第30話

 入学してから五ヶ月ほど経ったある日の食堂で、私はいつものようにファルスと一緒に食事をしていると、アルノルド先輩が隣に座って話しかけてきた。


「ファルス君とマーロア君。そろそろ闘技大会だ。出るんだろう?」

「私は考えていませんでした。ファルスは出なさい」

「俺? マーロアが言うなら出るよ」

「今年は注目される程の生徒はいないから優勝できるだろう。なんだマーロアは出ないのか?」

「騎士になりたいわけでは無いので出る予定はないです」

「出て優勝すればいい。魔力無しって言われているのだろう? 蹴散らせば良いのだ。それに優勝すると国王陛下から褒美が出るぞ」

「……ファルスどうしようかしら?」


 褒美と聞いて私もファルスも目を丸くした。

 確かに先輩の言っている事は一理ある。それに褒美も気になる。


「お嬢様、今年だけ出てみたらどうですか?」

「そうするわ」

「それがいい。私もマーロアが優勝するのに賭けるから」

「賭けですかっ!?」

「あぁ、闘技大会の醍醐味だろう?」


 先輩の言葉に私はギョッとした。


「ファルス、私が優勝すればがっぽり儲かること間違いなし?」

「んーそうですね。女で魔力無しなら誰もが勝てないと思っているでしょう」


 先輩は賭けをするために私に出るように言ってきたのね。

 まぁ、それでもいいわ。

 魔力無しの私が勝てば凄いことよね。魔力無しで女の騎士とくれば誰もが期待するはずがない。


「出るとなると魔法対策が必要だわ」

「なら、私が魔法特訓してもいい。今から私の研究室に剣を持っておいで」

 

 先輩に乗せられた気がしないでもないけれど、やるだけやってみよう。


 食事を終えると私たちは一旦、剣を寮に取りに戻ってからファルスとアルノルド先輩の研究室へと向かった。


 上級生の錬金術師は一人一部屋研究室が貰えるらしい。


 そういえばクラスメイトが言っていたが、たまに研究棟は爆発する事があるのだとか。理由は聞かなくても分かる。


 先輩の研究室は二階の一番端だそうだ。

 ちなみに魔術師も専用の棟が建てられており、錬金術師の隣になっている。


 ――コンコンコンコンーー


「どうぞ」


 先輩はすぐに部屋へと通してくれた。部屋に一歩入ると、そこには不思議な物がそこいらに置かれていた。


 私たちが想像しているようなグロテスクな物はなくてよかった。


「思ったより、錬金術師なのですね」

「どういうことだかよく分からないが、君たちが考えているのは魔術師の方ではないか?あっちは芋虫やトカゲを飼っていてしょっちゅう逃げ出してくるぞ?」

「俺は先輩の部屋は同じようなものだと思いますが」

「気のせいだ。ほらっ、マーロア君、剣を貸してくれ」


 私は先輩に言われるがまま剣を渡すと、先輩は棚から粘り気のある液体の入った瓶を取り出し、塗りつけた。


 そしてまた別の何か分からない薬品のような物を更に塗りつけている。


 そして呪文を唱えながら人差し指と中指で塗りつけた物を取り払うようにゆっくりと柄から剣先に指を移動させていくと剣には呪文が刻まれていく。


 その光景に私もファルスも目を見開き、言葉が出てこなかった。


「ほらっ、出来たぞ。魔法無効にしておいた」

「アルノルド先輩凄い! 俺も欲しい」

「ファルス君の剣にしても無駄だろう。魔法無効だからな。魔法剣として使えなくなるだけだ」

「えー、マーロアだけずるい」


 ファルスは従者の仮面が剝がれ落ちて物凄く不満顔だ。まぁ、そうだろうなとは思う。


「攻撃力二倍とか、素早さ三倍とか剣に掛けてくれてもいいんじゃないかなっ!?」

「ファルス、君は失格になりたいのか?」

「!?」

「まさか、知らないとはな。闘技会は剣に身体強化や魔法強化を組み込む事は違反とされているんだ。

 ただし、魔力持ちだけだがな。魔力持ちは自分で強化出来る上に装備もプラスされたら魔力無しと力の差がありすぎるだろう? だから魔力無しは認められている。

 まぁ、魔力の無い平民の多くは強化された武器や防具は高価だから普通は持っていないけどな。

 安全面を考慮してか防具は防御力を上げる事は認められているぞ? だが、マーロアの防具には既にダンジオンの装備だろうから気にしなくていい。

 それにこれは魔法無効だ。身体強化などの強化魔法には入っていないからな。失格になりようがない」


 そう言うと、アルノルド先輩は私に剣を返し、小指の先ほどのファイアボールを剣に向かって投げた。剣は鈍く光ったと思うと、ファイアボールはシュンと消えた。


「凄いですね。先輩!」

「外で試してみるといい」


 私とファルスは意気揚々と外へ出た。


「ファルス、何か投げてみて?」


【アイスボール】【ウィンドカッター】ファルスは剣に向かって魔法をいくつか唱えた。

 私は飛んできた魔法を剣で切ってみる。するとパチンと面白いように魔法が無効にされている。


「面白いわ!」


 つい私も興奮して剣を一杯振ってしまった。


「アルノルド先輩、有難うございます」


 研究室へ戻った私とファルスは先輩にお礼を言った。


「あぁ、構わないよ。これくらい。優勝してもらうためにはお安い御用だ」


 先輩はあくまで賭けに勝つつもりのようだわ。


 私たちは改めて先輩にお礼を言って部屋に戻った。因みに、一年の間に長期休暇が二回程ある。


 入学してから五ヶ月後に約ひと月の前期休暇だ。舞踏会シーズンに合わせての休暇となっている。そして二回目の後期休暇は新入生を迎えるための休暇となっている。


 そしてその前期休暇前に行われるのが試験と闘技大会。


 後期長期休暇前に行われるのが試験と魔術大会だ。闘技大会は騎士科がメインになるのに対し、魔術大会は魔術師がメインの大会になる。


 そして魔術大会の時に付随して行われているのが錬金科や淑女科の作品展だ。

 騎士科以外の上級生はみな魔術大会時に力を入れているらしい。

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