第80話
翌日は指示通り、いつものように学院に登校し、ファルスと共に職員室へと向かい、卒業試験を受ける話をした。すると、先生も就職に向けて王宮から試験を受けさせるように指示があったようで明日試験を受ける事になった。
え!? 早くない? って思ったのは私だけではないはず。ファルスもちょっと引いていたわ。
そしてファルスも一緒に試験を受ける事になった。急に決まった試験が心配で一刻も早く家に帰りたいけれど王宮に呼ばれているんだった。
先生は試験の範囲を大まかに教えてくれた。
私はファルスと途中で別れて王宮へと向かう。ファルスは家に帰ってから試験勉強するらしい。悔しいけれど仕方がない。
王宮ではいつものように従者が案内してくれたけれど、陛下の執務室前で従者は『私はこれで』と引き返して行ってしまった。
えぇと、執務室横の部屋……?
私はキョロキョロと見回すけれど、それらしき部屋は見当たらない。少し悩んだが、これはもしや隠ぺい魔法で隠されているのかな?
私は疑いながら普段押し込めている魔力を目に纏わせる。すると壁の一部がヒビのようなものが見えた。
王宮の壁にヒビなんて放置しているわけはないよね?
ヒビは小さな凹凸があって触ってみると、扉の形がうっすらと浮かび上がった。
凄い!
こんな仕掛けがあるなんて!
私は恐る恐る扉をノックしてから開けた。他の人たちからすれば魔力を持っていても発見しづらいのではないだろうか。
「よく来た。マーロア・エフセエ侯爵令嬢」
私が部屋に入った途端、バタンと扉は閉まった。
部屋の中は思っていたより広くて一番奥に一人、左右に二人ずついて椅子に座ったり、机に腰かけたりしていて、全員が私を見ている。
どうしよう。と、とりあえず挨拶よね。
「初めまして、私マーロア・エフセエです。この度陛下の命により零師団に入団する事になりました」
私は騎士の礼をすると、真ん中に座っている一番偉いと思われる男の人が口を開いた。
「登城してすぐにこの部屋を見つけるとはやはり君はレヴァインが見込んだだけのことはある。マーロア・エフセエ、君がここに来ることを今か、今かと待っていたよ。私はこの零師団の団長を務めるジェニース・マンフレードだ。宜しく」
そう挨拶した零師団の団長は暗部の担当だと言う。小柄な感じの男性であった。けれど、彼からは何か違和感を覚えた。
その違和感がマーロアには何なのかよくわからなかったが、この人を敵にしてはいけないと本能が訴えている。
そして団長の横で机に腰かけている副団長のマルコ・クッキさん。
マルコさんも暗部担当らしい彼の印象は瘦せていて笑わない男のような感じ。そして部屋に居たもう一人の男の人はヘンドリックさん。彼は零師団の事務担当。
人が居ない時には暗部の人員として駆り出される事があるらしい。優しいお兄さんという感じだわ。
後の二人はイレインさんとリディアさん。この二人も密偵や暗部の活動をしているらしい。お色気ムンムンだ。そしてこの場に居ないけれど、零師団員は大隊程度の人数が所属しているらしい。
普段の仕事は影のように目立たない姿で情報収集や平和維持活動をしているけれど、いざという時は第零騎士団として武力の行使をするのだとか。
他にも準団員と呼ばれる人たちがいて普段他の人と変わらぬ生活をしながら活動している人もいるらしい。
「さて、団の紹介が終わった所でマーロアには団員としての訓練を行っていく。君は魔力の無い侯爵令嬢だったな。レヴァインから聞いている。
魔力を極限まで隠せるその能力をレヴァインは高く評価していたぞ。そのまえに魔力がどの程度あるのか調べなければならない。ここに手を翳してくれ」
そう言ってジェニース団長は机の上にあった水晶が埋め込まれた特殊な板のような物を私に差し出した。
「ジェニース団長、これは?」
私は差し出された物をどう使えばいいか分からず、団長に聞いた。
「あぁ、これは零師団特製の魔力量を測る装置でな。普通は水晶に手を翳して光の強さを見て人が判断するんだが、それでは誤差が出てしまうだろう? それを防ぐための画期的な装置なんだ。
数年後には神殿でも使われるようになるかもしれん。操作は簡単だ。水晶に手を置くと、マーロアの魔力に反応し、水晶が光る。その光を感知した特殊な金属が動き、数値の部分まで矢印が移動する。我々はその数値を読む」
そう教えられて私は言われるがまま水晶に手を置いた。すると水晶は光り始める。
私に当時の神殿の記憶はないけれど、こんな感じで本来なら光っていたのかしら。すると、装置の矢印は八という数字を指した。
「ふむ。中々いい数値だな。そうだな、まず魔法がどこまで使えるかどうかだな。リディア、ちょっと訓練場で調べてくれ」
「分かったわ」
リディアさんがそう言って立ちあがった時、
「マーロア、これから学院卒業まで毎日此処に来るように。そして基礎訓練を行う予定だ。卒業試験は明日だろう? これを渡しておく」
「? 承知致しました」
私は渡された書類を受け取り、そのまま鞄にしまいジェニース団長に一礼してリディアさんと一緒に訓練場に向かった。
私たちが向かった零師団の訓練場は王宮にある客室の一室。
流石にこれには私も驚きを隠せないでいた。普通、王宮騎士団は屋外で剣や魔法の訓練するからだ。零師団もどこか離れた場所ですると思っていたのに室内だったのだ。
「リディアさん、ここ、室内ですよ?」
「えぇ、そうね。大丈夫よ。零師団オリジナル強化結界が張られているから多少の事ではビクともしないわ。
さて、マーロア、普段は学院で勉強して、週末はギルドへ行っているみたいだけれど、どの程度魔法が扱えるのかしら? イェレの下で魔法の勉強もしていたんでしょう?」
「イェレ先輩の事をご存じなのですか?」
「えぇ、良く知っているわ。だって私の弟だもの」
!?
なんという事でしょう。私は驚きで言葉が出ず、固まった。
「ふふっ。イェレはずっと学院でとっても退屈そうに過ごしていたのに可愛い後輩が出来たって喜んでいたのよ? もう一人の、貴方の従者の彼。彼もしごき甲斐があるって。
弟がそんなに喜ぶような後輩なら是非私も上司として可愛がってあげないとね」
リディアさんはそう言ってうふっと微笑んだ。
「リディアさんは家名を名乗っていらっしゃらないのですね。零師団の方は皆様そんな感じなのですか?」
「んー、そうねぇ。団長を含めて零師団の人たちは基本的に偽名で名乗るの。けれど、名の知れた人は本名で名乗っていて、零師団所属という事を隠しているわね。きっとマーロアも学院卒業したらギルドで使っているロアという名で過ごす事になると思うわ」
私がギルドで使っている名前を知っているのね。流石よね。調べた情報は全て頭に入れているのよね。
「さぁ、そろそろやるわよ? 今から魔獣を出すから魔法で倒してね」
リディアさんはうふふと微笑みながら指をパチンと鳴らす。すると、部屋の中央に魔法円が浮かび上がり、魔獣が現れた。
……魔獣人!?
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