第42話
「マーロア、ここの箇所が間違っているぞ」
「本当だ。こうで「凄いぞ、アルノルド!!!!」」
研究室の扉がバンッと勢いよく開かれたと思ったらイェレ先輩が銅板のような物を持って飛び込んできた。
ようやく鑑定結果が出たらしい。目の下に大きなクマを作って興奮気味にアルノルド先輩に話しかけている。
「イェレ、鑑定結果が出たのか?」
「あぁ。あの怪しい物体はスタンピードとまではいかないが各地に魔獣を呼び出すための材料だったんだ」
「魔獣を呼び出す?」
「あぁ、明後日開かれる舞踏会に合わせて色々と準備がされていたようだ。どうやらアルノルドが持ってきた素材はセイバドダンジョンにあるボスの一部だった。
多分だが、そのボスを倒し、ボスの一部を魔法陣に設置する事でダンジョンの魔物を地上に溢れさせようとしていたようだ」
イェレ先輩の話から考えてボスの一部が使われているのなら残りの部分も使われているのでは? 不安な顔でそう尋ねる。
「イェレ先輩、一部ということはアルノルド先輩が見つけた物以外もあったのですか?」
「そうなんだ。その可能性が高くなったからさっき王宮に高速魔法便を使って知らせた。今から総出で魔法円を探し、壊しに行くだろうな」
「イェレ先輩、その魔獣の一部を使った魔法円は何処にあるか分かる物なのですか?」
「あぁ、あの肉片を元に特殊な魔法円を用いて魔物の一部に魔力を流し、散らばっている肉片を探し出すんだ。今の俺は魔力を流している状態。王宮の方で今俺の魔力を辿っている頃だろうな」
何気ないようにイェレ先輩がそう言っているが、手に持っている銅板に刻まれた魔法円から送るとなれば膨大な魔力が必要になるのではないだろうか。
「あの素材はセイバドダンジョンのボスなのか。そのうち錬金に使ってみたい物だな。ファルス、そこの魔石をあるだけ取ってくれ」
アルノルド先輩が指示を出す。
ファルスは不思議そうにしながらも足元にしまってあった魔石箱をそのまま先輩へと渡した。
……掃除しておいて良かった。
最初は至る所に魔石が転がっていたんだもの。何度踏みつけて怪我をしそうになったことか。アルノルド先輩に渡した魔石箱をそのままイェレ先輩に渡した。
「イェレ、この代金は高くつくからな」
「さすがだ、ありがとう! わが友よ!」
そう先輩たちが話をしながら魔石を次々と取り出している。どうやら魔石の中に入れられた魔力を取り出しているらしい。そんな事が出来るのかと私もファルスも驚いて見ている。
「二人とも知らなかったのか。ロスはかなり出てしまうが、魔石から魔力を取り込む事が出来るんだ」
「ですが、先輩。魔力回復薬は飲まないのですか?」
「魔力回復薬も相当飲んだ。お腹がタプタプするほどに。水気はもう当分取れないから魔石からこうやって取り込むんだ」
「魔石から取り込めるという事は人から人へ魔力の譲渡も出来るのですか?」
「出来なくはないよ。ただ魔力には相性があるからな。魔石は一定の形に整えられた魔力
が入っているので個人差は出ないが、人は個人差が大きいからな。
アルノルドのような錬金が得意な奴は相手に魔力を合わせやすいから自分の魔力に変換しやすく受け取りやすいんだ。
まぁ、受け取りに失敗したら魔法で攻撃されているのと同じようなダメージが来るから余程の事がない限りは魔力の受け渡しはしないんだぞ?」
アルノルド先輩がうんうんと頷いている。魔力の譲渡は魔力を扱う上で飛び切り上級の方法なのね。また一つ勉強になった。
その内私もファルスも出来るようになるのかな。
最終手段としての方法なら是非覚えておきたい所よね。
イェレ先輩は魔石を取り出しては吸い取る作業をしている。魔石が残りわずかとなった。そしてこの間狩ったドラゴンの魔石を手に取った時、アルノルド先輩がその魔石を取り上げる。
「これは駄目だ。私の研究で使う予定なんだ」
「チッ。ならアルノルドの魔力を譲渡してくれ。残りあと一個で全ての魔法円の破壊が終わる」
「チッ。仕方がない。手を出せ」
アルノルド先輩もイェレ先輩も物凄く嫌そうな顔をしながら互いの手をと取っている。
するとアルノルド先輩から微弱ながらも一定の魔力がイェレ先輩に流れ込んでいるらしく、手がほのかに光っている。
「すげえな」
「手が光っているわ」
私とファルスは二人の様子をジッと見つめている。二人とも眉間に皺を寄せながら魔力の譲渡を行っていて少し面白い。
「相変わらずゾワゾワする。アルノルドだからこれで済んでいるんだろうけどな」
「私だってゾワゾワだ。ドラゴンの魔石のために我慢しているほどだぞ?」
お互いとても不快そうだ。
「先輩、私は先輩に譲渡出来ますか?」
「マーロアが? 試しにアルノルドにやってみて出来そうならやってもらうよ。俺もマーロアにやってもらう方が断然いいし!」
「あぁ、そうだな。私もそう思う」
アルノルド先輩はそう言ってしばらくの間イェレ先輩に魔力を流し続けた。もちろん私は魔力量は少ないので渡す量なんてイェレ先輩からしたら微々たる物でしかないが、少しでも役立ちたいとは思っている。
ファルスは自分でも魔力のコントロールは甘いと分かっているのでじっと見守っている。
「マーロア、手を」
アルノルド先輩がイェレ先輩の手を離し、私に手を差し出す。私は差し出された手に重ねるようにそっと手を置くと、先輩は魔力を私に流してくれた。掌から暖かく流れ込んでくる魔力。
これは過去にも経験があるわ。
「アルノルド先輩、出来そうな気がします」
私は村の神父様がやっていたようなイメージで優しくアルノルド先輩に魔力を流し始める。一定量で少しずつ優しく、暖かくなるイメージで。神父様から教えて貰うときにいつもそんな感じだったわ。
「……マーロア。上手いな。やったことがあるのか? これならイェレにロス無く渡す事が出来るだろう」
「幼い頃、村で神父様から魔法を教えて貰う時に何度か経験がありました。やってみますね! イェレ先輩、手を」
私はふぅと一息吐いて落ち着いた後、イェレ先輩の手をそっと触れる。そして先ほど先輩にしたようにイメージをしながら魔力をゆっくりと流し始める。
「……マーロア。上手だ。これから何かあった時にマーロアに頼むのが一番良さそうだ」
「はっ。そんな事は滅多にこないだろう。イェレは魔石の魔力を吸っていればいいんだ。それにもう魔法円は全て壊されたんだろう? 魔力の流れが変わった。もういいだろう」
「チッ。アルノルドは騙されないか。今、全ての魔法円が壊された。マーロア、魔力をありがとう。助かったよ」
私はそっと手を離す。
「先輩のお役に立てて嬉しいです」
「イェレ先輩、俺もやってみたいです!」
「却下だ。絶対、俺が爆死する予感しかない」
ファルスもやってみたかったのね。確かに私よりファルスの方が魔力量は高いのだから出来ればかなり助かるよね。実験台には良さそうだけど。
「ファルス、試しだ。イェレにやってみろ」
「分かりました。では先輩、失礼します!」
「少しずつだからな!!」
ファルスはそっとイェレ先輩に魔力を流し始めた。横で見ているアルノルド先輩がニヤニヤしているのは気のせいだと思いたい。
「イタタタタ!! ストップ!」
ファルスは魔力を流すのを止める。
「ファルス! お前はやっぱりまだやったら駄目だ。魔力を一定に流しているつもりだろうが、小さな部分は凸凹していて血液が逆流して血管が削り取られてしまいそうな感じだ。
一定になっていない。クッソウ。やっぱり痛かった。明日からファルスは特訓だ」
ファルスはガックリと肩を落としている横でアルノルド先輩はクククッと笑いを堪えていたわ。まぁ、こればかりは仕方がないよね。ファルスのためにも特訓を頑張ってもらうしかない。
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