第27話

 翌日は母国語、歴史、音楽、魔法学で授業が終わった。ファルスと今日は何をしようかと貴族の食堂で話をしていると、突然後ろから声が掛けられた。


「マーロア!!」


 振り向くとそこにはかつての婚約者であったディズリー伯爵子息の姿があった。ディズリー伯爵子息はなぜか怒っているような雰囲気だわ。


「どうされましたか? ディズリー伯爵子息様」

「どうして婚約解消をしたんだっ」


 私とファルスは突然のことに『えっ!?』と驚いたが流石にここでは話していい話題ではない事くらい私でもわかる。


 周りにいた貴族たちは静かにこちらに視線を向けていて、興味津々なようだ。

 私はすっと表情を無くし、つとめて冷静に答えた。


「あら、ディズリー伯爵子息様、このような所でそのお話はいかがかと思いますわ」


 ファルスも従者の顔つきとなり食事の手を止めてそっと私の後ろへ回った。だが彼は周りが見えていないのか気にしていないようだ。


「魔力の無いお前を嫁にしてやるって俺の情けがわからないのか」


 これには少しカチンとくるわ。


「私にはその情けというものは必要ありませんわ。私の事など気にせず、新しい婚約者の方の事を思ってあげてくださいませ」

「なんだとっ! 俺の厚意が分からないのかっ」


 ディズリー伯爵子息は感情が高ぶったのか顔を真っ赤にして手を振り上げた。


「あら、か弱き令嬢に手を上げるなんて伯爵家ではどういう教育をなさっているのかしら?」


 そう横から制止するように声を掛けてきたのはエレノア様だった。どうやら殿下とお食事中だったようだ。


「エレノア様、お食事中お手を止めてしまい申し訳ありません」


 私はディズリー伯爵子息を無視してエレノア様に礼をする。彼もまさかエレノア様に止められるとは思わず一歩後ろへ下がった。


「魔力があろうと無かろうとマーロア様はマーロア様ですわ。ねぇ、シェルマン殿下?」


 エレノア様の腰を抱くようにそっと隣に立ったシェルマン殿下。もうディズリー伯爵子息の顔は白くなる一方だ。


「君は僕のクラスメイトを馬鹿にしているのかい? とてもがっかりだよ、ディズリー君」

「たっ、大変申しわけございませんでしたっ」

「ディズリー伯爵子息様、どうかお引き取りを。私、ディズリー伯爵子息様のご厚意に縋らなければ嫁にいけない程落ちぶれてはおりませんの」


 私がそう言うと、彼はさっきまでの白い顔がまた真っ赤になり、私を睨みつけ、ドタドタとそのまま出て行ってしまった。


「マーロア様、大丈夫でして?」

「エレノア様、シェルマン殿下、お止めいただき有難う御座いました」


 私もファルスも騎士礼を執る。一応騎士科だからね。


「そんなに畏まらなくてもいいよ。彼はいつもああなのかい?」

「彼と会ったのは今日で二度目です。初めてお会いしたその日に彼は魔力の無い私を嫁に貰って愛人を囲うとかどうとか言っていました。父が先日婚約解消の手続きをしたはずですが、後で抗議しておきます」

「そうね、レディに手を挙げるなんて男の風上にも置けないわ」


 私とファルスはお騒がせしましたとまた礼をし、食堂に居た人たちにも礼をした。


 その後は皆また騒ぎの前に戻り食事することとなった。私とファルスは食後、図書室で勉強する事にしたの。成績は落とせないからね。


「なぁ、マーロア。さっきの凄かったなアイツ。馬鹿だよな」

「あぁ、彼ね。手を挙げるなんて最低よね。止めてくれたエレノア様たちに感謝しないとね」

「そうだよな。エレノア様が止めてくれなければ、マーロアが殴り飛ばして腕の一本くらいはやっちまってたよな!」

「ばれてた?」

「当たり前だろ? 何年一緒にいるんだ。あんなへなちょこに叩かれる程の俺らじゃないだろ」

「そうね。今度来たら、楽しみだわ!」

「こえーよ」


 私とファルスはそう軽い口を叩きながらこの日はしっかりと勉強する事ができた。


 そしてファルスは父宛てに定期報告と元婚約者の行動を抗議するように連絡していたようだ。

 夜になってから魔法便で『しっかりとディズリー伯爵に抗議しておいた』と書かれた手紙が送られてきたわ。


 一先ず、安心していいのかしら?


 翌日、ついにちょっと待っていた騎士科の実技練習。その間はエレノア様とハノン様は刺繍や裁縫の時間で文官志望の人たちは専門の教科、魔術師科は魔術の実技を行っている。


「ファルス、楽しみね」

「あぁ、座学ばかりじゃ身体が鈍るよな。さっき朝の訓練したばかりだけど」


 そして私を含め五名程の参加になっている。私とファルスとシェルマン殿下と側近のニコライ様。そして純粋に騎士志望のアント様。


「よし、今日は初授業だ。私の名はモーガン・アシュレイだ。五人の選ばれし騎士科の諸君、まずは君たちの実力を見せてもらうために対戦を行う。

 そうだな、アント君とファルス君。マーロア君とニコライ君で対戦だ。シェルマン君はそこで待機だ。まず、アント君とファルス君前へ」


 先生は二人に木刀を渡し、ルールの説明を行った。『はじめ』の合図で二人は動きだす。


 最初の一手はファルスからだった。


 ファルスは素早く上から叩き込むとアント様はしっかりと受け止めた。いつもファルスが扱う剣はこの木刀より重いので軽く扱えている。


 アント様はどちらかと言えば騎士の王道を行くような感じだわ。いや、みんな騎士科の人は各家の流れというか型をきっちりと守っていると習ったわ。


 そこからはみ出さない忠実さ、というのかしら。

 私たちの師匠はレコだもの。あの型本当に合っているの? なんてザラだったわね。


 レコの型を元にレヴァイン先生に基礎的な物はしっかりと教えて貰ったけれど、どうやら王都の騎士たちの型とは違うみたい。


 アント様が突きを出した瞬間ファルスはニヤリと笑い、突き出された剣をサラリと躱して手元から木刀を叩き落とした。


 落ちた木刀を踏み抑え、ファルスの木刀はアント様の首元に当てられている。ほんの一瞬での出来事だったわ。


「止め! 二人とも良い感じじゃないか。すぐにでも騎士になれそうだぞ。では次、マーロア君とニコライ君、前へ」



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第二十四話目が十五席なのにクラスメイト二十五人居るという…。ご指摘ありがとうございます!!

椅子取りゲームになっていましたので変更しました。

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