第82話
「お父様、ただいま戻りました」
父はオットーとお茶を飲んでいたようだ。オットーが父と一緒に座って飲む姿を初めて見たかもしれない。オットーは私の姿を見るとすぐに立ち上がり、私をソファに座るように促し、お茶を淹れてくれる。
今日はどことなく父もオットーもリラックスしているような雰囲気だ。
「お父様、無事私もファルスも卒業試験合格致しました」
「マーロアもファルスもおめでとう。今までよく頑張ったな。二人とも四年間特待生のまま卒業出来るなんて凄い事だ。
我が家としても鼻が高い。つい先ほど学院からも連絡が来た。ユベールとビオレタにも卒業試験合格の連絡はしておいた。テオの再教育も順調のようだ。二人には改めて特別報酬を出す予定だ」
「旦那様、ありがとうございます。義父も母も喜びます」
ファルスが礼を言うと、オットーが制服一式を私とファルスに渡してくれた。
よく見ると、公式な場で着る白の騎士服、普段用に着る草色の騎士服。そして私にも同様の服と赤い小さな魔石の付いたイヤーカフがあった。
「お父様、これは」
「明日からの制服だ。今朝、王宮から届いた。マーロアはイヤーカフを受け取り次第、着用するようにと指示があった。常に付けていろとの指示だ」
私はイヤーカフをすぐに身につけると、飾りの魔石に魔力が馴染むような感覚が少しあった。
これはもしかして魔法鳥のような通信が行えるような代物なのかな。明日、団長に聞いてみよう。そして明日から着ていく制服はファルスと同じでバッヂが微妙に違っていた。
私たちは貰った制服を見て明日からの期待に胸を膨らませる。私の職場はもちろんこの場に居る四人しか知らない。
特に私の情報は秘匿情報とするようにと国から我が家へ指示があった。制服を着たらばれるのではと思うかも知れないが、私は魔力無しの一般騎士扱いになっているらしい。
見る人が見ればイヤーカフやバッヂで零師団だと分かるのかもしれないが。
そして父に報告をした後、私とファルスは部屋に戻り、明日からの準備に取り掛かった。と、言っても私は特にする事もないのよね。
ファルスは引っ越しがあるので従者としての勤務時間を早めに切り上げて荷物を纏めることになっている。
「ずっとファルスと過ごして来たから、何だか寂しいわ」
「……そうだな。俺たち生まれた時から一緒だったもんな。マーロア、俺さ、ずっと考えていたんだけど、もし、騎士団長になって爵位を陛下から貰ったら、俺の嫁になってくれるか」
いつになく真剣な表情のファルスに私の鼓動が速くなってくる。
「私がファルスのお嫁さんに? ファルスこそいいの? ファルスなら可愛い令嬢を選び放題でしょう? それに私は魔力なしの女で通っているし、迷惑を掛けてしまうんじゃないかな」
「他の可愛い令嬢なんてひ弱で見栄っ張りでつまらない。俺はマーロアがいいんだ。マーロアと結婚したいと思っている」
「ファルス、ありがとう。私、楽しみに待っているわ。でもファルスを待っている間に私がドラゴンスレイヤーとして名を馳せたらファルスを夫として養ってあげるわ」
「それはそれで楽しそうだ」
私は笑い合いながら引っ越し作業を側で見守った。
因みに零師団の給料は貰えるらしいけれど、スカウト担当&補助の給料は普通の騎士並みなのだとか。レヴァイン先生は零騎士団の給料以外に冒険者としてギルドの依頼もこなすので金持ちだと思う。
翌日、私は父とファルスと三人で城に向かった。三人で通勤するのは初めてだし、ファルスとはこれで最後なの。馬車の中では今までにない雰囲気だった。当面は父と一緒に通勤する事になる。少し緊張するわ。
門を通り、父とファルスに『いってらっしゃい、いってきます』と別れを告げて私は零師団の部屋に向かった。
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