第81話

「ちょっ、リディアさん!?」


 魔獣人とは簡単に言えば、魔獣が何らかの方法で人間の魔法を使う手段を得た時に人型に姿を変えて人間を襲う魔獣の最終形態。


 今まで見たことは無い。殆ど都市伝説レベルで空想上の物だと思われているからだ。


 魔獣人は人間の使う魔法が使え、魔法に対しての耐性も高い。それを剣無しで倒せるものなのか。


 私は不安になりながらも魔獣人に試しにファイアを打ってみた。すると相手もファイアを打ち、相殺している。


 相手は何処まで魔法が使えるのか。私はファイアランスやフレイムボムを唱えると魔獣人も同じように唱えて相殺を図る。


 色々と魔法を試しているけれど、下級や中級の魔法を魔獣人は使いこなしている。かなり厄介だ。上級魔法は殆ど使えないようだが、中級魔法でかなり威力を相殺している感じがする。


 ここは物理的な解決法しか思い浮かばない。


 私は魔獣人を囲む小さな結界を張り、徐々に小さくしていく方法を取った。魔獣人は焦ったように体当たりをして結界を壊そうとしているけれど、結界は壊れない。


 次に凍らせたり、土魔法で結界を破ろうとしていたりしたが敢え無く失敗し、結果は動くことも出来ず死を待つばかりとなった。


 リディアが戦闘の様子を見た後、パチンと指を鳴らすとさっきまでいた魔獣人は光と共に消えてしまった。


「マーロアの勝ちね。正直魔法で倒せるとは思っていなかったわ。因みに、魔獣人は私が団員の訓練用に作ったの。凄いでしょう?」


 うふふと色気たっぷりに話すその仕草とは裏腹になんて怖い物を作るのだろう。流石イェレ先輩のお姉さん。規格外だ。


 とりあえず合格は貰えたようでホッと一息を吐いた。


「マーロアは魔法の技術はかなり高いのね。イェレの下で魔法の訓練していたことも十分役だっているわね。でも、どちらかと言えば攻撃を専門にするより、補助に回るのが良いのかしら」


 リディアさんはさっきの戦闘で細かい部分まで見逃さなかったようだ。イェレ先輩やアルノルド先輩のように魔力が豊富な人は難易度の高い魔法を気にせず使うけれど、元下位貴族並みの魔力しかなかった私には同じことは出来ない。対抗するなら技術で隙を突くしかないのだ。


 その後、リディアさんはここの部屋の使い方を一通り説明した後、零師団本部の部屋へと戻った。


 私はというと、今日の用事はこれで終わったらしい。


 次回は学院試験後に剣術を副団長が見るとリディアさんは言っていた。私はそのまま訓練場から直接我が家へと戻った。


 なんだか疲れたのでそのままベッドに入って眠ってしまいたかったんだけれど、明日の試験は待ってくれない。


 思い出したように団長さんから貰った書類に目を通した。


 ……これは明日の卒業試験の解答だわ。


 明日の試験に絶対落ちるなって事なのね。完璧なズルだ。まぁ、問題は簡単なようなので見なくても落ちる事はなさそうな問題ばかりで心のモヤを晴らしてくれる。


 父には明日、学院の卒業試験を受ける話と少し早いが王宮勤務になる事を報告したの。


 ファルスはというと、私と一緒に試験を受け、合格したらそのまま王宮騎士団に入団する事になっているのだとか。


 そこは王家の方で私たちの事情を考慮してくれているのね。


 優秀な人材は絶対手放さないという事なのかもしれないけれど!


 父はもちろん、オットーも喜んでくれた半面、とても心配しているようだった。父がファルスもユベールとビオレタに報告するようにと言っていた。





 ―迎えた学院卒業試験。


 私もファルスもどことなく朝から緊張している。今日は万一の事を考えて馬車登校にしたの。昨日、貰った書類を馬車の中でこっそりファルスに見せると『流石零騎士団だよな。絶対合格しないと駄目なやつだ』と笑っていた。


 学院に到着後、クラスとは別の部屋へ呼ばれて試験をするようだ。どうやら今回は学院長が直々に私たちの試験監督をするらしい。学院長を目の前に緊張しつつ、試験を解いていく。


 試験自体の難易度はかなり低かった。そして貰った書類のままだったのにも苦笑するしか無かったわ。


 この問題と答えをどうやって手に入れたのかな? そんな考えをしながら全問解いていった。


 解答用紙に答えを書き終えると、その場で学院長が丸付けをしてくれる方式らしい。回収して後日結果報告になるものとばかり思っていたのにちょっと意外だった。ファルスも私と同じく書き終えて学院長へ解答用紙を渡して結果を待つ。



 しばらくすると学院長が採点を終え、私たちに満面の笑みを浮かべた。


「マーロア・エフセエ侯爵令嬢、ファルス君。卒業おめでとう!!」


 私もファルスもほっとしながらも喜びを分かち合う。


「「学院長先生、ありがとうございます」」

「君たちは入学試験の時から儂は注目していたが、二人とも良い成績を収めていた。それに闘技大会でも目が離せなかった。

 本当に学院自慢の生徒であった。これからは王宮でその才能を遺憾なく発揮しておくれ。

 卒業証明書は後日エフセエ侯爵家に送っておこう。そして本来の卒業式と卒業パーティには出席するようにな」

「はい。学院長先生、この四年間ありがとうございました」


 私たちは学院長先生にお礼を言ってクラスへと向かった。やはり今日もクラスは閑散としていたが、私とファルスはクラスに置いてある私物を引き上げてクラスメイト一人ひとりに挨拶をするとみんなおめでとうと声を掛けてくれたわ。



「ファルス、来週から王宮の寮住まいなのでしょう? 荷物は大丈夫なの? 手伝うわ」


 ファルスは私と自分の荷物を抱えながら笑っている。


「大丈夫だ。身体強化や風魔法で荷物も楽に運べるしな! それにアルノルド先輩から貰ったリュックもあるから一回で済むかもな。俺、荷物少ないし」


「そう、ならいいんだけど。なんだかちょっと感慨深いわ」

「そうか? 俺はあんまり実感湧かないけど。まぁ、目指すのは騎士団長だ」


「そうね。私も当分は王宮通いだからお互い同じ職場だし、アルノルド先輩もイェレ先輩も居るし寂しくないよね」

「そうそう。寂しくなったらいつでも来いよ。俺、寮だけど!」


 私たちは笑い合いながら邸に帰ってきた。すぐに父の執務室へ今日の事を報告しに行く。


 ファルスは邸に入ってすぐに待っていた使用人に荷物を渡して私と共に父の執務室へと向かった。

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