第83話 ファルスと侯爵
―ファルスが王宮の寮へ引っ越しをする前日―
俺は夜に侯爵の執務室へ呼び出された。
部屋に入ると、侯爵はソファへ座っていてオットーさんがブランデーを注いでいた。
「ファルス、学院卒業前に王宮騎士団に入団することになるとは侯爵家としても鼻が高い。今後も君の後ろ盾として我が家の名を使うといい」
「侯爵様、ありがとうございます」
「ところで、ファルス。マーロアと婚姻する気はあるのか?」
侯爵の突然の言葉に俺は固まった。
「ど、どういうことでしょうか」
「オットーやマリスからも聞いている。お前はマーロアのことを慕っているんだろう? ビオレタは元伯爵令嬢だ。父親も貴族。血筋はなんら問題ない」
「父のことをご存じなのですか?」
「ああ、知っている。ビオレタから聞いていないのか?」
「母からは父に手酷く捨てられたと聞いたくらいです……」
父が貴族だというのはイェレ先輩の話ぶりから分かっていた。きっと父は王宮で働いているのかもしれない。
騎士なのだとしたら必ず会うことになる。母に辛い出来事を思い出させるのは気が引けるが、やはり母からしっかりと聞いておかないといけないと思っている。
「そうか。なら私から君の父について話すことはしない。だが、君が騎士になると必ず父親の問題が出てくるだろう。君がマーロアを望むのであればそのあたりもきっちりと解決しなければいけない」
「私はマーロア様を妻として望みたいです。そのためには父と向き合う必要が出てくるということですね。ですが、父のことが解決したとしてもマーロア様を迎え入れる爵位がありません」
「シェルマン殿下とイェレ・ルホターク子爵子息、アルノルド・ガウス侯爵子息が君のために動いていると聞いているが?」
侯爵は殿下達の動きを知っているようだ。
「イェレ・ルホターク子爵子息とアルノルド・ガウス侯爵子息からは研究に協力してくれたら騎士団長になるための推薦人になってくれると言われました」
二人には最初から俺がマーロアに惚れているとバレていた。俺が騎士団長になった暁には闘技大会の約束として爵位が貰える。
そうすればマーロアを妻に迎えられるはずなんだ。
シェルマン殿下には側近に迎えたいと何度か言われたけれど、俺がマーロアと婚姻するための条件を話すと納得し、応援すると言ってくれた。本当に心強い。
「私はこれから父のことを解決した上で騎士団長になり、マーロア様の憂い事を無くすよう誓います」
「無理はするな。何かあれば私を頼りなさい」
「侯爵様、ありがとうございます」
俺は侯爵様に礼をして部屋を出た。明日から一足先に騎士団に入団する。より一層気を引き締めていかないとな。
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