第79話

「失礼します」


 執務室に入ると、いつものようにオットーと父は執務をこなしていた。


「お呼びですか? お父様」

「マーロア、先ほど王宮から来た手紙のことだが――」

「お父様、ファルスが同席しても?」

「あぁ、ファルスなら他の者に話さんだろう? ファルス、ここだけの話だと心に留めておけ」

「承知致しました」


 ファルスは父の言葉に従者の礼を執った。


「マーロア、どういう事か説明してもらわねばならない。マーロアに陛下直属である王宮騎士団第零師団の入団案内が来た」


 王宮騎士団第零師団? 第零師団は謎も多く暗部の者もいると言われている部署。


 先程陛下が言っていたのは第零師団の事だったのか。父に直接入団の届がきているのね。


 いつまでも父に隠す必要はないと思っていたけれど、今が打ち明ける時なのだと感じる。


 父にはどう受け止められるだろう?

 また捨てられるの?

 嫌がられる?

 嘘を付いていたと叱られる?

 それとも令嬢として嫁げと言われてしまうの?


 不安になりながらファルスに視線を向けると、ファルスは真面目な顔で頷いている。

 きっと打ち明けるなら今だと彼もそう思っているのかもしれない。


 私は覚悟を決めてふうと一息吐いた後、父を見ながら口を開いた。


「……お父様。私が第零師団と呼ばれる部署に声が掛かったのには理由があるのです」

「理由とはなんだ?」


 私はそっと右手から水球を出して浮かばせる。すると父とオットーは目を見開き、私の魔法を凝視している。


「ま、マーロア、いつから、魔法が使えるようになったんだ?」

「五歳の時だったと思います。村に出た魔獣をファルスと見に行った時に魔獣が私たちに向かって来て、身を守るために咄嗟に魔法が出たのです」


 父は驚きを隠せないでいるようだった。


「ど、どうして報告しなかった? ユベールからは何も聞いていない」

「お父様、ユベールを叱らないで下さい。口止めしたのは私なのです。ずっと村で生活していて神父様から『教会が判定を間違えるはずはない。これは神の思し召しだ』と。

 魔力無しの判定をされたのはきっと理由があるに違いないので黙っているように言われたのです」


「……そうだったのか。だがなぜ陛下がマーロアに魔力があるのを知っているのだ?」

「それは、闘技大会で知ったのだと思います。魔力量の多い王族や、一部の魔術師の人には他の人の魔力を見る力があるらしく、シェルマン殿下や陛下は私を見て気づかれたのだと思います」

「それで舞踏会で殿下の護衛を引き受ける事になったのか」


 父は点と点が繋がったかのような腑に落ちた顔をしている。


「そうですね。私は女であり、魔力無しと思われているので敵は油断しやすく適任だと判断されたようです」

「……そうか。マーロアが魔力持ちだと知っているのは他に誰かいるのか?」

「村ではユベールとビオレタ、村の神父様とファルス、レコですわ。後、レヴァイン先生、アルノルド・ガウス侯爵子息、イェレ・ルホターク子爵子息と、武器屋のマージュと防具屋のダンジオンと王族です」


 よく考えると知っている人って結構いることに気づいた。


「マーロアから教えたのか?」

「ユベールたちは家族ですから自分から教えました。後の方は私が魔力持ちだと気づいた感じです」

「そうか。どれくらいの魔力量があるのか調べたのか?」

「いえ、魔術師のイェレ先輩の話では下位貴族の平均程度だったようですが……」


 私は言ってからマズイと言葉を濁し、視線を反らすとファルスと視線があった。ファルスはあーあ、言っちゃったよと言わんばかりの視線を送っている。


「下位貴族の平均程度だったが……? その後があるのか?」

「はい。詳しくは言えませんが、魔獣討伐をした時に木の実を持ち帰り、先輩方と一緒に食べたのです。その後、体に変化があり、現在は上位貴族並みの魔力を保持しているようです。詳しくは調べていないのでわかりません」

「そうか」


 父は何やら考え事をしている。今まで魔力無しだと思っていたのに上位貴族並みの魔力持ち。思うところは沢山あるのだろうと考える。


「お父様、王宮から呼ばれたのはこの件でした。当初、陛下に殿下の側近になるよう話を受けましたが、対外的に魔力無しの私が殿下の側近になると侯爵家の力でねじ込んだと思われ、評判が落ちると思い断りました。

 ですが、陛下はそれを分かった上で第零師団を勧めたのだと思い、お受けいたしますと返事をしました」


「だが、第零師団は隠された師団だ。危険な任務が伴うのではないか」

「陛下からはレヴァイン・アシュル様の補佐に就くように指示を受けております。冒険者としての活動をしながら、国内にいる優秀な者を見つけるようです。

 私は冒険者になるのが夢でしたし、レヴァイン先生の下で働けるのなら第零師団に入ろうと思っています」


「……そうか。分かった。侯爵家としても陛下から直接命を受けて働く事に反対する事は出来ない。送られてきた書類にはサインをしておく。だが、あまり危険な事はしないで欲しい。これでも心配している」


 私は満面の笑みを浮かべて頷いた。


 いつから仕事になるのか、どういったお仕事なのか、レヴァイン先生が迎えに来てくれるのかな。


 父の心配を他所に私は既に仕事に夢を馳せていたら後ろからトントンと肩を叩かれて振り向くと、ファルスが苦い顔をしている。


 ハッと我に返ると父たちは私を見て呆れている感じだ。


「まぁ、とにかく。無理はするな」

「はい。お父様」


 そうして私たちは部屋へと戻った。


「マーロア、第零師団入団おめでとう。この事だったんだな。零師団って陛下の影もやっているんじゃなかったっけ?」

「謎が多いわよね。私も詳しく聞いていないの。ただ決まっているのはレヴァイン先生と一緒に冒険の旅に出て新人のスカウトをするという事らしいわ」

「いいなぁ、俺もマーロアたちに付いていきたい」


 ファルスはとても羨ましそうに言う。


「でもファルスは騎士団長になるのでしょう?」

「そうだな! 俺は騎士団長になる事が最優先事項だしな。たまの休みにマーロアと狩りをして息抜きするのがいいんだよ」


 そこから二人で少し雑談した後、連絡があるまでゆっくりと過ごした。


 王宮からの手紙が来てから数日後、父は王宮に零師団への入団契約書を提出し、無事受理されたようだ。


 陛下の方は待ちに待ったという感じだったようで、夜寝る前に魔法鳥(陛下特別バージョン)が窓をコツコツと鳴らして部屋に入ってきた。そして私の手に触れるなり手紙へと変化した。


 これは今までに見たことがない魔法便だ! と一人部屋で感動したのは内緒ね。流石王族。手紙の封を開けると、そこには明日からの予定表がざっくりと書かれていた。


『早急に学院の卒業試験を受けるように』って書いてあるわ。卒業後に職場に行くのではないようだ。


 明日、学院後に王宮の陛下執務室横の部屋へ直行せよ?? 陛下執務室の横に部屋なんてあった? そう思いつつ、この日はベッドに入った。

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