第11話

 翌日の午前中は変わらず座学、午後から実技だった。そしてレコは朝食後からフラリと何処かへ出掛けていたと思っていたけれど、森で小さなボアを捕まえて帰ってきた。


「さて、実技に入る。ファルスは今から夕食までの間、ボアと追いかけごっこをしてもらう。マーロアはこの剣で村の外にいるニワトリサイズの魔鳥を退治するように。折ったら晩御飯抜きだ。では始めよう」


 レヴァイン先生がそう言うと、レコがボアを放した。村の周りは柵で囲われているので外からは魔獣があまり入ってこないし、内側にいる小さなボアが逃げることも出来ない。


 ファルスは文句を言いながらひたすらボアを追いかける事になった。


 そして私はレヴァイン先生からレイピアのような、フェイシングの剣に近い細い剣が渡された。こんなに細い剣で首は切り落とせないわ。

 それに切り方を工夫しなければ折れてしまう。仕方がない。心臓や頭を突くか動きを止めるために弱点を探すしかない。


 先生は魔鳥だって言っていたし、そう難しくはないわ。そう思って私は村の外に出る。近くの森の入り口に住処があるので私はそこへ向かった。


 … … いた!


 私は早速細い剣を鞘から取り出し、小型の魔鳥に向かって剣を向ける。今まで剣の型は体で覚える程しっかり鍛錬してきたけれど、剣については考えていなかった。


 技術はやはり大事なのね。

 魔鳥をなかなか倒す事が出来ないでいる。


 急所を狙い、何度も刺す羽目になってしまったわ。当然魔獣は手負いになり狂暴化して私に攻撃を仕掛けてきた。


 倒すのに時間がかかり、私に散々突かれてボロボロになった魔鳥は見るも無残な姿だった。

 これでは美味しくは無い。


 がっかりしながらも縄で体を縛り、家に持って帰ってきた。


「レヴァイン先生、倒してきました」


 レヴァイン先生はボロボロの魔鳥を見てニコリと私に笑顔を向けた。


「剣は折れなかったようだね。まぁ、良しとするか」


 私はなんとなくだけれど先生が課題として出した意味が薄っすらと分かった気がした。けれど、それを身につけるのにはかなりの神経が必要だわ。




 その日以降の訓練で私は魔獣を切り付ける時の切り方や力の方向、速さを考えるようになった。


 ファルスは最初の間は追いかけられるばかりだったけれど、慣れてきたのかボアに飛び乗ってみせる程余裕が出てきた。


 私たち二人ともその練習を二週間毎に交換して行うようになった。


 最初はレコに抱えられていたボアも日を追うごとに大きな獣になった。


 ボアも私たちに慣れて普段は村の中を駆け回ったり、広場で日向ぼっこをしてのんびり過ごしている。


 偶に村の人からリボンを付けてもらったりしてオシャレを楽しんだり、果物を貰って喜びの鼻息を荒くしながら頬ずりしてくれるらしい。

 村のペットとして今ではマスコットのような存在になっているわ。





 そうして先生と出会い、勉強を初めて一年、鍛錬と偶にギルドの討伐依頼をこなす事を続けていく事一年半。


 半年後に私は王都へ戻らなければならないことになった。私もファルスも王都にあるバルストルク学院に通うためだ。


 私たちはいつものように部屋で勉強している最中に突然レヴァイン先生が改まったように私たちに向き直って話を始めた。


「さて、君たちと共に過ごしてはや二年半。座学も学院卒業分までは終えた。二人とも学院ではどのコースを選択するんだ?」

「俺はもちろん騎士科だよ。騎士になりたい」


 ファルスは即答だった。悩む間でもなかったみたい。


「私は、私も騎士科に入ります。将来は冒険者になりたいです。卒業したら貴族籍を抜けようと考えています」


 いつもビオレタが淑女らしくと言っていたけれど、性に合わないと思うの。

 淑女コースを選んだ所で魔力無しの女なんてどこの家からも喜ばれないわ。大体にして中等部も通わず、今のこの歳で婚約者がいない私は既に訳アリとされているに違いない。


 行かず後家になること間違いなし。それか歳の離れた貴族の後妻行き。


 覚えてもいない父が勝手に決めた結婚なんて考えたくもない。


「そうか。なら二人とも騎士科に行けるように私から推薦を出しておこう」

「「先生、本当!? やった!」」

「では残りの半年は冒険者のランクを上げるように討伐に出掛ける」

「「はい!!」」


 私もファルスも先生の言葉に喜んだ。


 私たちはいつものように隣町のギルドに来た。一年半前までの私たちは基礎から毛が生えた程度だったと今では思う。私もファルスも頑張ってきたの。これからどんどんランクを上げていくわ。




 今日も四人で来たギルド。先生は依頼書を選んで受付に渡す。


「ポイントを稼ぐ為に今日はDランクのビッグボアを二頭の討伐だ。今のファルスとロアなら十分倒せるだろう」


 ……ビッグボアか。


 ビッグボアは村にいるボアよりも数倍大きな魔獣で縄張り意識が強い。

 私たちは町の東側の草原を抜け森に入った。ビッグボアは大きいので森では見つけやすいはずなんだけど。暫く私たちはビックボアを探すことになった。


 私はみんなと少し離れた所で地面を見ながら歩いている。足跡やフンなど手がかりを探すために。すると大きな足跡を見つけた。


 きっとこれだわ。


 早速足跡の向かっている方向に歩いていくとすぐに足跡の主が見つかった。しかも三頭もいるわ。ボアよりは大きいけれど、ビックボアと呼ばれるには少し小さな個体が二頭。一頭は立派なビックボア。

 そろそろ私も強くなったし、いけるんじゃないかな。

 私はその場で大きな声を出し、他の三人に知らせる。そして一番近い場所にいた一番大きなビッグボアに【ファイアボール】をぶつけて蛇行しながら草原へ走った。


 まっすぐ走るとすぐに追いつかれてしまうからね。


 ビッグボアは驚くほどのスピードで突進してくる。

 ボアと追いかけごっこをしていたから避け方もちゃんと覚えている。


 ……あっ。


 私としたことが少しくぼみになっている場所に足を取られて転んでしまった。

 まずいわ。ビックボアに衝突される。私はグッと目を閉じた瞬間。


「マーロア!!」


 ファルスが叫んだ。

 ビッグボアは血しぶきを上げ、その場で倒れこむ。

 どうやらファルスがビッグボアに【ウィンドカッター】を放ったようだ。


「マーロア、大丈夫か!?」

「……ファルスありがとう。もう、駄目かと思った」

「なんともなくて良かった」


 ファルスは私の手を借り、私は立ち上がった。本当に駄目かと思った。

 驚きと恐怖と不安で私の手は震えていたようだ。


「マーロア、無理するな。少し休んだほうがいい。俺が後はやるから」

「大丈夫よ。ちょっと驚いただけだし」


 ファルスは私を安心させるように『先生たちが来るまで待ってろ』と私の頭をぽんぽんと撫でた。


「一頭はファルスが倒したんだし、残りの二頭は先生たちが来てから倒してもいいよね」


 そこからすぐに先生もレコも私たちの声を聞いてくれていたようですぐに合流できた。


「これは立派なビッグボアだ。ファルス、よく一撃で倒せたな。よく頑張った。だがマーロア、一歩間違えば死んでいた。絶対に気を抜くな。目を瞑る前に魔法を打ち込め」

「はい、先生」

「では残りの二頭も倒さないとな」

「「はい」」


 先生はそう指示を出すと、一頭をあっさりと倒してしまった。


 私は最後のビッグボアが突進してきたので素早く左に避け、足を剣で斬った。


 ビックボアは血しぶきを上げながら前のめりに倒れこんだ。上手く腱が切れたようだ。前足を切ったので上手く起き上がる事が出来ずにドタドタと起き上がろうともがいている間にファルスも飛び上がり、ボアの上から剣で刺し倒していた。


「二人ともよくやった」


 先生もレコも手を叩いて褒めてくれたわ。ちょっと気恥ずかしい。


 町のギルドに戻り、受付にさっさと依頼達成報告をしたわ。ボア二頭はそのまま納品し、一番小さな個体は村のお土産にする事にした。


「マーロア、今日の反省は?」

 

 もちろん今日も馬車の中で反省会が行われたのであった。

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