第34話
私たちは城を出て邸に向かって歩いていた。
「マーロア、側近の話を断った時、俺、心臓が止まるかと思ったよ。相変わらず心臓に毛が生えているな」
「ファルスだって人の事言えないじゃない。私もドキッとしちゃったわ」
二人で軽口を叩きながら邸へと到着した。王族のお願いを断るなんて普通しないもの、ね。
「マーロアお嬢様、お帰りなさいませ。連絡を下されば馬車でお迎えに参りましたのに」
「いいのよ。王宮からそれほど遠くないし、私たちは徒歩で構わない。それよりもお父様はいる?」
オットーは久々に会ったけれど顔色を変える事無くすぐに父の執務室へと案内してくれた。勿論ファルスは従者モードに切り替えている。
「お父様、マーロア、只今戻りました」
私たちは父の『入れ』という言葉で部屋に入る。
父は執務の手を止めて私たちを見て一つ頷いた。
「今回の闘技大会、優勝おめでとう」
「ありがとうございます。陛下からも褒めていただけました」
「マーロアに闘技大会後からお茶会や舞踏会の招待状が来ている。釣り書もだ」
「私は全て拒否します。婚約者も要りません」
「侯爵家として顔立てもある」
「あら、今更私が必要なのですか? ずっと領地に押し込んでいたのに。元婚約者の方に抗議を送ってもらいましたが、サラはあれから変わっていないですのね。
サラがディズリー伯爵子息に『アヒム様の事が好き。
第二夫人でも良いから嫁にしてほしい』と私が言って毎日家で泣いているのですって。彼をサラの婚約者にしてはいかがですか? 魔力持ちの優秀なサラが私の代わりに全て行えば良いのです。
今までそうしてきたのでしょう?」
「貴族社会はそうも言ってられんのだ」
「では除籍下さいませ」
「……それはならん」
父の表情は固いままだ。
「醜聞だからですか? 魔力無しの私は我が家に生まれた時点で十分醜聞でしょうに。とにかく私は陛下から免罪符を頂いております。お茶会には参加しません。今更貴族令嬢として上辺だけ取り繕う事をしなくてもいいではありませんか」
捲し立てるように言ってしまった。父は黙っていたが、少し間を置いて口を開いた。
「……それでもお前は貴族令嬢だ。私の娘だ」
「育ててもらった覚えは無いです。今だってそう。自力で生活しております」
あ、でも剣と防具は買ってもらいましたが。
「侯爵家の名前も使う事なく生活も出来ています。何度もこんな話をするのは不毛でしたね。他に用が無ければ寮に戻ります。サラとディズリー伯爵子息の件はしっかりと注意して下さい。殿下やエレノア様に迷惑を掛けております」
私はそう言って執務室を出た。そのまま玄関扉までファルスと歩いていると、オットーから声を掛けられた。
「お嬢様、お待ちください」
「何かしらオットー?」
「お嬢様を邸へ呼び戻した理由ですが、旦那様は純粋におめでとうが言いたかったのだと思います。これは旦那様がお嬢様にお渡ししようと思って選ばれた物です」
オットーが小さな箱を一つ渡した。
「お嬢様、旦那様には思う所があるかとは思いますが、矛をお納め下さい」
「……そう。オットーが言うなら。これは貰っておくわ。オットーありがとう」
私とファルスはそのまま寮へと帰っていった。部屋で貰った箱を開けると、剣に付けるチャームだった。
小さな物だったが細かな装飾が施されてとても素敵なチャーム。私は気に入ってすぐに剣に付けた。
父はどんな思いでこれを選んでくれたのかしら。
私も感情的で一方的に話をしてしまったことを反省する。
今度話す時、もうちょっと父の話を聞いても良いかなと少し思う。私もまだまだ子供ね。
そうしてようやく前期長期休暇がやってきた。試験の結果はというと、勿論10位以内に私もファルスも滑り込む事ができた。これで一安心ね。
私とファルスは領地の村に帰ろうかと話をしていたのだけれど、ビオレタからの手紙には入学したばかりで王都にも馴染んでいないだろうから無理して帰らなくてもいいと言われてしまった。
私もファルスも村とは違って刺激が多いから楽しいと思っているし、二人の新婚生活を邪魔する気はないので次の休みに帰る事になった。
勿論貴族たちは社交界シーズンなので貴族たちはタウンハウスで過ごし、日中はお茶会、夜は舞踏会等忙しく過ごすみたい。
大体十五、六歳になると舞踏会に参加できるようになる。学院の一年生は十四歳で舞踏会には参加できないためお茶会のみ参加できることになっている。舞踏会に参加できる上級生は忙しいみたい。
平民はというと、実家に帰る人が殆どなので学院は殆ど人が居なくなるの。私とファルスは珍しいという感じね。
あ、アルノルド先輩や一部の最上級生は別みたい。後期には卒業するので魔術大会の作品に力を入れるために残って研究している。
因みにアルノルド先輩は最上級生。普段から研究に明け暮れているためとても忙しいらしい。
「マーロア、ファルス。君たちは家に帰らないんだな」
「えぇ。実家に帰ったところで居づらいだけですし、村にはまだ帰らないです」
食堂でアルノルド先輩が声を掛けてきた。
「ちょうどいい、ならこの休みは私のために使うといい。素材が沢山必要なんだ」
先輩の言葉に私もファルスもフッと笑顔になった。
「先輩は実家に帰らないんですか? 侯爵家なら舞踏会出席に忙しいはずですよね?」
「私は嫡男ではないから王家の舞踏会に出席するだけでいいんだ」
「マーロアは来年から忙しくなるんじゃないか?」
「私は忙しくないですよ。我が家には立派な跡継ぎが居ますし、陛下からも参加しなくていいと免罪符を貰っておりますから」
「それもそうか。では食後から早速で悪いが素材集めに付いてきてもらいたい」
私もファルスも食事をしながらいいですよと答えた。
「今回は何を集めているんですか?」
「今回は血だ。魔物の血。それと魔石。特に種類は問わないが沢山欲しいんだ。どうせ休みなのだから遠出してもいいだろう」
「分かりました。手伝います!」
食事をさっと済ませて寮に荷物を取りに行く。そういえば私たちはよく討伐に行くけれど、泊りがけは無かった。その辺りどうするのだろう。
私は制服を脱いで私服の上から防具や剣を装備した。そしてリュックに思いつくままお泊り道具を準備していった。
「ファルス、テントは私たち持っていないよね。遠出でもし泊まりになったらどうするの?」
「俺もそう思っていたところ。一応野宿も考えて色々リュックに入れてきたんだ」
女子寮を出たところで落ち合ったファルスに聞いてみるとファルスも同じことを思っていたらしい。
お互い同じようにリュックにギュウギュウと物を詰め込んできたようだ。
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