第57話
そして迎えた夕食。アンナと共に食堂へと向かうと父と母が先に席に着いていた。
「遅くなり申し訳ありません」
「いや、私たちが早かっただけだ」
席に座るとすぐに食事が運ばれてくる。黙々と食べていると母が口を開いた。
「マーロア、明日からドレスを着なさい。侯爵令嬢なのですから」
「わかりました。夕食時にはそうします」
上手く言葉が嚙み合わない感じ。そうよね、今までテラとサラしか会話してこなかったのだから。
「それにしてもマーロアにいつも付いている従者はどうしたのかしら?」
「ファルスはまだイェレ・ルホターク様の手伝いをしていると思います。魔術師大会まで残り数日。卒業生の研究発表のお手伝いをしています」
「イェレ・ルホタークと言えば学生ながらも王宮魔術師として活躍していると聞いている。マーロアは殿下といい、いい人脈を築いているのだな」
「お茶会や舞踏会に参加しなくても王家や有力な貴族との繋がりを作っているのなら何もいいません。ですが、マーロア。一令嬢として騎士科にいる事は恥ずかしい事なのですよ。卒業後すぐに婚姻出来るような相手を見つけなければなりません」
私は食事の手を止めて母をジッと見つめる。
「お母様、私は「シャス、黙るんだ。マーロアに無体を強いてきたのは私たちだ。忘れたのか?」」
父は私の言葉を遮り、私に助け舟を出してくれている。
「私たちの決めつけがサラをああしてしまったのだ。それに私たちの勝手な行いでマーロアは赤子の時から今までずっと一人だったのを忘れたのか?」
母も父の言う事にグッと言葉を詰まらせた。私の事で、というよりサラの事を思い出したのだと思う。私は反論する気でいたけれど、父が話してくれたので溜飲も下がり口を閉じた。
すぐに興奮して反論しようとするのは私の悪い所ね。気を付けないと。
自分でも少し反省する。私は少し気まずいながらも夕食を食べ終えて自室へと戻った。
夜も遅くなってから魔法便が届いた。
どうやらイェレ先輩の魔術はようやく完成したようだ。これから論文に移るらしい。今日はこのまま徹夜で先輩の手伝いをして翌日に邸に戻ってくると書いてあった。
イェレ先輩の研究も成功して良かったわ。先輩たちの窶れていく様を見てとても心配していたのでホッと安堵の微笑を溢した。徹夜明けできっと使い物にならないだろうから明日の鍛錬は一人で行う事にしよう。そして私はベッドへ入った。
いつものように早朝目が覚めてから私は鍛錬場に一人で足を運び、汗を流す。毎日の鍛錬はやはり欠かす事は出来ない。そしてシャワーを浴びて学院の制服に着替えてから食堂へと向かった。
「お父様、お母様。おはようございます」
「「マーロア、おはよう」」
お互い気持ちを切り替えて朝の挨拶する。
「魔術大会までもう少しね。今日はどうするのかしら?」
「授業はありませんが、アルノルド先輩のお手伝いに行こうかと思っています」
「そう、それなら仕方がないわね。明日は一緒に買い物にどうかしら?」
「わかりました」
食後すぐに私は学院へ出掛けた。
ファルスは大丈夫かしら。私は食堂へ寄ってからイェレ先輩の研究室へ向かうと転がって眠っているファルスの横で死んだ魚のような目をしたイェレ先輩が論文を書いている。
回復魔法を使っていない様子を見ると、魔法円に全て魔力を使ったのだろうと思う。私はイェレ先輩とファルスに回復魔法を掛けた。
「おはようございます。先輩大丈夫ですか?」
「……マーロア、おはよう。回復魔法をありがとう。出来れば少し魔力も分けて貰えるかな」
私は先輩に手を差し出すと先輩はヨロヨロと立ち上がり、私の手を取った。私はイェレ先輩に魔力を流し始める。
「あぁ、相変わらずマーロアの魔力は心地いいね。癒やされるよ」
イェレ先輩には十分の一位の魔力位は渡せたと思う。魔力も体力も回復したイェレ先輩は体を伸ばしてからまた論文に取り掛かり始めた。
「先輩、朝食も持ってきましたよ。ファルスも起きて」
私はテーブルの上に朝食を置いてファルスを起こす。体力は回復魔法で回復をしているのでパッと目を覚ました。
「おはようマーロア。まだ眠い」
ファルスはイェレ先輩と一緒に朝食を食べ始めた。
「先輩は論文の方は大丈夫そうですか?」
「あぁ、勿論だ。あと少しで終わるだろう。明日は会場の準備をするだけだな。そうだ、マーロアは実家に帰ったんだろう? そのまま実家から通う事になるのか?」
「とりあえず後期休暇の期間は邸に住む事になりました。その後はどうするかまだ悩んでいます」
「サラ様もテラ様も居ないからまだ良かったよな」
「そうね。お母様に昨日からチクチク言われているけどね。気が重いわ」
ファルスは朝食を頬張りながら話をする。イェレ先輩は食事を終えると論文に取り組み始めた。加速魔法を使っているようで物凄い速さで書き上げている。
私は先輩の邪魔になるといけないのでファルスを回収して研究室からそっと退室した。その足でアルノルド先輩の研究室にも朝食を持っていく。
「先輩、朝食を持ってきました」
「あぁ、ありがとう。そこに置いてくれ」
やはりアルノルド先輩も食事を摂っていなかったみたい。先輩は普段しっかり朝食を摂る方だと思っていたのだけれど、それほど忙しいのかもしれない。ファルスは先輩にお茶を淹れている。
「イェレ先輩は加速魔法で論文を書いていましたが、先輩は魔法を使わないのですか?」
私はふと聞いてみるとアルノルド先輩は気づいていなかったみたい。直後から加速魔法で書き始めた。これにはファルスも苦笑している。
魔法のおかげで一段落がすぐにきたようで先輩は朝食を食べ始めた。
「いやー加速は頭に無かったな。論文もあと少しで終わるが、これで一気に書き上げる事が出来るな」
「明日はお手伝いに来なくても大丈夫そうですか?」
「私の発表は品物とそれに付随する論文を展示するだけだから大丈夫だ。そうだ、マーロア。卒業式後の卒業パーティで君をパートナーとしてエスコートしても良いだろうか?」
「嬉しいです。でも私が気軽に返事して良いものではありませんし、父に聞いてみますね」
「そうだな。侯爵にお願いをこちらからも出しておく」
こればかりは貴族同士の派閥の兼ね合いもあるので婚約者が居ないからと安易にパートナーを選んではいけないらしい。
そうして私たちは先輩の邪魔にならないようにファルスと研究室を出た。
「ファルスは一度寮に戻る?」
「んー、昨日帰っていないしな。マーロアが寮住まいから邸に変わるんなら俺もそうなるし、荷物を持っていかないといけないからなぁ」
「そうよね。私も一旦寮に帰って休憩するわ。邸より寮の方がゆっくりできるもの」
「そうだよな。俺もそう思う。荷物を纏めたら迎えにいくよ」
「待っているね」
そうして私たちは寮で別れてから私は部屋に入ってほっと一息を吐いた。暫くここに来ないと思うと心が重くなるわ。母は貴族らしい人だと思う。
話が合うのか、明日の買い物はどうなるのか、色々心配だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます