第13話

 ここ数日、狩りはしばらくお休みをして今日は道具作りに励んでいる。


 道具といっても農機具のような道具ではなく、魔石を使った道具作り。今まで私たちが捨てずに取っておいた屑魔石を使うらしい。

 私もファルスも魔道具を作ったことがなかったので興味津々だ。


 魔石は道具屋に持っていけば大きさや種類によって買い取って貰えるので私やファルスにはいい小遣い稼ぎになっている。


 けれど、魔物の中でもゴブリンやスライムなどの小さな魔石は屑魔石と言われ、魔力を注ぎ込める量も殆どないし、数も多いことから道具屋に持って行っても買い取りを拒否されている。


 なんで私たちがそんな物をずっと持っているのかといえばレコから捨てずに取っておいて下さいと言われたから。私たちは取れた屑魔石を庭の角にある倉庫にポイポイと放り込んでいた。


 どうやらレコはその屑魔石から魔道具を作って依頼をこなす時に使っていたようだ。


 もちろん道具屋でも屑魔石から作る魔道具は置いてあるが、自分で作る人も多いらしく、村ではめったに売れないらしい。


「さて、二人にはまだ魔道具の作り方を教えていなかったな。今日は癇癪玉という物を作る。一番簡単な魔道具だ」


 レヴァイン先生はそう言うと、倉庫から持ってきた数個の屑魔石と黒粉、すり鉢と小袋をいくつか用意していた。黒粉と呼ばれる黒い粉は何が入っているのかよくわからない。

 聞いた話では剣を作る時に出てくる粉を使っているらしい。もしかしたら複数の鉱物が入っているのかもしれない。


 先日ビオレタに指導を受けながらファルスと一緒にチクチクと縫った小袋を使うようだ。


「レヴァイン先生、この屑魔石を粉にするのですか?」

「正解だ」

「魔石の質や大きさは関係ないのですか?」


 先生はよく聞いてくれたと言わんばかりの笑顔だわ。


「村で使っている魔道具のほとんどは魔石の質に合わせた使い道があるけれど、これは粉にして魔力の触媒に使うだけだから気にしなくていいんだ」

「魔力の触媒?」

「粉にして魔力を込める事で使うんだよ。まぁ、物は試しだ。一つ作ってみよう」


 私たちは先生の言う通りに魔石をすり鉢でゴリゴリと粉状にしていく。そして器に一つ分の魔石の粉と少量の黒粉を入れて棒で丁寧に混ぜていく。どうやらムラが出てはいけないらしい。そして小袋に入れていく。


 私は上手に出来た! と喜んでいるけれど、ファルスは違ったみたい。

 粉を混ぜ合わせた時に何かが弾ける音がし、眩しい光と共に粉が無くなっていた。


「ファルス、大丈夫?」


 私はびっくりしてファルスに聞くが、ファルスも突然の事で驚いた様子。


「せ、先生。俺の粉が無くなった!」


 器を見てファルスは焦ったように言っている。


「ファルス君、これは魔力の触媒と教えただろう。魔力を込めてしまうと今のように暴発してしまうんだ。常に魔力を洩れさせないようにコントロールする。ファルスにはいい勉強になっただろう」


 確かにファルスは魔力の扱いは格段に良くなったけど、それでも私がずっと行っていたような鍛錬はしていないので無意識の間に魔力が漏れ出ているみたい。


 ファルスは口を尖らせているけれど、理解はしているようで不満を溢しながらまたテーブルの上に置かれている魔石を手にしている。


「先生、出来ました」


 私は小袋を先生に見せると、先生は小袋の中身を確認しながら言った。


「マーロアは上手に出来ている。魔力のコントロールを昔から行っていただけあるな。錬金術師に向いているかもな」


 褒められると嬉しい。それに錬金術なんて考えた事もなかったし、錬金術師に会ったこともなかったのでちょっと目指してみたくなった。


 ちなみに村の道具屋のおじさんは道具屋のおじさんなの。魔石を利用した生活用具を主に売っていて私の中では錬金術師という括りではなかったわ。


「マーロアはあと十個程小袋を作るんだ」

「わかりました」


 私は先生に言われるまま先ほどと同じ手順で小袋に詰めていく。難なく作れた。ファルスはというと、かなり下手なようで二つに一つは爆発させている。本人曰く、かなり集中しないと魔力が伝わってしまうらしい。


 そうして二十個ほど作った。私たちは作った小袋を持って先生の指示で庭に出る。


「ファルス、マーロア。さっき作った小袋の使い方は分かっているよね? 投げる時に魔力を通し、相手にぶつかる衝撃で軽い爆発音と共に光を出す。目くらましに使える」


「先生、ライト魔法じゃ駄目なの?」

「普段ならそれで十分だ。だが、いざとなった時に使うんだ。君たちは魔力消費の少ないファイアボールをよく使うだろう? 使用する魔力は二ぐらいだとするとこの小袋は魔力の使用はほぼ無い。

 魔法が使えなくなった時の逃走用に使う事が多い。音と光で相手が怯んだ隙に逃げる。

 ローンダイルのような光に弱い敵にぶつけ、混乱させた後、攻撃するという方法もある。それにライト魔法は遠距離では使えないが、この小袋は遠くまで投げる事が出来るから気を逸らせるのに丁度いい。

 あと、今回は一般的な黒粉を使ったが、これは爆発音を出すためだ。植物の粉や魔物の素材を使うと爆発音の代わりに匂いや植物成分を撒く事が出来る。

 嗅覚を効かなくさせたり、視覚をなくさせたりと中身によって様々な効果がある。とりあえず今日は逃げるための方法だ。しっかりと使い方も覚えておくように」

「「はい!」」


 私とファルスは用意した小袋を一つずつ持つ。投げる瞬間に魔力を込めて遠くへ投げる。袋は地面に当たった時にパンッと音と共に一瞬眩しく光った。ファルスが作っている時は魔力だけで爆発していると思っていたけれど、少しの衝撃を加える必要があるようだ。


「先生、上手くいきました」

「しっかりと目標物に向かって投げられるように普段も練習する事だ。それと一つは身に付けておくといい。マーロアはそのままでも大丈夫だろうが、念のため二重にしてファルスは袋を三重にして持っておくように」


 そうして今日の錬金術の勉強は終わった。先生は私たちに錬金術の本を用意していてファルスは興味無さそうに見ていたけれど、私には何度も読み返すほど面白かった。


 私の夢は冒険者になる事だけれど、錬金で自分の身の回りの物を揃えてみたいと思った。

 剣の強化だって面白そう。

 でも、本を読んで思ったけれど、錬金をするには様々な素材が必要なようだ。


 村周辺にはいない魔物の素材だったり、植物だったりとお金が掛かりそう。先生は学院の勉強を終えた頃に錬金術の入門を教えたのは騎士科には錬金術の授業は無いし、そもそも錬金術は魔力の扱いが難しいから、ということらしい。


 そして錬金術師になってもあまり儲らないと言われており、錬金術師になる人は少ない。

 なぜなら平民や私のように魔力が無いとされる人は魔道具を利用するが、平民の生活にあった道具となると、どうしても安い価格になってしまう。


 冒険者にとっては切っても切れない錬金だそうで最低限の知識は付けておくのに越したことはないらしい。


 先生から頂いた本は初心者のための錬金本のようなので学院内にある図書館という本が沢山あるところで読めるといいな。

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