第45話
―迎えた舞踏会当日。
私とファルスは朝の鍛錬後すぐにお城へと向かった。しっかりと昨日は休んだので私もファルスも魔力も体力も満タンだ。いつも付けているリストバンド類を外しているので体も軽い。
「ファルス、久々に手足が軽いわね」
「そうだな。久々だよな。でも、今日は絶対ぐったりする予感しかない」
「私もそう思うわ。だって初めての警護だもん。それに注目だってされているだろうし。嫌だわ」
「お願いという名の命令じゃなければ絶対俺、出なかったのに」
「私だってそうよ」
「まぁ、給料出るし頑張るしかないな」
「そうよね。頑張るしかないよね」
そうして城に着くと私たちは別々の場所に案内される事になった。ファルスはこのまま騎士団の詰め所に向かうらしい。
私はというと、用意された客室に案内された。どうやらここから王宮侍女たちに磨き上げられ、ドレスを着る事になるらしい。
我が家にある自分の部屋よりも大きな部屋に入ると、部屋の中央には薄ピンクのドレスがトルソーに飾られ鎮座していた。私の既製品のドレスは原型が分からないほどカスタマイズされていた。
上品なレースがそこかしこに付け加えられており、少女が着るような可愛さと大人の上品さを併せ持った素晴らしい一品になっていたの。
元を知っている私はとても驚くのと嬉しい気持ちになった。王宮の針子はやはり素晴らしい人たちなのね。
私は一人で興奮していると、侍女たちがワラワラと部屋に入ってきた。彼らの手により、お風呂に入れられて、頭の先から足の爪先までしっかりと洗われてマッサージも徹底的にされていく。
初めてのことばかり。殆どの貴族令嬢は慣れているだろうけれど、私はこうして侍女たちに肌を晒すのは恥ずかしかった。
それと私は様々なところが凝っていたようでマッサージは激痛だったわ。侍女の説明ではデコルテを綺麗に見せるため、とか小顔にするため、とか色々説明されたのだけれど、痛みで意識が飛んでいた。
「……マーロア様、準備が整いました」
意識を飛ばしている間に王宮の侍女たちは頑張ってくれていたみたい。鏡に映っていたのはどこかのお姫様だった。
「凄い! 別人みたい。とっても嬉しいです。皆さんありがとう」
私は嬉しくなってクルリと鏡の前でターンしてみた。
「マーロア様の地が良いのです」
侍女たちがにこやかに褒めてくれたわ。そして私は装飾品を侍女に渡し、付けてもらう。
「今日はこれを着けて会場に入るわ」
私は誕生日プレゼントを小箱から取り出し、邸から持ってきた装飾品と一緒に着けることにした。
ネックレスは小ぶりな物を選んだ。あまりジャラジャラ着けるのは動きにくいし。そしてドレスで隠れているけれど、足にはしっかりとダガーを装備している。
……刻々と迫る舞踏会の時間と共にドキドキと緊張もしてきた。
着飾り終えると侍女はアルノルド先輩が待つ場所へと送ってくれた。通路には今日の舞踏会に参加する人たちがチラホラと歩いている。着飾った人たちを見ると心まで華やかになった気分になるわ。
「アルノルド先輩。お待たせしましたか?」
「今来たところだ、マーロア。今日のマーロアは美しいな。普段も美人だと思っていたが、今日はしっかりとエスコートしなければ横から攫われてしまいそうだ」
「ふふっ。アルノルド先輩お褒めいただきありがとうございます。先輩もいつもと違う雰囲気でとても素敵です」
普段のアルノルド先輩は寝ぐせが付いていようが構わないというスタンス。つまり、外見にこだわらず研究に没頭する人なのだが、今日は侯爵子息。髪を整え、紺色のタキシードでばっちりと決まっている。
改めて見るとアルノルド先輩はかなり女性にモテるのではないだろうか。研究馬鹿な所が令嬢たちをドン引きさせて近づかせないのかもしれない。
私は先輩から差し出された手を取り、会場へと入っていく。
「アルノルド・ガウス侯爵子息、マーロア・エフセエ侯爵令嬢、ご入場です」
会場の案内人が入場の知らせを入れると、会場の中に居た人たちの視線が一気に集まった。好奇や興味といった視線を感じる。
「せ、先輩。み、皆が見ています」
「あぁ、問題ない。みんな君の美しさに驚いているんだろう。君は深窓の令嬢という噂だったからな」
「ふふっ。深窓の令嬢ですか?」
私たちは仲の良い様子を見せるように話をしていると、一組の夫婦が話しかけてきた。
「君がマーロア嬢か。いつも息子の研究の手伝いをしていると聞いているよ」
どうやらアルノルド先輩の両親だったようだ。
「私こそ先輩にいつも助けてもらってばかりおります」
「アルノルドったらいつも錬金にしか興味がないと思って私たちは諦めていたのよ。女の子をエスコートする日がくるなんてっ」
アルノルド先輩のお母様は既に涙目になっている。お父様も少し目が赤いわ。そんなに心配していたの!?
私は心配になりアルノルド先輩に視線を向けると先輩はどこか照れたようなしぐさで困っていた。
「もういいだろ」
「ふふふ。そうね。二人の邪魔してはいけないわね。マーロアさん、アルノルドを宜しくお願いしますね」
二人はそう言って別の貴族たちへの挨拶をしにいった。
「先輩、愛されていますね」
「……そうだな。恥ずかしいな」
先輩の恥ずかしがる姿をみて家族っていいなと少しばかり考えてしまう自分がいた。
「これより舞踏会を開催致します。陛下並びに王妃殿下、王太子殿下並びにアイラ・サーロス公爵令嬢様、第二王子殿下並びにグレース・ジェンキンス侯爵令嬢様、第三王子殿下並びにエレノア・ノイズ公爵令嬢様、入場!」
陛下たちが入場し、王族席へと立ち挨拶している。ここから私の警護が始まるのね。アルノルド先輩と目配せをして所定の位置に着く。
シェルマン殿下たち王族のダンスが始まったわ。
なんて素敵なの。
お姫様と王子様が踊るダンスは息が合っていて情熱的で見惚れてしまうほど素敵なダンスだった。
「素敵なダンスでしたね」
「ああ、そうだな。殿下たちのダンスは終わった。私たちも踊ろう」
アルノルド先輩はそっと手を差し出してくれた。私は手を重ねて殿下たちのいる付近まで歩き場所を確保し、曲の開始と共にダンスを踊り始めた。
レヴァイン先生たちと踊る練習をしていたけれど、上手く踊れるかとても心配だったけれど、アルノルド先輩のリードはとても上手でスルスルと踊れている気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます