第58話
ベッドに転がりながら考えていると、ファルスから準備が出来たと連絡が来たのでさっと立ち上がり部屋に鍵を掛けて出た。
「早かったね」
「そうか? まぁ邸に持って帰る物なんて殆どないしな。寮に置いて置けば忘れ物をしてもすぐに取りにいけるから便利だろ?」
「ふふっ。でもすぐに長期休暇じゃない」
「まぁな!」
私たちはそう笑い合いながら邸へと向かった。
その晩、父から執務室へと呼び出された。きっと先輩の事よね。家同士で連絡を取るはずなので先輩はすぐに侯爵家に連絡を入れたのだろう。
「お父様、失礼します」
私は執務室へ入り、ソファに座った。
「あぁ、マーロア待っていた。早速だが、ガウス侯爵家から卒業パーティのパートナーの願いが来ている」
私は父からガウス侯爵家から来た手紙を受け取り目を通す。
「もう侯爵家から魔法便で来ていたのですね。朝、アルノルド先輩からパートナーのお誘いはされましたが、私個人では判断出来ないので父と相談しますと話をしました」
超特急で侯爵家に連絡を取って侯爵家からも超特急でうちに連絡をしたのねきっと。その速さに驚きを隠せないわ。
「……そうか」
父は何やら考えている様子。派閥の影響を考えているのだろうか。
「マーロアは参加したいか?」
「アルノルド先輩にはいつもお世話になっていますが、お互い侯爵家ですから影響を考えるとどちらでも構いません」
私は素直に口にした。
「いや、我が家は何の問題もない。だが、卒業パーティのパートナーとなると、ガウス侯爵家はマーロアを婚約の候補と見ているのかもしれない」
「先日、舞踏会の護衛の時にガウス侯爵夫人はアルノルド先輩と一緒に居たことをとても喜んでおりました。けれど、魔力無しと分かるとガッカリされるし、反対されると思います」
「……そうだな。参加するならしなさい。うちは構わない」
「わかりました。アルノルド先輩とは今後も魔獣狩りを一緒に行く事になると思います。断るのもなんですから受けます」
「うむ。では侯爵家に知らせを出しておく。シャスには極力黙っているように」
「分かりました」
きっと母は喜んで婚約の話を推し進めていくに違いない。
母は私から見ても貴族らしい貴族だもの。女の幸せは高位貴族と婚姻するものだとおもっているに違いない。父もそれを理解していたからこそ母には黙っているようにと言ったのだ。
「お父様、ドレスはどうすれば良いでしょうか?」
「前に採寸をしただろう? その時にいくつかドレスを作っているからその一つを選んで着ていくといい。飾りも侍女長がドレスにあった物をいくつか選んで用意しているから大丈夫だ」
「お父様、有難うございます」
「当たり前の事だ。気にするな」
そうして私は部屋に戻った。
「マーロア、明日は夫人と買い物なんだろう? 大丈夫なのか?」
ファルスはちょっとだけ心配そうに聞いてきた。
「まぁ、なんとかなると良いわよね。今から気が重いわ」
「まぁ、明日は俺も従者兼護衛として付いていくからな」
「明日普段着では駄目よね?」
「駄目に決まっているだろうな。夫人は許さないと思うぜ。なんでだ?」
「だって王都の治安は良いほうだと思っているけれど、お母様と一緒だもの。誰かに絡まれた時に帯剣していないと不安だわ」
ファルスがフッと笑った。
「俺が帯剣していたら大丈夫だろう? マーロアの剣は細いから予備の剣として俺が帯剣しておけばいいんじゃないか? なんだったらダガーを足に着けておけばいいさ」
「確かにそうね。ダガーなら問題無いよね。今から明日着ていくワンピースに細工をしておくわ」
私はいい案だとファルスの意見に乗っかる事にした。アンナに明日の服を出してもらい、ポケット部分に細工を施す。アンナは嫌な顔を一つせず、むしろ他のワンピースも同様に細工を施すように裁縫を手伝ってくれたわ。
裁縫は得意ではないけれど、私だって最低限の縫物くらいは出来るのよ? ファルスの方が器用なのは内緒だけれど。そうしている間に一日が終わってしまった。
翌日、少し遅い朝食を摂った後、街に出掛ける準備をする。アンナの選んでくれたワンピースのテーマは商家を営む親娘らしい。
私が普段着る服より数倍お金が掛かっている感じだわ。実際にそれくらいの金額なんでしょうけれどね。
ファルスは帯剣するため我が家の護衛の服を着ている。いつもより凛々しく見えるのは服の効果なのかもしれない。でも若いからって舐められそうよね。
私とファルスは玄関ホールで母を待っていると、母は何処までも貴族だった。上品なドレスを着てツバの長い帽子を被っている。
「お母様、行きましょうか」
「あら、早かったのね。では早速いきましょう」
オットーが玄関の扉を開け、いってらっしゃいませと送り出してくれる。いつもなら私は歩いていくけれど、今日は母との買い物なので馬車での移動になる。ファルスは私たちを馬車の中へエスコートすると後ろの部分に乗り込んだ。
「お母様、今日は何処へ行くのですか?」
「今王都で流行っているというケーキを食べに行きたいわ。あと、お洋服も見てみたいの。いつも邸に呼んでいるけれど、偶にはお店にも足を運びたいと思って」
「ケーキ、私も食べてみたいです」
「まず洋服を見にいきましょう。王妃さま御用達のお店があるの」
「そうなんですね」
私は母との会話に頑張って笑顔で答えているけれど、きっとその顔は引きつっていたに違いない。
馬車はお店の前に停まるとすぐにファルスが降りてきて私たちの手を取り馬車から降ろしてくれる。
―いらっしゃいませ―
店内に入ると店員が一斉に頭を下げて挨拶をする。王妃様ご用たちのお店はやはり違うのね。
「いらっしゃいませ、今日はどのようなドレスをお探しですか?」
店員の言葉に少しがっかりする。やはりドレスなのね。
「娘のドレスを作りたいの」
「サラ様でしょうか? 採寸は済んでおりますのでデザインを決めて頂ければすぐにお作り致します」
店員の一人がさっと動こうとしているが、それを母は止める。
「今日はサラのドレスではないの。もう一人の娘、マーロアのドレスを何枚か見繕って頂戴」
今まで存在も無かった娘が突然現れたのだし驚くよね。でも表情を崩さないのは流石プロ。私は部屋の奥に案内され、採寸を事細かく行われる。
ドレスの流行はよく分からないのでデザインは母に任せるとして、色の好みや動きやすい方がいい事を伝える。そして他の令嬢には無い仕様を母にも内緒で、とお願いしたの。
例のアレ。
ポケットからダガーナイフを取り出せるように工夫してもらうやつね。
店員には殿下の護衛を行う時がある事を伝えるとあっさりと理解してくれたみたい。そこからは店員からの提案もあったわ。色々とドレスに細工をしてくれるらしい。
実は王族の服も色々と細工されているのかしら?
「お母様、採寸が終わりました」
「あら、早かったわね。こちらもデザインを決めた所よ。さぁ、行きましょうか」
母は席を立ち店員は一斉に頭を下げた。店を出て母は歩き始めた。
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