第12話
森に生息しているボアは偶に村を襲撃してくるけれど、村でボアを飼い始めてから村を襲う魔物はなくなった。
私たちの知らない所で牽制しているの? とはいえ、偶に村の外にある畑は荒らされているので狩るのだけど。
村で飼っているボアは同じ種類のボアや他の魔獣が倒されて村に運ばれてもあまり気にしてはいない様子。
むしろ魔獣が視界に入ると猛ダッシュで魔獣にぶつかったり、踏みつけて人を守ろうとさえしている。
健気で名前を付けてあげようかな。でも、ボアのまま過ごしているので名前もボアでいいのかもしれない。紛らわしいと思うけどね。
「今日は俺が狩ったボアです。美味しいところを貰ったから早速いただきますか」
レコは私達がギルドへ行っている間に村の外に出た巨大なボアを倒し、肉屋でボアを解体してもらう。私達が食べる分だけ持ち帰り、後は肉屋に買い取って貰ったようだ。
村では久々のボア肉なのでみんな喜んでくれている。
レコが持ち帰った大きな肉を見たビオレタが腕を振るってくれた。
夕食はとっても美味しい煮込み料理だった。ビオレタの料理はいつも美味しい。私の母の味というのはビオレタの料理なの。
翌日は家でダンスや座学の復習をした。忘れないために必要な事よね。その次の日はボアと追いかけごっこをし、その後は魔法の訓練。
学院へ入学すると騎士科でも私は魔力がないことになっているので魔法学の実技はないようだ。魔法学の座学があるのは対人戦の時に対処法を学ぶためなのだとか。
翌日はギルドでランク上げ。また馬車に乗って隣町まで出掛けていく。
いつものようにギルドの掲示板に張り出されている依頼を受注する。
今回の討伐依頼はCランクのフォレストベア一頭のようだ。南側の森に生息する熊は狂暴で体も大きい。
この熊のやっかいな所はキラービーの巣の近くにいる事だろう。単体での狂暴さはキングボアとそう変わらないのだが、キラービーの巣を壊して食べている事が多く、フォレストベアを攻撃すると怒った蜂に一緒に攻撃されてしまう危険がある。
故にランクが他の物より高く設定されているらしい。私とファルスだけではまだランクが足りなくて受注する出来ない依頼なの。
私たちは森の中に入ってフォレストベアを探し始める。
「ファルス、フォレストベアってまだ戦った事がないわ。どんなのか知っている?」
「俺、見たことがあるぞ。遠くからだけど。強そうだったからすぐ逃げ帰ったよ。今なら倒せそうな気がする」
「本当? どちらが先に見つけるか競争よ」
「おう!」
私はそう言ってファルスと別れ、先にキラービーを探すことにした。キラービーが居れば近くにいることが多いしね。
私は木の洞がある所を探していると、ファルスが声を上げた。
「ロア! こっちこっち!」
なんだかファルスは焦っているような声だった。私は急いでファルスの元に向かうと、そこには見たことのない大きさのフォレストベアが男の人を襲っていた。
私はすぐに先生に知らせる。
「先生、人が襲われているわ!」
私はそう叫ぶと癇癪玉を取り出した。
癇癪玉は敵にぶつけると音と共に唐辛子の粉が広がり、相手が怯む。その間に攻撃したり、逃げたりする。私たちは一人一つ、何かあった時の為に逃走用として持っている。冒険者は最低限装備している物だと先生から習っている。
私は癇癪玉をフォレストベアの顔めがけて思い切り投げつけた。
パンッ!! と弾ける音と共に赤い粉が舞い、フォレストベアはたまらず人を襲うのを止めて目に入った粉を払う仕草をしている。
ファルスはその間に襲われた人を引っ張りフォレストベアから距離を取った。
「大丈夫だ。まだ息がある!」
ファルスがそう叫ぶとレコと先生はファルスの前に立った。
「相当にご立腹な様子ですね」
「ああ、危険だな。ただでさえ狂暴なのに餌を取られた上、癇癪玉を投げられたからな。ファルス、怪我人をそこの木の下に置いてすぐに戦闘準備をしろ。ロアもだ。全員で対処する」
先生の指示が飛ぶ。私は最大限まで身体強化し、ファルスは剣に炎を纏わせて攻撃準備をする。
次の瞬間、フォレストベアは突進してきた。先生の目の前に来ると、立ち上がり攻撃しようとしている。
ファルスは剣で右腕に切りかかり、私は飛び上がりフォレストベアの背後を取り、背後から心臓を狙う。魔石は心臓の近くにある場合が多いため、壊さないように注意が必要だ。
レコは足の腱を切る。先生は袈裟切りをし、フォレストベアは動かなくなった。
「倒しました?」
「倒しましたね」
私は窺うように聞くと、レコは血をふき取り鞘に剣を収めながら答えた。
「怪我人は大丈夫かな」
ファルスの問いに私たちは怪我人の元に向かった。瀕死の状態なのだろう。怪我人は血まみれで動いている様子はないが、辛うじて息はしている状態だった。
すぐに先生は治癒魔法を唱える。いつもなら直ぐに終わる治癒魔法も今回は光が消えるまでに五分位かかった。
「アレン先生、どうしましょう?」
「ファルスは風魔法で怪我人を浮かせ、マーロアと二人で怪我人を運ぶんだ。怪我を治したとはいえ失血も酷く、意識はないから気を付けろ」
「はい」
私は清浄魔法を唱え、怪我人の体を綺麗にする。血まみれで気づいていなかったが、若いようだ。冒険者のような身なりをしているからここには依頼できたのだろう。
ファルスが男の人に風魔法で浮かせて運ぶことになった。先ほど倒したフォレストベアはレコが縄を掛け、後ろから引っ張りながらギルドへ戻った。
受付の人が私たちが運びこんだ男の人を見るなり、ギルド内にある医務室らしき部屋へと案内し、そこのベッドへ運ぶように指示してきた。
「ありがとうございます。彼は依頼で南の森に入っていたんですが、予定時刻になっても戻って来なかったので心配していたんです。おまけに治療まで施してもらって、助かりました」
ギルド長はそう話し、状況を確認している。先生は淡々と男の人が襲われていた状況をギルド長に説明し『私たちはこれで』と部屋を出てきた。
「アレン先生、私たちはもう帰っていいのですか?」
「ああ、大丈夫だ。何かあればギルドで対応するだろう。後日お礼が振り込まれているかもしれないな」
そうして私たちは何も言わず今回の討伐依頼の報酬を貰って家に帰ったが、夕食時に自然と今日の出来事の話になった。
「それにしてもあの人、死ななくて良かった。村で怪我人が出ることは偶にあるけれど、あそこまで酷い怪我を見たことがなかった。彼を見た時、心臓が止まりそうになったわ」
「俺も驚いたよ。フォレストベアが何かの塊を一生懸命攻撃しているなって思ったんだよ。でも無事で良かったよ。みんながいなかったら俺絶対パニックになっていた自信がある」
「こら、二人とも食事中だ。冒険者は誰でもああなる可能性があるんだ。それ以上言っては駄目だぞ」
「「はぁい」」
「さあ、スープが冷めますよ」
私達はビオレタの食事を食べ始めた。
そのまま疲れもあってご飯を食べた後そのままベッドにダイブしていつの間にか眠ってしまった。
それからの数日はファルスと二人で変わらず復習や基礎訓練をしていた。
「今日はギルドへ行く。二人ともDランク昇格になっているはずだ」
「やった! ようやくだね!」
私たちは先日人を助けた時、ギルド員は怪我人の対応に追われて昇格の話は無かった。どうやらフォレストベアを倒した点数でDランクになっていたようだ。
私たちは浮かれておしゃべりが止まらないまま馬車に乗り込み、隣町のギルドへと向かった。
ファルスと私は浮足立って言葉数も多くなる。先生とレコにまぁまぁ落ち着けと言われつつ、ギルドへとやってきた。
「依頼達成おめでとうございます。ファルス様並びにロア様Dランク昇格しました。次回からはD、Cランクのクエストを受ける事が出来ます。Cランクへの昇格ポイントは二百五十点です」
受付の女の人がにこやかに説明してくれた。Cランクまで二百五十点か。大体一枚の依頼書で一、二点なの。Bランク以降の依頼書ともなれば一回で五点もあるらしいんだけどかなり難易度が高いとのこと。
因みにCランクからはFやDランクの依頼を受けても点は付かないらしい。先生たちはランクの低い私たちと組んでいるため補助点が付いているらしい。
私たちは久々に町で買い物をして帰る事にした。Fランクの報酬は洋服を一枚買う程度のものだけど、ずっと貯めてきた私たちはそこそこのお小遣いになっていた。
「マーロア、ファルス。二人は何を買うつもりだ?」
「俺は剣に付ける飾りが欲しい」
「私はビオレタとユベールに美味しい物を買って帰ります」
「あー俺もそうする!」
いつも二人には感謝しているし、折角貯めたお小遣いを初めて使うのはやっぱりビオレタとユベールの為に使いたい。結局、私もファルスもビオレタとユベールにお花とクッキーと果物を買って帰る事になった。
先生は微笑みながら馬車に乗ったのは言うまでもない。
私とファルスは家について早速ビオレタとユベールにお土産を渡して『ねぇ聞いて! 今日はランクが上がったんだ』と二人に話をする。ユベールやビオレタは優しく今日あった事を聞いてくれたわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます