第35話

 門の前でアルノルド先輩を待っていると、先輩は相変わらず大きなリュックを背負っていた。そして小さめのリュックを二つ手に持っている。


「マーロア、ファルス、待ったか?」

「いえ、先輩そんなにリュックを持ってどうしたんですか?」

「あぁ、これは魔術師科の奴に頼んで作らせた。これとこれは二人の分だ。背負っているリュックをその中に入れてみろ」


 先輩はそう言って私たちにリュックを差し出した。私は先輩の言う通り、リュックを貰った小さなリュックに入れてみると、なんと、リュックがシュッと小さなリュックの中に消えていった。


「先輩!? これはもしや」

「そうそう。これはマジックバッグだ。少しの物が入る程度の大きさしかないがな。中身はテントが入っている」


 どうやら先輩は私たちにテントを用意してくれていたみたい。感動したわ。だってマジックバッグはとても高価な物で貴族社会にもほぼ出回っていない物だもの。


「今回魔物の血を取りに行く代わりにバッグを寄こせと言って作ってもらった。凄いだろう? 私の物はもっと前からマジックバッグだったが」

「先輩、凄いですね! 大切にします」


 私たちは感動に浸りつつ、リュックを背負った。テントや沢山の荷物が入ったリュックを入れたのに重さを感じない。


 リュックに付いている魔石は効果を持続させるために定期的に交換しないといけないようだ。


「あぁ、言っておくが、時間は止められない。空間を広げているだけだからな」

「わかりました!」


 私たちはウキウキ上機嫌のままギルドへと向かった。今回の素材採取は様々な物を集めるらしく、納品の無い討伐のクエストを取っていくようだ。


 聞いた話によると、アルノルド先輩は同じクラスの魔術師科の人たちと素材を物々交換したり、研究を共同でしていたりしているらしい。


 じゃぁ、その魔術師の人も参加すればいいじゃないかっていう話なのだけれど、魔術師の人が参加すると素材が取れなくなってしまうらしい。


 どんな強さなの!?


 聞くところでは火魔法を使うと炎が強すぎて素材を全て灰にするとか、氷の矢を射るとボロボロになる数を素材に打ってしまうとか。素材が取れないほどの強さにちょっと興味が湧いたよね。


 ギルドの掲示板は相変わらず沢山の討伐依頼が貼ってある。先輩はフムフムと依頼書を見ながらCランクからFランクまでの依頼を十枚ほど取り、カウンターへと持っていく。


 中には採取もあるようだ。私たちは受注の手続きをした後、ギルドを出た。

 そしてギルド横にある店で携帯食をいくつか買ってリュックに入れて歩いて出発する。


 採取場所はいつもより遠い場所を選んだのでいつもより長い距離を移動しなければいけない。私は歩いて居る時にふと疑問に思った事を聞いてみた。


「アルノルド先輩、質問なのですが、血を採取するのって難しくないですか? 時間が経てば血液って固まりますよね?」

「あぁ、それは特殊な瓶を持ってきているから大丈夫だ。血液が固まらないような細工がしてある。それに私のリュックは君たち二人のリュックより性能がよくて、収納量も多く、時間も若干だが遅らせる事が出来るんだ」

「いいなぁ。俺もそれが欲しいよ」

「まぁ、たまたまだ。魔術師の奴が偶然出来たマジックバッグに私が手を加えたんだ」


 流石アルノルド先輩。マジックバッグを作っちゃう人も凄いけど、それに手を加える先輩も凄い。


「さぁ、採取をしながら歩くか」


 数時間街道を歩いた後、いつもとは違う場所から森に入った。私たちは早速、足元の雑草に目を向けながら薬草を採取していく。


 長年村に住んでいたせいか採取はお手の物だ。私もファルスもサクサクと採取していく。


 どうやら先輩は植物を見分けるのが苦手なようだ。先輩は植物採取を私たちに任せ、目に付いた使えそうな物や生き物を採取している。


「マーロア、フォレストウルフだ。一匹しかいない。はぐれか」

「結構危険ね。ちょうど討伐依頼も入っているし、狩りましょう」

「そうだな」


 私とファルスは剣を抜き、戦闘態勢に入る。ファルスが注意を引いている間に私は回り込み、フォレストウルフの隙を突いて切り付けた。上手く不意を衝く事が出来たのであっさりと倒せた。


「アルノルド先輩、フォレストウルフを倒しましたがどうしますか?」

「あぁ、血を取らせてくれ。あと、魔石だ。爪と牙も欲しいな」


 先輩は採取の手を止めてフォレストウルフに近づくと血を採取し始めた。特殊な瓶に集められた血はどす黒く新鮮な血とはほど濃く見える。


 私たちが食糧として狩るボアはもう少し人間の血の色に近いのだけれど、この個体は何か違うのかしら。そう思いながらも先輩の作業を見つめていた。


 胸元から魔石を取り出し、牙や爪を取ると魔法で土を掘りフォレストウルフを埋めた。相変わらず先輩の魔法は凄い。魔術師にならないのか不思議なくらいだわ。


「よし、この調子で進めていくぞ」


 先輩は鼻歌が聞こえてきそうなくらい上機嫌だ。私たちはウロウロと森の中を歩き続けた。


 途中でゴブリンを退治したり、魔虫型の芋虫を見つけて採取したりしたわ。アルノルド先輩はあまり感情の起伏のない人なのだけど、珍しい物を見つける採取がとても楽しいようだ。


 普段学院があるため、王都の周りしか探索できないからというのもある。


 先輩は魔獣や薬草や虫等一つひとつ説明する姿は錬金術師ではなく研究者ではないのかと思ってしまうほど詳しい。先輩の知識に驚かされてばかりだ。


 そうこうしている間に時間も過ぎていき、少し開けた場所で野宿する事になった。


 アルノルド先輩はリュックからテントを取り出し、サクサクと野宿の準備を始めた。私もファルスも先輩の仕方を見様見真似ながらもテントを建てて寝床の準備をする。


 私たちのリュックの中にはテントの中で使えるクッションやタオルケットが入っていたわ。

 先輩の気遣いがそこかしこに見受けられる。庶民には高級過ぎる品。財力を感じてしまったのは仕方がない。


 私も一応は侯爵令嬢だけどね!


「準備出来たようだな。一応魔物と虫よけの香を焚いているので来ないとは思うが、交代で火の番をする」


 私、ファルス、アルノルド先輩の順番で火の番をする事になった。

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