第31話

 翌日私とファルスは職員室へと赴き、闘技大会に出る申請書を提出した。担任のギャルロ先生は喜んでいるようだったけれど、その他の先生は私に冷ややかな視線を送っている。


 魔力無しというのはどこでも軽蔑の対象でしかないのかもしれない。


 そして闘技大会までの間は試験勉強と訓練に明け暮れた。偶にアルノルド先輩が剣の調子と魔法攻撃で鍛錬に付き合ってくれた。




 そして待ちに待った闘技大会。


 騎士科の殆どが参加しているが、殿下の参加はないらしい。ファルスの報告書で今日の闘技大会に参加する事を父と母には伝えてある。来てくれるかは分からないけれどね。


 大会は王都の名物になっているようで会場は人、人、人で埋め尽くされていた。


 一応、レコとレヴァイン先生にも招待状を出したのだけれど、来てくれているかな。


 私たちはSクラスの控室で今か今かと出番を待っている。アルノルド先輩が言っていたように会場の入り口にはオッズ表が大きく書かれており、『魔力無しの女騎士とその従者』という具合に掛かれていた。私とファルスの人気は最下位のようだ。


 クラスメイトからその理由を聞いたが、やはり私が女である事と魔力無しだからだそうだ。これについては仕方がない。


 実際自分の実力が何処まであるのか知らないし、注目されていないのは好都合。いい力試しだろう。残念ながらファルスの人気がないのは私の巻き添えでしかない。


 エレノア様やハノン様が控室に応援に来てくれたわ。『応援しておりますわ』と。そんなこんなで私とファルスは準備して出場の順番を待っている。


「んじゃ俺の番。行ってくるよ」

「ファルス気を付けてね」


 控室からそう送り出した。


 一回戦は平民の騎士志望者との戦い。


 ファルスは魔法を使う事なくあっさりと勝つ事が出来た。かなり手を抜いたのだろう。余裕の表情で剣をクルクルと回して鞘に仕舞うファルス。


 その様子を見た一部の令嬢たちからキャッと黄色い声が少し聞こえてきた。


 ファルスは調子に乗って笑顔で手を降っていると突然、観客席から飛んできた小さな石がファルスの額にヒットしたらしい。


 誰だ!! って怒ってその方向を見ると、レコとレヴァイン先生がシワを寄せて見ていた。


 投げたのはレヴァイン先生のようだ。


「マーロア、酷いよな。レヴァイン先生に俺がやられる所だったぜ」

「ふふっ。勝てて良かったじゃない。それにレヴァイン先生たち見に来てくれていたのでしょう?」

「まあな。マーロアももうすぐだろ? 頑張れよ」

「……そうね。でも、あの対戦表、私だけに厳しいのはなぜかしら?」

「そんなの決まっているだろ? 女のお前に勝って欲しくないんだろうな。蹴散らせばいいんだ」

「まぁね。では行ってくるわ」


 そう、私の対戦相手は最上級生の騎士科の人。どうやら騎士団に入団が決まっているらしいわ。私は会場の中央まで歩いていく。


 相手の上級生が出てくると、人気があるのか一際観衆の声が大きくなった。


「くくっ、お前が魔力無しの騎士科の女? 止めておけ。ケガするぞ」

「笑っていられるのも今のうちです」


 お互い剣を鞘から抜き構える。


「はじめ!」


 審判の声で彼は上段の構えを取っている。隙だらけで人を馬鹿にするのも大概だわ。彼の重そうな大剣は振り下ろされた時に私は横に避け、剣先を彼の首元に突きつけた。


「勝負あり! 勝者マーロア・エフセエ!」


 審判の声で会場は一気に怒号が飛んでいる。ファルスに教えて貰った方向を見ると、レヴァイン先生とレコが手を振ってくれていた。


「レヴァイン先生!」


 私は観客席に駆け寄り、先生にジャンプで抱きつく。


「こらこら、みんなが見ているだろう?」

「お久しぶりです、先生! 見てくれていました?」

「勿論だ。ファルスもマーロアも頑張るんだぞ。最後まで見ているからな」

「絶対ですよ? レコもちゃんと見ていてね!」

「勿論ですよ、お嬢様。お嬢様に今月の給料を全部つぎ込んでいるんですから」

「っもう! レコったら」

「さぁ、もう控室に戻るんだ。次が始まるぞ」

「はぁい」


 先生たちが応援してくれると思ったらやる気が出てきたわ。私とファルスは二回戦、三回戦と順調に勝ち進んでいる。


 ファルスは一年生同士、当たるように出来ているらしく、体力も削られていないようだ。むしろレヴァイン先生から隙だらけだと石が飛んでくるらしく、不満げだ。


 私はというと、全力で潰しに掛かられている感じがする。


 ファルスとの違いに憤懣やるかたない。それでも私は準決勝まで勝ち残った。まぁ、一年生の最初でここまでくれば上等ね。


「はじめ!」


 大きな上級生は私に土魔法を唱えた。どうやら足を固めて動けなくしたいらしい。私は剣で魔法を無効化し、攻撃を避けた。そして素早く足払いをして転ばせ、剣を向ける。


「勝者、マーロア・エフセエ!」


 なぜかしら。皆、私を馬鹿にしているせいか隙だらけなのよね。真面に打ち合っていない。


 会場は私が勝つたびにブーイングの嵐だわ。物を闘技場に投げる始末。まぁ、番狂わせも良いところなのでしょうね。


 次は決勝戦。


「ねぇ、ファルス。次は決勝戦よ。これが終わったらレヴァイン先生と食事に行くんでしょう?」

「そうだな。楽しみだ」

「二人で戦うのは久々だし、楽しみね」

「んじゃ時間だし、行くか」


 私たちは会場の中央へと進み剣を構えた。


「はじめ!」


 その合図でお互い切り結んでいく。私は素早く動き、ファルスは力で押す。何度も打ち合いをしてきているのでお互いの弱点は知り尽くしているわ。

 そしていつものように何度もファルスの攻撃を躱していく。


 これを続けるとファルスはなぜかイライラするらしい。そしていつものように攻撃と攻撃の間に魔法を唱えた。


「隙あり!」


 私は唱えた瞬間剣を持ち直し柄でファルスのお腹を殴る。グフッとよろけている所を再度剣を持ち直して首元に剣先を向けた。


「勝負あり! 勝者、マーロア・エフセエ!!」


 私はファルスに手を差し出す。


「あーあ。また負けたか」

「ファルス、いつも同じところで負けるわよね。癖が付いているわ」


 話ながらお互いの健闘を称え合う。そして私の優勝が決まった。


 私は優勝者のトロフィーを陛下から頂いたの。


 陛下いたの? って感じだけど、実はレヴァイン先生の近くに王族用の専用の観覧席が設けられていて陛下はずっと見ていたようだ。


 改めてごめんなさいだよね。先生たちは見ていたのに陛下を全く眼中に入れていなかった。


「勝者マーロア、褒美を遣わす。何を望む?」


 うーんお金欲しいけれど、流石に貴族令嬢がこの場でお金が欲しい! なんて言えないわよね。


「では、お茶会や舞踏会に不参加とする権利を頂きたいです」


 貴族なら避けて通れないお茶会と舞踏会。そろそろ私のデビュタントを見越してそう言ってみた。


 殿下と同じSクラスでは面と向かって魔力無しと馬鹿にされる事はないのだけれど、やはり別のクラスからは酷い扱いを受ける事がある。


 気にしないのが一番だけれど、実害もあるのでそうも言ってはいられないのよね。


「あいわかった。では舞踏会やお茶会の不参加の権利を認めよう」

「有難き幸せに存じます」


 私は礼を執り、会場は歓声や怒号と拍手に包まれ、大盛況のまま闘技大会は幕を下ろした。


 賭け事をした皆は大番狂わせに涙したのだろう。

 会場にはチケットが沢山投げられていた。




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