第21話
「おはようございます。マーロアお嬢様」
ファルスの起こす声で目を覚す。
「もうそんな時間? 早く用意しないとね」
私はいつものように飛び起きてさっと着替えると鍛錬場へと向かった。レコは訓練場で既に座って待っていた。
「遅いですよ、お嬢様」
「ごめんなさい。そうだ、レコ。今日は非番でしょう? 私たち学院の買い物に出掛けるのだけど、一緒に剣を見て欲しいの」
「賭場に行こうと思っていましたが、仕方ありませんねぇ。ついて行きますよ。では朝の鍛錬を始めますよ」
そうして走り込みから始まり、腹筋、スクワット、腕立て伏せを行ってからファルスと打ち合いをして朝の訓練を終えた。もちろん朝食は部屋で取った。
あのあと家族の誰かが私の所に不満を言いに来ることはなかったわ。
父も母もあの後、妹たちを宥めるだけで叱らなかったのだろう。
訓練を終えた私たちはシャツとズボンに着替えて帯剣する。もちろんファルスもレコも同じように庶民の服に帯剣していて準備はばっちりのようだ。前回はアンナがいたので侯爵家の馬車を使ったけれど、今回は歩きで街に出た。
買った品物は直接寮に送るように手配されるので手ぶらで行って帰ってくればいいらしい。そうそう、余談だけれど、領地と邸のやり取りをする郵便魔法は送る場所が固定されているから使える方法なの。
それに生き物類は送れないのと送る重さも決まっているの。自分たちが好きなように移動出来ないのは残念な所。魔力量が関係しているらしいのだけどね。きっと王族や国一番の魔術師位になると転移は出来るのかもしれない。
魔法紙は前に説明した通り。小さな手紙類を送るための物で一、二回使うと字が掠れてしまい使えなくなる代物だそうだ。
あと、珍しいけれど、魔法でメッセージを送るという事は出来るらしい。鳥などの形を作って一言乗せるだけというもの。
色々な方法があって奥深いわ。
「お嬢様、まずあそこで制服を準備するそうですよ」
ファルスが指さした場所は少し広い会場になっていて平民たちが制服を買い求めている様子。私たちもその列に加わって制服の採寸を手早く行った。どうやら仕上がった制服は寮に届けてくれているらしいのでさっさと次の買い物に行く。
もちろん私は学生用の騎士服が制服となるみたい。ずっとズボンで過ごせることに少しほっとしたわ。ドレスのような物が制服だったら動きにくくて仕方がないわよね。あぁ、貴族令嬢はお淑やかでゆっくりと歩くのが当たり前なんだったっけ。
次に来たのは雑貨が置いてある商会。
「ここで筆記用具や寮で使う小物を買うのね」
私とファルスは使い勝手のいい物を選んでいく。学院の資料に寮にはお茶を沸かせる程度の簡易的なキッチンとバス、トイレがあった。もちろんバス用品とトイレ用品もしっかりと購入した。
本当は寮に備え付けの最低限の物だけを使おうと思っていたのだけど、出発直前に父が侯爵家の人間として恥ずかしくない物を揃えなさいってお金をくれたの。
ファルスはというと自分の給料から買うみたい。どれくらい貰っているの? って聞くと結構貰っているぞと答えるだけだったのよね。クッ、やはり貧乏人は私だけのようだ。
「後は魔法屋ね。私初めて行くからドキドキするわ」
「そうですね。お嬢様は魔法を使いませんからね。村にも無かったですし、じっくりみていきますか」
少し歩いた所に古ぼけた怪しい店が見えた。
扉をギギギと開けると、そこは広い店内に所せましと並べられた不思議な品物が沢山置いてあった。
「おや、魔術師科の生徒ではないねぇ」
「えっと、騎士科なんだけど、このリストに書かれている道具を買いに来たんだ」
ファルスは店員のおばあさんにリストを見せるとすぐに道具を出してくれた。
「お嬢ちゃんは魔力なしかい? なら、これを買っていきな」
取り出したのは遮蔽瓶に入ったクリームのような物だった。
「おばあさん、これは何?」
「これは傷薬さね。魔法が使えないお嬢ちゃんでも塗ればすぐに傷が治るよ」
「ありがとう。村では薬草をすり潰して貼ることしかしていなかったの。これなら緑色にならないし、臭くないわ」
私は早速鞄にしまった。これは是非とも持ち歩きたい代物だわ。魔法で治癒するのは出来るのだけど、それだとバレてしまうからね。
ファルスがいればファルスが掛けてくれるので問題はないけれどね。
私たちはおばあさんにお礼を言って次の武器屋へと向かった。
「レコ、剣って新調した方がいいのかしら?」
「そうですねぇ。お嬢様もファルスも長年使っていますからね。良いのがあれば買った方がいいですね。侯爵様から費用も貰っているのだからここは良いものを買うべきかなー」
「俺、刃こぼれしている部分もあるから新しいの欲しいんだよね」
せっかくレコと一緒に王都の武器屋に来たのだから、とアドバイスを聞きながら買うことにした。
武器屋に入ると、剣や斧、槍など様々な物が陳列されてあった。何となく斧を手に持ってみたけれど、私には重すぎたみたい。ファルスもその姿を見て笑っている。
「レコ、私はどんなのがいいのかな」
「俺も! 俺も聞きたい」
「えー、面倒ですが見てみますか」
「ファルスは魔力を乗せて叩き切るようなスタイルになっていくだろうからこれでいいんじゃないか」
そういって差し出したのは初心者用グラディウス。柄の部分に魔石が埋め込まれていて魔法を込める事が出来るいわば魔法剣。値段はピンキリならしい。まだまだ初心者のファルスにはそれほど高い物は必要ないようだ。
「お嬢様は、素早さを活かした剣が良いですね。軽くて剣が硬く、切れ味の良い物かな。これなんかどうです?」
レコが手に取ったのはヴァイキングソードと呼ばれる刀身の長い片手剣。それと小さめの投擲用ダガーナイフ三本だった。
「お嬢様は投擲も練習した方がいい気がするんですよね。なんかカッコいいでしょう?」
確かに私自身ファルスに比べると力は足りないと思う。身体強化使えばファルスを超えるけれど、素早さを活かしたものがいいと思う。それと投擲か。
レコに差し出されたダガーナイフを握ってみる。小さい分手にしっくりと馴染んで投げやすそうだ。
きっと毒や痺れ薬を塗って投げるといいんだよね。でも、魔獣に投げたら食べられなくなってしまうから余程の事がない限り投げるのは駄目かも。
もしかして対人戦用?
お茶会に出没する悪い奴に投げる?
自分が投げる姿を想像してみてみる。
……いい感じかもしれない。
「レコ、レコが選んでくれた剣とダガーナイフを買うわ」
私とファルスはレコの選んでくれた武器を買うことにしたの。新しい武器にとっても満足。ウキウキと鞘の飾りを選んでいると、レコが聞いてきた。
「ファルスもお嬢様も剣を買うのはいいですが、防具はどうされるのですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます