第44話 閑話 マーロアの誕生日

「ファルスおはよう。今日も鍛錬日和ね」

「マーロアおはよう。そうだな。じゃぁ始めるか」


 私たちはいつものように朝から学院の鍛錬場で走り込みから始まり、トレーニングし汗を流し、食堂に向かった。


「マーロア、今日はアルノルド先輩の研究室に行く日だろ? 楽しみだな。俺、意外に先輩の研究室好きなんだよな」

「アルノルド先輩の研究室は面白いわよね。おもちゃ箱みたいだもの」

「それは言えてる」


 私たちはアルノルド先輩の研究室の話をしながら朝食を終え、先輩の研究室に向かった。


「アルノルド先輩、生きていますか?」


 ドラゴンの素材を持ち帰って以降、先輩は寝食を忘れるように研究に没頭しているのは知っていたが、数日ぶりに見た先輩のなぜか恍惚とした表情に唖然とした。


「マーロア、ファルス。よく来た。私はちゃんと生きている」


 余程研究が楽しいみたい。私は目の下に大きなクマの出来た先輩を心配して回復魔法を有無も言わさずに掛けた。


 先輩の表情を見て何か危ない事になっているのではないかと心配したけれど、杞憂だったようだ。錬金する事が楽しくて仕方がないのだとか。


「気を遣わせてしまったな。もうすぐイェレも来る」

「イェレ先輩も? 今日は何かあるのですか?」

「まぁな。ファルス用意を」


 ファルスは急に従者モードとなって研究室を出て行った。


「マーロア、いる?」


 そう言って研究室に入ってきたイェレ先輩。何か箱を抱えて居るわ。そしてファルスと共に貴族用食堂の従者が食べ物を研究室に運んできた。


「ファルス? これはどうしたの?」


 テーブルに並べられた高級そうな料理。


「「「マーロア、誕生日おめでとう」」」

「!!」


 そうか、今日は私の十五歳の誕生日。


「ありがとうございます。とっても、嬉しい、です」


 私は感極まって目頭が熱くなる。


「マーロアお嬢様、俺からのプレゼントです」


 そう言って黄色のリボンが付いている箱を渡してくれた。開けて見ると、私好みの髪飾りが入っていた。


「ファルスありがとう! とっても可愛い。早速付けてみていい?」


 ファルスは髪飾りを髪に付けてくれたわ。


「マーロア、良く似合っている」

「私のプレゼントも受け取って欲しい」


 そうアルノルド先輩は小さな小箱をそっと私の手に乗せてくれた。小さな箱を開くと、小さな魔石の付いたピアスだった。魔石は磨き上げられて宝石のように煌めいている。


「アルノルド先輩、凄い!」

「屑魔石にちょっと細工をしてみた。一度だけだがどんな攻撃からも守ってくれるはずだ」


 磨かれた魔石は宝石のように綺麗でとても屑魔石には見えない。金細工で施されていて素晴らしい出来になっている。ずっと眺めていたくなるほど素敵なピアスになっていた。


「アルノルド先輩、大切にしますね」

「屑魔石を錬金で作っただけだから気にしなくていい」

「マーロア、俺の作った誕生日プレゼントも見て欲しい」


 イェレ先輩はそう言って箱からアンクレットを取り出した。


「どう? 凄いだろ? 俺が魔力で彫りこんだ一品だ。魔力を流せば俺に信号が送られてくるんだ」


 イェレ先輩の作ったアンクレットは金のチェーン部分にコインサイズの魔法円が彫られた物が付いていた。アンクレットなら他の装飾品を邪魔することなく付けていられる。


「ファルスもアルノルド先輩もイェレ先輩も有難うございます。本当に嬉しいです。大切にします!」


「喜んでもらえてよかった。さぁ、お嬢様。食事も用意しておりますので食べませんか?

 本日は貴族食堂の料理長に特別に注文した誕生日メニューでございます。ワインや果実水を侯爵家の執事、オットーより預かっておりますのでお召し上がりください」


 ファルスはそう言うと、従者モードで食事を取り分けてから皆で美味しくいただいた。


 私は今日という日が人生で一番素晴らしい宝物となった。

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