていて遠くから魔獣が村に向かっているのを察知して人に教えてくれる。そして二匹のツガイで持ってきたのには訳があって、どれだけ離れていてもツガイはお互いの場所を把握しているようで戻ってくるのだ。


 報酬(エサ)を渡して一匹を連れて森に入り、迷わずに帰る事が出来るという仕組みなの。魔法の使えない村人の生活を助けてくれている動物なのよ。


「この籠の中身は何だ?」


 先輩たちは植物の瓶を手にしながら籠を見ている。


「これはまだ正式な名前のない動物なのだと思います」


 私は籠をそっと開けると二匹の小動物は籠から顔を出してキュッキュと鳴いている。私はこの動物の特性やどうやって暮らしているか飼い方等も話をする。先輩たちは物珍しそうに見ていてイェレ先輩は特に気に入ったみたい。


 ペットとして飼いたいのでアルノルド先輩に譲れって言っているわ。アルノルド先輩も素材は欲しいけれど、ペットを飼う余裕はないとかなんとか。あっさりとイェレ先輩が引き取る事になった。


 イェレ先輩って小動物好きなのね。早速撫でたり、お茶請けに出していたナッツをあげているわ。魔法で小さな水球を出して飲ませたり、甲斐甲斐しく世話している。


「先輩他にもお土産がありますよ」


 そう言いながら瓶に入っている虫や花、狩った魔獣の皮や牙、眼球などを次々と出していく。最後に氷漬けにしたオークを出すと、部屋は一気に狭くなってしまった。


「村で食糧を調達しようと森に入ったら、いつもより多いオークの群れがいて狩ったんですよね。ちゃんと血抜きもしているのですぐに調理して食べられます。新鮮なうちに氷漬けにしたのでとっても美味しいと思いますよ」


「……マーロア。土産がまさかのオークか」


 アルノルド先輩の顔は少し引きつっている。


 まさか肉を出すとは思っていなかったのか。


 そういえば、侯爵家に帰ってきてお土産に部位毎になったオーク肉の塊を渡した時のオットーの顔とよく似ている。


 でも、あっちは肉の塊だからそんなに驚く必要は無かったと思うのだけれど。私は首を傾げた。


「おいおい、自覚なしか。丸のまんま死体出してきたら驚くだろう? 貴族令嬢が可愛い顔してオークの死体を取り出すなんて驚くじゃないか」

「今更ですよ。狩りなんてしょっちゅう行っているし。あ、食用の狩りはドラゴン以外していませんでしたね。村ではこうしてすぐに食べるんですよ」


 驚いている二人をよそにオークを風魔法で部位毎に切断していく。凍っているので強めで魔法を展開し、ブロックに切っていく。そして床に魔法円が描かれている銅板を置き、肉を投げ込む。すると魔法円は凍った肉をジュウジュウと焼き始めた。


 そう、この魔法円。私が独自に開発した肉を焼くようの魔法円なの。素敵でしょう?


「おいっ。人の研究室の床で肉を焼くやつがあるか!? それもよく見ればこの魔法円見たことがないぞ?」

「先輩方凄いでしょう? 私が肉を焼くためだけに作った新しい魔法円なんですよ? もちろん火加減は自動です」

「……色々と残念だ」


 イェレ先輩は手を額に当てている。


「? はいっ、肉が焼けました」


 私は肉に塩を振りかけて用意していた枝に刺してから先輩に渡す。


 この魔法円を作ってからは森でも楽に食事が取れるようになったの。火加減自動だからね。先輩方は不信そうな顔をしながらもハフハフと肉を食べ始める。


 思っていたよりも美味しかったらしい。しっかりとお代わりをして食べていた。


「さて、お土産も渡した事ですし、そろそろ帰りますね」

「あぁ、素材やオークをありがとう。見た目はあれだが、美味しいな。後でゆっくり食べることにする」


 先輩は小さな箱に凍ったオークの部位を詰め込んでいく。きっとこれは時間停止ボックスに違いない。


「貴重な植物も多いしな。俺の研究もはかどりそうだ。ファルスにも宜しく言っておいてくれ」

「わかりました。ではごきげんよう」


 私は歩いて邸まで戻った。帯剣もしているし、一応認識阻害の魔法を使ってみた。治安がいいとはいえ、念には念を、よね。

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