第36話

 持ってきた携帯食はモソモソしていてやはり美味しくない。上位ランクの冒険者となると、食事となる魔物や生き物を仕留め、料理して食べる人がいるらしい。


 私にはまだ無理そうな感じ。野宿初心者は携帯食で過ごすしかない。


 これも経験よね。こうやって練習していけば学院卒業した後に戸惑う事なく冒険者になれる気がする。


 そんな事を考えつつ、火の番をする。魔物避けの香が切れたので新たにまた火を付けてファルスと交代する。香の切れる時間が交代の時間と決めていたので私はすぐにテントに入って清浄魔法を唱えてから眠りについた。


 思っていたよりも疲れていたみたいですぐに眠ってしまったわ。


 翌朝、早くに目覚めると先輩は元気に準備運動をしていた。ファルスものそのそと起きてきた。3人で今日の動きを確認しながら携帯食を食べながら話をする。


「先輩、今日も採取中心ですか?」

「いや、今日はギルドの依頼を中心にしていこうと思う。今日で狩りが終われば近くの村に一旦帰ろうかとも思っている。そうだ、2人とも研ぐから剣を出してくれ」


 アルノルド先輩が何か砥石のような物をリュックから取り出した。私たちは少し不安に思いながらアルノルド先輩に剣を渡すと、先輩は気にした様子もなく、詠唱しながら剣の柄から剣先に向けてさっと砥石を一度滑らせた。


 すると、あら不思議。新品のような輝きになった。

 日頃から剣は自分たちで研いでいるのだけれど、ここまで上手にはまだ研ぐ事は出来ないでいる。


「アルノルド先輩凄い! どうやったんですか!? 俺の剣、少し刃こぼれしていたのに」

「あぁ、修復の魔法と砥石の力だ。ファルス、君は少し剣に力をかけすぎだ。この剣は叩き切るのが得意なんだろうが、もう少し労わってやるべきではないか? その点マーロアの剣は丁寧に使われているな」

「先輩、俺にその剣の修復術を教えて欲しい、切実に!」


 ファルスが興奮している。確かに私も驚いたわ。だってこんな魔法をレヴァイン先生は使っていなかったんだもの。修復の魔法は上級生になると覚えるのかしら。


「ん? 修復魔法? 三年生位で覚えるぞ? あぁ、だが剣の修復は魔力の調整が難しいんだ。修復にムラが出来やすいから鍛冶師や錬金術師を目指すくらいのやつしかやらないぞ?」


 そう聞いてファルスはがっくりと肩を落としている。私なら出来そうな気がする。魔力のコントロールは得意だし。


 後で安い剣を買ってやってみようかな。まぁ、確かに皆が普通に修復出来ていたなら剣は売れないわよね。修復にムラが出来ると剣は折れやすくなりそうだし、そんな危険な橋は渡りたくないわよね。


 先輩は事もなげにやってのける。凄いわ。私は改めてアルノルド先輩を尊敬する。



 さっくりと終わった朝食の後、テントを仕舞ってから依頼の魔獣を狩りに私たちは歩き始めた。


 因みに私たちは森の中をどう歩いているのかよくわからないのだけれど、先輩は位置をしっかりと把握しているらしい。


 自作の地図で自分たちの進んでいる場所が示されていてしっかりと分かるのだとか。流石先輩。そして私たちはボアやキングベア、ブラックウルフ等依頼書の魔獣を狩っていった。

 思ったよりも敵に合う数が多くて昼過ぎにはあっさりと終わったわ。




 そろそろ一番近い村に帰ろうとなり、私たちは村に向かって歩いていると、イエロードラゴンに出会ってしまった。


 ……どうしよう。


 一瞬にして私たちに緊張が走る。


 ドラゴンは色により強さが違うのだけれど、総じて他の魔獣より強いのが特徴なのだ。一番弱いと言われているこのイエロードラゴンでさえBランクの冒険者が二人以上で倒す事を推奨されているほどだ。


 今の私たちでは難しいかもしれない。

 逃げるしかないわ。


「全力で撤退する!」


 アルノルド先輩が声を張り上げ、私たちは逃げようとしたのだが、どうやら相手は私たちの事を逃がしてはくれないらしい。


 大きさはビッグボア位なのだが、とにかく素早いし火を吐く。


 そして尻尾は強靭であれに当たるとダメージは大きい。私たちの逃げる方向に素早く回り込まれた。


「チッ。やはり逃げ切れないか。マーロア、ファルス! 全力で攻撃するしかなさそうだ」

「「了解」」


 私とファルスは頷き合う。


 一応、今日まで狩っていた敵は魔法を使う事無くサクサクと倒していたのだが、これは形振り構わず本気で倒していかなければいけないと肌で感じた。


「先輩、足止めを」

「分かった」


 ファルスは先輩にそう声を掛けると、威嚇しながらも剣に炎を纏わせた。


 私は全力で身体強化を掛ける。アルノルド先輩が氷魔法でイエロードラゴンの足を凍らせると、一瞬だがドラゴンの気が逸れた。


 それを合図にファルスは全力で尻尾を切る。


 私は飛び上がり上からドラゴンの首を狙う。先輩は私たちが動いた隙に剣に氷を纏わせて魔石のある身体の中心部に剣をいれる。


 流石に硬くて一度では上手く切り落とせ無かったが、尻尾の攻撃は出来ない程のダメージを与えたようだ。


 首は避けられたが、右目を潰す事には成功し、魔石に近い硬い皮膚の部分は切られて凍結している。


 三人の全力攻撃はイエロードラゴンに大ダメージを与えたようだった。


「マーロアは右から。ファルスはそのまま斬り込め」

「「はい」」


 アルノルド先輩の指示通り私たちは全力で切り付けていった。二度、三度と斬りつけ、ようやくイエロードラゴンの動きが止まったところで私は首を刎ねる事が出来た。


「先輩! やりました!」

「凄いな、君たちは。Aランクまでサクサクと進んでしまいそうだな」

「ドラゴンは初めて遭ったのですが、噂通り強かったですね」


 突然現れた強敵に三人とも緊張していたが、安堵したせいか口数は多くなった。


「マーロア、ファルス。イエロードラゴンの素材は欲しいか?」

「素材は要りません」

「俺も要らないです。あ、ドラゴンステーキって美味しいって聞いたんだけど、こいつも美味しいなら食べてみたい」

「そうだな。このドラゴンの肉も美味しいと聞いたことがある。貴重なドラゴンの素材を貰ってもいいか? 代わりに後で何か作った物を渡すから」


 先輩はそう言いつつ、私たちの話を半分上の空で聞いている。先輩はドラゴン素材を使って錬金をする事に意識が飛んでいるようだ。

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