第33話
「今週の試験は大丈夫そう?」
「まぁ、なんとかな。闘技大会でベスト五に入った人は加点されるらしいぜ」
「そうなの? それは嬉しいわ。私たちには授業料が掛かっているんだもの」
ファルスと二人で話をしていると、忘れていた彼が声を掛けてきた。
「マーロア! お前、闘技大会優勝したんだな。俺は恥ずかしい。魔力無しのお前が優勝なんて。女は黙って大人しくしていろよ」
ディズリー伯爵子息が私たちに絡んできたわ。
「ディズリー伯爵子息様、名前を呼ぶ許可をした覚えはありません。失礼にも程がありませんか?」
「お前は黙って俺と結婚して領地に引っ込んでおけばいいんだ」
「お嬢様、ディズリー伯爵家に抗議を出しておきます」
「えぇ、お願い。食事が不味くなったわ」
「おい、無視すんなってば」
彼は怒りながら私の肩を掴もうとしていたけれど、私はスッと避ける。このまま無視でいいのではないだろうか。ただでさえ目立つのに、更に目立っているわ。
本当に嫌になる。食堂の従者に手を挙げて呼び、デザートを持ってくるようにお願いする。ディズリー伯爵子息をあえて無視し続けていると、とうとう彼は無視されるのが我慢出来なかったようで私に向かって手を振り上げようとしている。
私は持っていたフォークを彼の顔の前に突き出し、口を開いた。
「それ以上私に話し掛けるならその綺麗な顔に傷が付く事になるわ。元婚約者様?」
彼は真っ赤な顔をしながらも少し後ろへ下がった。
「なぜ私に構うのですか? 前にエフセエ侯爵家から抗議が来たと思いますが?」
「それは……サラが一生懸命に俺に『お姉さまは毎日部屋で泣いて私に言うのです。アヒム様が好きだと。どうか第二夫人でもいいので貰って欲しい』と言うのだ」
……なんて事!?
実の妹ながら呆れるわ。
彼は真剣な表情でそう言っている。妹の言っている事を真に受けているようだ。婚約解消をしたのにも拘わらずなぜそんな考えに至っているのか分からない。
そもそも会ったのは数度しかない。何処に好きになる要素があったのか不思議だ。
「全くのデタラメです。そもそも私は寮に住んでいますし、邸に住んでいたのは入学前のひと月程度でした。サラとどういう話をしているのかは存じませんが、あまりサラを信用しない事をお勧めするわ」
私は従者が持ってきたデザートにフォークを刺し、口にする。
「では、失礼。今後、私に話しかける事のないようお願いしますね」
私とファルスは席を立った。寮の前に着くとファルスはアイツやべぇな、と呟いていたわ。
「ファルス、また家から彼の家に抗議を言うように伝えておいてね。もちろん我が家にも。城で謁見した後、家に一度帰るわ」
「承知致しました」
ファルスは従者の礼を執った。
そして翌日以降は今までと変わらず試験勉強後、寮に帰り勉強に励んだ。
父からは『一度家に戻ってきなさい』と手紙が来ていたので城に呼ばれているので、陛下の謁見後に一度顔を見せに帰るとだけ手紙を書いて送っておいた。面倒だなと思ったのは内緒ね。
そして試験も無事終わり、週末の城へ登城する日となった。
私もファルスも心なしか制服に皺が出来ていないか再確認したわ。城へ向かうと門番の方は話が通っているようですんなりと通してくれた。
そして従者の人が『こちらです』とすぐに入り口から付いて案内してくれたわ。
向かったのは謁見の間というのかな? それにしては狭い感じなので謁見室みたいな感じ。
従者によって開かれた扉の先には陛下と王太子殿下、それにシェルマン殿下がニコニコと手を振っているわ。
私とファルスは陛下への口上と最敬礼を執る。
「硬いことはよい。マーロア・エフセエ、その従者ファルス。今回の闘技大会は素晴らしい成績を納めたな。流石レヴァインの弟子といったところか」
「父上、マーロア嬢は魔力無しなのですよ? 凄いですよね」
シェルマン殿下がそう横から口を開く。
「……あぁ、シェルマンは知らないのであったな。マーロア嬢は魔力持ちだ」
陛下の言葉にシェルマン殿下が驚いている。
「あの闘技大会ではマーロア嬢の魔力を一切感知しませんでしたが」
「あぁ、お前は気づかなかったか。彼女が魔力持ちと知っているのは極一部の者だけだ。実の両親、エフセエ侯爵も知らんらしいな?」
「仰る通りです。赤子の時に神殿で魔力判定を行いましたが、魔力無しと判定され、私は領地の片隅の村でファルスと共に乳母に育てられました。
幼少期に魔力が発現しましたが、教会の神父様から『これは何か神様の啓示かもしれない』とそのまま魔力を隠し育ってきました。魔力量は少ないそうですが魔力を保持しております」
流石に嘘を付く事は出来ないと正直に話す。
すると陛下は私が神殿に居た時の話をしてくれたわ。
普段乳母に世話をされていたシェルマン殿下は神殿に行く時に限って乳母を付けなかったらしい。王妃様がシェルマン殿下を抱っこしていたが途中で様々な気配を感じたのかシェルマン殿下が大泣きして魔力を放出し始めたのだとか。
慌てて陛下も王妃様も止めようとするけれど、乳母がおらず泣き止まなかったらしい。
シェルマン殿下の漏れ出た魔力に過敏に反応したのが前に並んでいた私だったみたい。王子の魔力を止めるために急いで会場を移動しようとした時に殿下以外の誰かの魔力を感じたらしい。
殿下の魔力に誘われて魔力が引き出されたのかもしれないと思ってはいたそうな。
陛下はシェルマンのせいで影響が出たのではないかと心配していたけれど、貴族なら多少魔力が少ないと判定されても学院の中等部や学院の高等部に入学する時に魔力測定を行うはずだし、教会からもシェルマン以外の魔力は感知できなかったと言われそのまま納得していたようだ。
まさか、侯爵家の長女が魔力なしと判定されて、村に追いやられていたとは知らずに申し訳なかったと謝罪された。
シェルマン殿下はとても驚いているようだ。
まぁそうだろう。教会が行っている魔力判定の結果が崩れる事など殆どないのだ。それに偽っても意味がないのだ。
どちらかと言えば魔力の無い平民がどうにかズルして魔力ありだとする事の方が多いだろう。一般的に魔力は有った方がいい、量が多ければ多いほどいいという考えだ。
「そんな事が起こっていたなんて。シェルマンのせいだったとは本当に申し訳ない。それにしても先日の闘技大会を私も見ていましたが、魔力を隠し優勝するのは凄い。
ファルス君も準決勝まで使わずに勝ち抜いていたしね。是非私の護衛に欲しいと思っているのだけど、どうかな?」
アイロン王太子殿下が微笑みながらそう言った。
「兄上、私も二人を側近に欲しいと思っているんですよ?」
「どうだ? マーロア嬢、ファルス」
陛下にそう聞かれる。
「アイロン王太子殿下、シェルマン殿下。そう言って頂けるのは大変名誉な事です。ファルスは将来騎士として王宮に勤めるのが夢ですので彼が希望するのであれば是が非でも宜しくお願いいたします。
私は折角のお話ですが、申し訳ありません。今回の褒美でもお分かりいただけると思いますが、私は貴族でいる事自体も望んでいません。
魔力無しと言われている私は貴族として生きにくい。ましてや殿下の側近ともなれば、『魔力無しの女騎士が殿下の側にいる』ことになれば殿下の評判を落としかねないです。
私はレヴァイン先生と一緒に冒険者となって各地を飛び回りたいと思っているのです」
「ふふっ。マーロア嬢にまたフラれてしまいましたね」
シェルマン殿下はそう言ってニコリと微笑んでいる。
「私は、将来騎士団に入団し、騎士団長になりたいと思っていますが、現在マーロアお嬢様の従者です。とてもじゃないですが、今、お嬢様から目を離す事は出来ません。私が目を離せばすぐにでも学院を辞めて冒険者となりかねません。
まだ学院に入学して半年です。あと三年は学生ですし、学生の間はお嬢様の従者として過ごさせていただきたいと思っております」
なんだかファルスに酷い事を言われた気がする。本当の事だから言い返す言葉が見つからない。私は黙って微笑むことにした。
「マーロア嬢は中々に勇ましいご令嬢なのだな。儂も二十年若ければ一緒に冒険へ出ていたかもな。ワハハ」
陛下もそんな冗談をいうのね。
「まぁ、なんだ。儂はエフセエ侯爵令嬢とその従者、ファルス両名を高く評価しておる。これからも活躍を期待しておるぞ。そしてアイロン、シェルマンを助けてやってくれ」
「お褒め頂き有難き幸せに存じます。微力ながらお役にたてれば幸いです」
私とファルスはまた最敬礼をし、謁見はなんとか無事に終わった。
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