第26話
翌日、日課となっている早朝トレーニングを終え、登院。今日の科目は残念な事に魔法の実技があった。
魔力無しの私はみんなの実技を見学してレポートを出すことになっている。
今日は初めての実技という事もあって簡単に魔法を出す授業のようだ。このクラスはみんな魔力持ちだから必然的に私以外は全員実技に参加している。
私は先生の話を纏めているだけ。魔力を循環させて指から出す。その時に詠唱を行う。まずは【ライト】のようだ。基本中の基本よね。私でも出来るわ。
流石にSクラスはこの程度ではないらしい。次に先生は【ウォーター】を出させた。
「これは簡単ですね。初歩の初歩ですからね」
「先生、もっと難しいのないの?」
先生は待ってましたとばかりにニヤリと笑った。
「Sクラスの授業はここからが本番です。この【ウォーター】をただの水球ではなく凝縮させる事、その次に鳥や花の形に変える事です」
一気に難易度が上がったわ。
私は先生の話をしっかりとメモを取り、考察を書いていく。ファルスは水球を出して魔力を多めに出して圧力を掛けているらしい。他の生徒も一気に難しくなった課題に苦戦を強いられている。
私も後でこっそり部屋に戻ったらやってみよう。何となく出来そうな気はするのよね。
他の生徒たちは確かに皆優秀なので高レベルの魔法も使えるらしいのだけれど、基礎的な魔力の扱いがしっかりとマスター出来れば高レベルの魔法も扱いが更に容易になるのだとか。
「ファルス君、凄いわ! 私にも教えてっ」
「えー私も教えて欲しいわ」
「俺は騎士科で魔法は得意じゃないし、適当だから教えるのが下手だからシェルマン殿下や魔術師のミュル様に聞いた方が早い」
「私はファルス君に教わりたいの!」
「私も」
令嬢たちは黄色い声で殿下や側近、ファルスにも声を掛けているが、ファルスは他の人とは違い、すげなく令嬢たちを躱している。
反対に殿下たちは笑顔で接していて女性の扱いに長けているようだ。
ファルスの令嬢たちに対する態度にどこかホッとしている自分に気づいた。
私と兄弟のように育ったファルスが他の人と仲良くしている姿をみるのはどこかで嫌だと思ってしまうのはもしかして嫉妬? それとも独占欲?
自分でもまだよくわからないこの感情に今はそっと蓋をする。
私は皆の様子を書いてレポートに纏めて先生に提出した。先生は私の書いたレポートのどこが面白かったのかわからないが、笑いながらその場でレポートの合格を貰ったわ。
後の授業は算学と歴史、母国語の授業があり、皆真面目に授業を受けている。
その後、私はいつものようにファルスと食堂で食事を摂ってからギルドへ向かった。
「マーロア、今日は何にする?」
「そうね、これなんかどう?」
私はボア五頭の討伐依頼を指さした。食肉用の討伐らしいので丁寧に倒さないと報酬は貰えないらしい。私たちには朝飯前だわ。ボアなので大きさもあまり大きくない。
受注ランクはCだった。村ならDランクに入るかどうかなのだけれど、地域差なのかしら。
「それ、いいな! 俺たちにとっては楽なもんだぜ」
ファルスも頷いたので私たちは早速その依頼を受注した。
「行ってらっしゃい」
受付のお姉さんに送り出される。私たちは南門からの出発になる。勿論南門の横にも魔獣受け取りカウンターがあるわ。
今回はボア牧場と呼ばれる場所に向かう。牧場と名前は付いているのだけれど、誰かが管理している牧場ではなく、
ボアがそこに住みつき繁殖しているので誰かが名付けたそうな。
私たちは森の中を少し歩き、草原になっている場所を見つけた。
「ファルス、ここよね?」
草原にはかなりの数のボアがいた。そしてその中に混じるようにビックボアやキングボアの姿もある。
「どうやって倒す?」
「そうだなぁ。ライト魔法が一番いいよな」
「でも使えても一分位でしょう? 眠りの魔法はどう?」
「あー俺、苦手なんだよな。マーロアも実践で使ったことはないだろう? 広範囲は無理っぽいし」
「よし、ここには誰もいないことを確認したし、私がライト魔法を使うわ。ファルスはスリープ魔法を使って? 同時にすれば効果も抜群じゃないかしら」
「そうだな。やってみるか。俺、スリープ魔法は苦手だから失敗した時は全力で逃げながら狩るわ」
「相変わらず適当ね。でもやるしかないわね」
そうして二人はボアの群れに近づいて魔法を詠唱する。
キングボアに向けてピカッと光らせた間にスリープ魔法で眠らせていく。群れは半数動けなくなりバタバタと倒れていく。
もう半数は散り散りに逃げていき、そのうちの一頭のキングボアが私たちに向かって突進してきた。
「マーロア! 急げ」
「分かっているわ」
私はキングボアに向けて癇癪玉を投げつけて怯ませた。その間に剣を鞘から抜いて素早くボア五頭の環椎(つい)と呼ばれる部分に剣を落としていく。
「完了ね! 急いで逃げるわよ!」
私たちはボアの足に縄を括りつけてファルスの風魔法で討伐したボアを軽くさせて走って逃げた。十分も満たない時間で完了したわ。
「ファルス簡単だったわね」
「あぁ、魔法も上手く出来て良かったよ」
私たちは森を抜けてようやく歩きだした。さっきの討伐の仕方について二人で話しをしながら魔獣受け取りカウンターにボア五頭を持って行った。
「ボア五頭、確かに受け取った。上手に血抜きも出来ている。これなら依頼を完了したといってもいいだろう。だがな、お前たち覚えておけ。血を流しているボアを引きずって歩くとその血の匂いに寄せられて魔物がくるぞ。王都までの道しるべになる。他の旅人や商人にはいい迷惑だろう?」
「……はい」
「わかったならこの粉で血の後を消してこい」
私たちは消石灰のような粉を受け取った。
いつも気にせず浄化魔法を掛けていたけれど、気にしていなかったからすっかり忘れていたわ。ファルスも言われて気づいた様子。
「基本は戦闘が終わったら清浄魔法を掛けて血を洗うか、浄化玉を使え。わかったな?」
「わかりました」
私たちは元来た道に粉を掛けながら戻り、血の痕跡を消してからギルドに戻った。
「依頼は完了です。お疲れ様でした」
私たちは報酬をカードに入れて貰うと話しながら道具屋に向かった。
「ファルス、知っていた?」
「血のやつ? 全然気にしていなかった。だっていつも血で汚れてたからなんとなく清浄魔法を掛けていたしな。確かに血は危険だよな」
「そうよね、次からは帰る前に浄化するわ。また一つ勉強になったわね」
「あぁ、そうだな」
魔獣受け取りカウンターのおじさんの言っていた浄化玉が気になり、二人で道具屋に寄ってみることにした。
道具屋には様々な冒険者用の道具が取り揃えられていた。私たちが初めて目にする物も多く、手に取って眺めては買うかどうかを迷う程だった。
そして色々な物を買おうか悩んだけれど、結局目移りばかりしてしまい目的の癇癪玉と浄化玉だけを購入して帰ることにした。
ファルスも浄化玉を買っていたわ。浄化玉は魔獣が纏っている瘴気を若干だが飛ばしてくれるので弱体化する作用をもっている。
因みに王都以外で食べられている魔獣も瘴気を纏っているが、調理する時に清浄魔法で血と共に瘴気は取り払われるので問題なく食べられる。
王都で過ごしている間に知ったことだが、貴族や王都住まいの人たちにとって魔獣は穢れた物というイメージがあるようだ。
村ではジビエ感覚で食べていたし、都会の人の価値観とは少し違うのね、と感じる所である。
だが、ここは王都! 様々な村や街からの人も多く出入りしているため普通に魔獣の肉は売られているのだ。
私たちは久々にボアの肉が食べたくなって屋台のボアの串焼きを買って食べながら寮に戻った。
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