第22話

「え? 防具?」

「……やっぱり何にも考えていなかったんですね」


 えっと、防具の存在は知っているわ。今まで使った事がなかっただけよ。私もファルスも考えていなかった。レコはおいおいと呆れていたわ。


「レコ、防具は必要なの?」

「当たり前です。これから先命がいくつあっても足りませんよ」


 私の質問にレコは大袈裟に溜息をつきながら肩をすくめているわ。


「まぁ、今まで子供の体型で防具が合わなかったし、そこまで強い魔物と戦う事はなかったですからね。ついでに防具も見に行きますか」


 そのまま私たちはレコと一緒に防具屋へ向かう事になった。どうやら王都に住んでいた頃、行きつけにしていた防具屋らしい。武器屋の四軒隣の古ぼけた防具屋に入っていった。


 レコ曰く、頑固ジジイで客を選ぶが防具は一級品なのだそう。



 ギギギと今にも壊れそうな扉を開くとカウンターの向こうにおじいさんが一人座っているだけで店には防具という防具は飾られていない。不思議に思っていると、


「ジジイ、生きていたか」

「レコか、久しぶりだな。今日はどうしたんだ」

「この子たちに初心者防具を見繕ってほしいんだ」

「ツケにはせんぞ」

「一括で払うから大丈夫だ」


 おじいさんは胡散臭そうにレコを見ている。確かにレコはちょっと胡散臭そうに見えるわ私でも。


「おい、坊主。ちょっと来い」


 おじいさんはレコの後ろにいた私たちに気づいたようだ。私たちをジロジロと見た後、ファルスはおじいさんに呼ばれて前に出る。


 おじいさんはカウンターから出てファルスに剣を構えさせてじっと何やら見つめている。


「……合格だ。次は嬢ちゃんだ、おいで」


 私はおじいさんに言われた通りに剣を構えたりした。


「ふむ、レコ。たまにはいい仕事をするんだな」

「たまに、は余計です。ジジイ」

「坊主は力任せに攻撃するタイプだから隙も多くなるな。覆うタイプの防具がいいだろうが、動きにくくなるから服の中に着られるような軽めの鎖帷子だな。

 嬢ちゃんは身体強化に特化しているようだから軽い物がいいな。革を中心にした胸当てとガントレッド、グリーヴが良さそうだな」


「おじいちゃん、凄いわ。一目見ただけで身体強化が分かるなんて」

「当たり前だ。この道何十年もワシはやっとるんだ」

「ジジイ、お嬢様はちょっと訳アリだ。魔力無しとなっている。その辺を含めて頼む」


「そうか、分かった。では身体強化した時でも魔法が他に見えないように裏に細工を施しておくのと装飾を施して置くことにしよう。原型の在庫はあったから出来上がりは三日後だな。では前払いで金貨三十枚だ」


 レコは袋に入った金貨を渡した。おじいさんは小袋を受け取るとさっさとカウンターの後ろへと入っていってしまった。それにしても初心者防具で金貨三十枚は法外な値段だ。


 一体どんな物が出来上がるんだろう。


 町のギルドでもカウンター横に初心者用武器と防具が売られていたけれど、金貨十枚がいいところなのよね。貴族が使う武器や防具には装飾や宝石が施されて金貨数百枚はするらしいのだけど。


 父から出掛けに貰った金貨の殆どを防具に使ったのではないかしら。貰っていて良かった。


 そうして私たちは一通り買い物をしてから邸へと戻った。


 



 無事に買い物も済み、邸で過ごすことはや一週間。やることも特にないので朝の鍛錬以外は静かに部屋で過ごした。


 ようやく寮へ入る日となり、私とファルスは学生用の騎士服に帯剣して執務室へと向かった。執務室では父と珍しく母、オットーがいた。私を待っていたのね。


「お父様、お母様。私は寮に行ってまいります」

「あぁ、無理はするな。何かあったらいつでも帰ってこい」

「……その恰好。勉学に励むのですよ」

「はい」


 母は少し眉間に皺を寄せていたけれど、それ以上言うことはなかった。


 このやり取りにお互い親子の別れのような、惜別の思いはなくあっさりとしたものだった。


 父も母も淡々としていて彼等にとってはただの通過儀礼のような感じにも見える。結局あれから父は私には何も言ってこなかったわ。


 貴族の家族とはこういうものなのかな?


 私とファルスは父と母に一礼した後、私たちはさっさと馬車に乗り込んだ。



「ようやく寮生活が始まるのかぁ。楽しみだよな」

「そうね。短い間だったけれど、息苦しかったわ」


 私たちは寮の入り口で侯爵家の馬車を降り、御者にお礼を言ってそのまま寮へと向かった。寮はもちろん男子寮と女子寮とで別れている。女子寮の方が塀に囲まれていたり、結界が張られていたり、警備兵がいたりと厳重となっている。


 そして貴族寮と平民寮と別れているらしい。事務から聞いた話によると貴族寮は一人部屋のようで侍女を付けていいようだ。もちろん風呂場もキッチンも備えている。


 私の場合は貴族寮に入っても良かったみたいだけれど、平民寮に入った。もともと平民になるつもりだったしね。でも、父の意向で平民寮でも個室の一番いいところに入っている。


「じゃぁファルス、夕ご飯に食堂で」

「おう、またあとでな」


 私は女子寮の寮母さんに寮での暮らし方の説明を聞いて一番上の階の部屋へと入っていく。

 上位成績者は上階になるらしいわ。私は魔法鍵を扉に掲げて開錠して部屋に入る。


 これは最初に必要な手順らしいわ。


 次からは私自身と登録許可をした人(例えば侍女)は鍵が無くても入れるようになるらしい。魔法でどうやっているのかしら? ちょっと気になる所よね。


 そうして部屋に入ると既に荷物が置かれていた。


 少しワクワクしながら荷物を戸棚やクローゼットに仕舞っていく。部屋はとても綺麗な部屋だった。


 最低限の物が置かれた感じだけれど部屋はまぁまぁ広い方だと思う。


 部屋の内装については有能な魔術師の卵や錬金術士の卵は部屋の広さも含めて色々とカスタマイズするらしい。扉を開けると森が広がっていたり、ミステリアスな空間が広がっていたりするのだとか。


 偶に部屋に訪れた寮母さんにばれて、叱られるようだ。


 そう寮母さんが言っていた。私には出来そうにないけれどね。片づけをずっとしていたら気づいたら時間が経っていた。


 ……そろそろ夕食かしら。


 私は区切りの良いところで片づけを止めて食堂へと足を運んだ。どうやらここでも貴族と平民は違うらしい。


 平民でも成績上位者は貴族の食堂でも食べられるらしいのだが、何だか食べづらそうな気もする。


 因みに上位成績者には校章にリボンが付いていてそれが目印になっている

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