第84話

「おはようございます」


 扉を開けて挨拶すると、ジェニース団長とマルコ副団長が執務をこなしていた。どうやら今日は皆外に出ている様子。


「マーロア、おはよう。早速だが今日はマルコに剣術を見てもらってくれ」

「承知致しました」


 団長は顔を上げる事無くそう指示を出した。机に積み上げられた書類の山が凄い事になっている。書類の山を目の前に鬼気迫る表情の団長は少し怖いわ。


 反対にマルコ副団長は涼しい顔で書類を捌いているけれど、加速魔法を使っているため手の動きが見えないほど素早い。


 そして副団長は涼しい顔のまま手を止めて私と訓練場へと向かった。


「マーロア、これから学院の卒業式まではここの零騎士団へ勤務となるが、卒業式が終わったら君はレヴァインの元へ向かう事になる。そこまでは理解しているな?」

「はい。ですが、なぜ学院の卒業式が関係するのでしょうか?」

「それは団長の配慮だろう。生涯に一度きりの卒業式だ。冒険者としてレヴァインの元に付けばしばらく王都に戻ってこられないと思って居た方がいい」

「なるほど」


 私は納得し頷いた。確かにそうよね。


「現在、我々はマーロアと呼んでいるが、これからは冒険者としての活動を表にするのだからロアと呼ぶ事になる。普段はレヴァインの指示に従ってもらうが、緊急の呼び出しがある場合は君の付けているイヤーカフから連絡を取ることになる」

「どのように使うのですか?」

「魔石に触れてから魔力を流せばいい。団員たちにマーロアの声が届く」


 マルコ副団長は試しにとイヤーカフの魔石に触れながら話し始めた。すると、私の耳元で声がクリアに聞こえてくる。


「これは団員全員に声が届くのですか?」

「あぁそうだ。魔法鳥や魔法便と違って瞬時に声が届くが、イヤーカフ装着者全員に声が届くので使い勝手は悪い。今後の改良次第で望んだ相手と話せるようになるかもしれんな」


 なるほど、何十人に声が届くとしたら色々と大変そうね。


「さて、ロア。君の剣がどれだけ使えるか見ておきたい。剣を構えてくれ」


 マルコ副団長はそう言うと、帯剣していた剣を鞘から引き抜いた。先ほどとは打って変わり、マルコ副団長からは威圧を感じる。手を抜いてかかれば直ぐに返り討ちにあいそうだ。


 私はマルコ副団長の間合いから出るように後ろへ下がりながら剣を抜く。


 少しの睨み合いが続いた後、マルコ副団長がフッと勢いよく私の間合いに入ってきて斬りかかる。


 私は躱しながら反撃に出た。しかし、その攻撃も上手く躱される。そして今度は私から斬りかかり、マルコ副団長が受け止める。


 何度か繰り返した後、私が攻撃し、彼が剣で受け止めた時、私はそのまま素早く足払いをするが避けられた。けれど、その瞬間に片手で隠していたダガーを投げる。


「ふむ、終了だ。君は投擲もするのか。器用なもんだ。腕は良いが、ダガーは変えた方がいい。さぁ、部屋に戻るか」


 マルコ副団長は剣を鞘に戻し、私を待つ。私は突然の終了に少し拍子抜けしながらも剣を納めてから壁に刺さっているダガーを引き抜いて装備しなおした。投擲にダガーは向いていないのかな?


 このダガーは対魔物用なのでナイフ部分が他の投擲部分より大きいのかもしれないし初心者用の物だしね。そろそろ買い替えてもいいように思う。


 部屋に戻った時、私の机が用意されている事に気づいた。

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