第32話

 私たちは寮に着替えに戻ってすぐに門の前に向かった。


「レヴァイン先生! レコ! 待った?」

「お久しぶりです、お嬢様。さて、いい所を予約してありますよ」


 流石に大会が終わってすぐのせいか、通行人からの視線を感じる。もしかしてちょっと有名人になってしまったのかな。


「マーロア、皆がチラチラ見ているけど気にしない。闘技大会が終わった日なんてこんなものだ」


 先生とレコは気にした素振りもなく、歩いている。

 そして私たちは上位貴族しか入れなさそうなレストランへとやってきた。個室に案内され、ようやくホッと一息吐いた。


「先生、私、お金を持っていないわ!」

「いいよ。レコが払うから大丈夫。好きな物を食べればいい」

「よっしゃ! 俺、肉がいい!」

「私も!」

「……仕方がないですね。まぁ、今日は奢りますよ。お嬢様のおかげでたんまり儲けたんでね」


 レコは仕方がないなぁと言いつつも店員に色々と注文してくれた。


「先生、私たちの活躍見てくれました?」

「あぁ、マーロア。かっこよかった。ファルスは鍛錬し直しだな」

「えー酷いよ。先生、俺に石投げるんだからさ」

「真面目にやらないからだ」


 食事をしながら楽しく会話は進んでいく。久々のみんなとの食事がとても嬉しい。ここにビオレタやユベールも居れば最高なのに。


 二人には今日のことを手紙を書いて送るろう。


「ところでマーロア、剣を見せてみろ」


 レヴァイン先生は私の剣に興味があるのか聞いてきた。私は鞘ごと先生に渡す。


「レコに剣を選んで貰ったんです。あと、ダガーも。ダガーはここに」

「ふむ。魔法無効が綺麗に掛かっている。これは誰がやったんだ?」

「アルノルド・ガウス先輩です。先輩とはたまにギルドの依頼をこなしている仲なんです」

「ガウス侯爵のところか。いいやつと知り合ったな。ファルスも掛けてもらったのか?」


「俺は掛けてもらっていないよ。魔法が使える人は武器に掛けちゃいけないって言われたんだ。いいよなぁ、マーロアだけ」


「闘技大会ではそうだな。そんなにならもう一本剣を用意して掛けて貰えばいいんじゃないか?」

「先生、それだ! 今度俺もアルノルド先輩にお願いしてみるよ」


 そして食事も終わろうとしていた時、レヴァイン先生が私とファルスに一通の手紙を手渡した。


「先生、これは?」

「あぁ、陛下からだ」


 先生はいつもの調子だけれど、蝋を見てさらにびっくりする。王家だ。本物!?


「本来なら優勝者だけに渡すはずなんだが、ファルスはマーロアの従者だからな」


 私もファルスも驚いて目を見開いている。


「先生、私ドレスを持っていないわ」

「エフセエ家で買って貰えないのか?」

「言えば買ってくれるでしょうけれど、ねぇ?」

「まぁ、仕方がないですよ。あの家ですからね」


 言葉を濁した私にレコはフォローになっているのかいないのかよくわからないがフォローをしてくれている。


「ドレスを買って手直しするにも日数が必要だし、侍女もいないからドレスも着られないんじゃないか?」


 ファルスが従者らしいことを言っている。確かにファルスの言う通りなのだが。


「制服でいいと思うぞ? 学生なのだからまだ許される。ファルスもだ」

「そうなんだ。先生、私、制服で登城するわ」


 そうしてレヴァイン先生たちと久々に楽しい一時を過ごした。先生はこのまま実家に帰っているらしいけれど、また数日後には冒険の旅に出ると言っていた。


 羨ましい。私も旅に出たい。


 寮の自室に帰ると、寮母さんから手紙を貰った。どうやら実家からの手紙のようだ。気が重い。


 封を開けて読むと、今日の闘技大会を夫婦で見に行った。優勝おめでとう。優勝するとは思わなかった。週末は家に帰ってこい。という内容だった。


 闘技大会の後は試験があり、その後前期長期休暇が入る。今度の試験を落とせないから今、帰れないわ。そして城に呼ばれているし。


 父には試験後に家に一旦寄るとだけ書いて手紙を出す事にした。


 なぜ闘技大会の後に試験なのか……。


 試験に向けて勉強を始めようかと思ったけれど、何だか疲れたし、色々と面倒になって明日からにする事にした。


 流石に今日はちょっと位優勝の余韻に浸ってもいいと思うの。



 翌日、いつものように登校すると、そこかしこから視線が飛んでくる。今までは侮蔑のような軽蔑のような視線と陰口が多かったけれど、昨日の事で好奇の視線が追加されたように思う。


「マーロア様、ファルス君! 優勝おめでとうございます」

「有難うございます。エレノア様、ハノン様」

「まさか優勝してしまうなんて。凄いですわ」

「それにしても、アシュル侯爵子息様と知り合いでしたのね」

「えぇ、彼は私とファルスの先生なのです」


 そう話をしていると横からニコライ様が話に加わった。


「俺はマーロアに負けてから親父に大目玉食らって訓練し直しだーって毎日超特訓してんだぜ。最悪だよ。お前らはいいよな」


 今回、ニコライ様は鍛え直し中のために闘技会参加はしなかったようだ。


「ふふっ。そのままこってり絞られてください」


 クラスメイトの他愛のない会話に私もファルスもふふっと笑顔を浮かべる。


「マーロア君、ファルス君。昨日はおめでとう。Sクラスから優勝者と準優勝が出るとはな! だが、喜んでいるのも今のうちだ。来週はテストだ。みんな頑張るように」


 ギャルロ先生が教室に入ってきて早速授業が始まった。昨日の今日なのだから一日位休みが欲しいわ。みんなそう思っていたらしく、ぶつくさ言っていたわ。とは言っても、今日の授業はほぼ自習だった。


 今週は試験に向けて自習や復習が主だった内容になるみたい。お貴族様は家で家庭教師に習っているのだから勉強する必要なんてないよね。


 残念ながら私は違うけど!


 という事で今日はのんびりと勉強する事になった。そして気づいたのだけれど、私はSクラスにいるけれど、Aクラスの人たちがチラチラとSクラスへとやってきている。


 どうやら例のあの子が、という感じで私を見にきているらしかった。


 私もファルスもとても居心地が悪い思いをしている。これも長期休暇までと我慢せねばね。お昼の食堂はどうしよう。平民食堂でランチを取り合いたいけれど、この様子では難しそうだ。


 諦めて貴族食堂で食べるしかないわね。ファルスも同意見のようで今週は貴族食堂で食べる事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る