第37話
イエロードラゴンは一番弱いドラゴンとはいえ、素材は貴重ならしく、中々手に入らない代物らしい。
血液が固まる前に、と先輩は素早く瓶に血液を取れるだけ取っている。
その後、肉を切り分けてその場で木の串を作り、手持ちの塩を振りかけてから焼いてくれたわ。先輩が魔法で焼いた肉は火加減ばっちり。私もファルスもふぅふぅと息を吹いてガブリとお肉を頬張った。
「「!! 美味しい!!」」
私たちは目を見開いてまた齧り付いた。こんな上等なお肉を食べた事がない。魔物の肉とは思えない程の脂の甘味を感じるけれど、肉の味が口の中に広がってなんとも言えない程の美味しさ。
先輩もこれは美味いなって言いながら食べている。
お腹一杯に肉を食べて幸せ一杯だわ。
先輩はリュックにそのままドラゴンを仕舞っている。どれくらいリュックの容量があるのかびっくりしていると、先輩はソワソワし始めた。
「アルノルド先輩、どうしたのですか?」
「あぁ、今日は村に一晩泊まってから帰ろうと思ったんだが、ドラゴンの素材を手に入れたんだ。早く使いたくてね。急いで帰ろうと思う」
「ですが、森の中ですよ? 急ぐにしてもどうやって?」
「あぁ、俺の友を今魔法便で呼んだからすぐ来ると思う。彼に転移術を使ってもらおうと思っているんだ」
「王都まで転移!? すげぇ! 一部の魔法使いしか出来ないっていうあれですよね!? 俺たち一瞬で王都に帰れんの? すげぇな」
先輩の話を聞いてファルスは興奮しっぱなしだわ。けれど、こればかりは仕方がない。
転移術はいくつか方法があるらしいのだけれど、消費する魔力は凄まじく、豊富な魔力を持つ魔法使いしか使えない魔法なのだ。
もし、どうしても緊急で使いたい時には一般人でも使って貰える。かなりの高額費用が掛かる。
庶民には夢のような魔法の一つなの。
アルノルド先輩のお友たちって凄い人なのね。先輩も凄いと思っているけれどね。類は友を呼ぶというやつなのかな。
しばらくするとアルノルド先輩の足元に魔法陣がぼんやりと浮かび上がるとスッと細身で長身の男の人がアルノルド先輩の目の前に立っていた。
「相変わらず近いぞ、イェレ」
「仕方がないだろう? アルノルドと場所指定したんだから」
そう口を開いたのはイェレ・ルホターク先輩だった。
……凄い。
何が凄いのかというと、イェレ先輩はとにかく凄い魔術師で小さな頃から才能を発揮して既に王宮魔術師として活動しているの。
次期筆頭魔術師とも言われているわ。そんな有名人がお友達で私たちの目の前にいるなんて、感動だわ。
「イェレ先輩だっ!」
ファルスが目を見開いてそう口から吐いて出た。その言葉が聞こえたのかイェレ先輩は私たちの方に振り向いた。
「誰だ? 君たちは」
「あぁ、そこに居るのはマーロア・エフセエ侯爵令嬢と従者のファルス君だよ。二人とも私の素材集めに付いてきて貰っているんだ。腕はピカイチだ。君に連絡した理由なんだが、ドラゴンを倒したんだ。一年生二人が、だぞ?」
「おぉ! いつも素材をありがとう。助かっているよ。呼ばれた理由は新鮮な素材を持って帰りたいから来てくれって言うから来たが、ドラゴンか。今すぐ欲しい素材だ。よし、連れて帰ろう。だが、この人数だから王都の入り口までしか飛べないな。後は歩くしかない」
狩りをしながらとはいえ、一日以上かけて王都から歩いていたのでかなりの距離があるのに凄いわ。
「イェレ、助かるよ」
アルノルド先輩はそう言いながら私たちを呼んだ。イェレ先輩が作る魔法円の中に入って待てばいいらしい。
私たちはドキドキしながらイェレ先輩の詠唱を傍で見ていると、足元から陣が鈍く浮き出てきて気づけば王都の門前に立っていた。
私もファルスも興奮を隠せないでいると、アルノルド先輩もイェレ先輩も早く来いとだけ言って歩き始めた。私たちは先輩と一緒にギルドへ依頼の達成報告をした後、学院へと帰った。
研究室へそのまま行くのかと思いきや、研究室前の空き地にイエロードラゴンをリュックから取り出した。
流石にイエロードラゴンが大きいので部屋では出せないのだ。
ドラゴンを見たイェレ先輩が嬉しそうにドラゴンの周りをぐるぐると回りながら興味深そうに見ている。考えてみればイェレ先輩はサクサクと自分でドラゴンを狩りに行きそうな感じなのだけど。アルノルド先輩にこの部分が欲しいと交渉している様子。
「イェレ先輩はサクサクと自分でドラゴンを狩りそうなイメージなのですが、違うのですか?」
「ドラゴンは流石に一人で狩らないかな。行きたいんだけどね、王宮の魔術師たちから止められているんだよ。俺が狩ると素材がなくなるから止めてくれとね。ついつい魔獣を見ると楽しくなってしまってドカンと燃やしたり、切り刻んだりしちゃうからなぁ」
「そうだ。お前が活躍出来るのはスタンピードくらいじゃないか?」
「酷いなそれ。あはは。まぁ確かにそうなんけど」
「今はこのドラゴンを早く解体しないとな。マーロア、ファルス、欲しい物はあるか?」
「素材をどう活かせばいいか分からないです」
正直に私は答えた。ドラゴンの素材。防具なのか武器なのか。それに武器にするとして武器屋に持ち込めばいいのかな? 作るのに時間も費用もかなり掛かりそうだ。自分の手持ちで足りないかもしれない。
そんな事を思っていると、アルノルド先輩がドラゴンの皮を剥ぎ、魔法で瞬時に乾燥させた。
「マーロアもファルスもこれをダンジオンの所へ持っていけばいい。彼なら君たちの装備を考えてくれると思う」
そう言って先輩はドラゴンの皮の大部分を私たちに渡してくれた。
「先輩方は使わないのですか?」
「あぁ、俺たちはどちらかと言えば、血液や目玉、内臓が欲しいんだよね。呪術や錬金に皮はあまり使わないかな。あっても少量あればいいんだよな」
「まぁ、物によるが今の研究には必要ない」
先輩たちもそう言っているので有難く頂く事にした。
「あぁ、思い出した。マーロア。今更だが君はなぜ魔法が使える事を隠しているんだ?」
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