第18話
騎士科の訓練場の入口にある受付に四人の男の人が座っていた。多分ここの学園の先生なのだろう。それと隣の椅子に座っている白髭のおじいちゃん、その横に若い二人の試験官。
この人たちが判定するの?
それと訓練場の中央には数人の木刀を持った試験官もいるわ。
「ここに手を置いて下さい」
ここで魔力測定が行われるのね。
受付の台の上に水晶が用意されていた。私は魔力を全力で閉じ込めて隠し、水晶に手を乗せる。
「……お前は魔力なしか。女で魔力無し、騎士になるのは難しいぞ」
「ええ。分かっています」
「ふむ、では受験票を持ってあっちに並べ」
試験官はどうせ無理だろうと言わんばかりの態度で『魔力無し』と受験票にデカデカと大きく書いて私に渡した。
私の後ろにいたファルスはというと、『魔力量:中』と普通に書かれていたわ。
平民としてはかなり魔力が多いようで受付の男の人は鍛えがいがありそうだと言っている声が聞こえてくきた。
魔力無しの私はここでも不遇な扱いなのね。
少しモヤッとしてしまった。
「受験者マーロア! 前へ。今から打ち合いをする。十回試験官と連続して打ち合いをする。途中で剣を落とすと失格だ」
呼ばれて渡された木刀。
これで十回か。
いつも扱っている剣より軽いし、問題なく使えそう。
試験官は面倒そうにしているが、私は気にせずに試験官に挑む。
どうやら受付の人と同じようだ。試験官は魔力なしの私を不合格にさせたいらしい。
打ち合う気は始めからないらしく、『はじめ!』という掛け声の前にいきなり喉元を狙って突いてきた。
この試験官、なんて意地が悪いの!?
頭に来た!
私は体を右に少し避けると同時に踏み込み少し屈んでから木刀を持っていない方の手で勢いをつけて顔を殴り、お腹に蹴りを入れた。
試験官はというと、尻もちをついて烈火の如く怒っている。まぁ、当たり前よね。絶対騎士としては反則だわ。
でも、打ち合いと言っているのにいきなり急所を攻撃しようとするなんて反撃されても仕方がないわよね。
「あら? 試験官が倒れたわ。これはどうすれば良いのかしら?」
私は素知らぬふりして声をかける。
「お前! お前は不合格だ!!!!」
試験官はかなりご立腹なようだ。その態度にこっちが呆れてしまう。自分が先にやっておきながらやり返されて逆切れなんてありえない。
「あら、それは先に喉元を突いてきた試験官が悪いのではないかしら? 反撃するなというルールは聞いていませんでした」
私は敢えて笑ってみる。すると試験会場の監督をしていた白髭のおじいちゃんが私の前にやってきた。
「こらこら、打ち合いと言ったであろう。ルールも守れんのかの」
怒っている試験官は慌てて白髭のおじいちゃんに謝っている。
「お前も謝れ!」
試験官が私に謝罪を強要してきたわ。
「私、何も悪い事をしていません。喉元を攻撃してきたので反撃しただけです。それに対応出来ずに転んでしまうなんてどうかと思います」
「ふむ。確かにそうだの。ヴィーノ、お前が相手してやっておくれ」
おじいちゃんはそう言うと、隣にいた若い試験官がこちらへ向かってきた。ヴィーノさんと言うのか。近くで見ると立派な体格で歩き方にも隙が全くない。
ヴィーノさんは学院の先生ではなく本物の騎士ではないだろうか?
爽やかハンサムという感じのヴィーノさんは私に声を掛けた。
「……君がマーロアか。魔力無しで騎士を目指すのは厳しいぞ。今回の試験、私がしっかりと相手をしよう。では、君のタイミングで始めよう。いつでもかかってきていい」
ヴィーノさんは木刀を片手に持ったまま立っている。
隙が無い。
私は相手の出方を確認するように切り込んでみる。ヴィーノさんはさっと避けて反撃をする。
……剣のスピードが驚くほど早い。
振り下ろされる木刀をなんとか木刀で受け止めて流す。
これは、かなり厳しいかもしれない。
私は攻撃しては受け流すので精一杯のまま十回の打ち合いをクリアしたらしい。
ヴィーノさんからの反撃が止まり、笑顔でおめでとうと声を掛けてもらった。後ろでファルスも喜んでくれている。
「マーロア君は誰から剣を教わったのかな?」
「レコという者です。その後はレヴァイン・アシュル先生に」
「そうか、どうりで強いわけだ。君の今後の活躍を楽しみにしているよ」
「有難うございました」
私は礼をして受付に受験票を確認しにいく。
「おめでとう。お前、強いんだな。ほら合格のハンコを押してやる。後は事務室へ向かい手続きをして帰る事になる」
私を見下していた受付の人も騒ぎを見ていたようで最初とは態度を変えていた。
「ありがとうございます」
私は事務室に向かわず、ファルスが来るのを待った。ファルスもどうやら先ほどのヴィーノさんが相手となっている。
ファルスは力で押そうとしているのが分かる。
レコとの特訓で避けるのも練習した成果が出ている。
私たちは対魔獣の戦い方をしていて対人戦はあまり得意ではないのだが、それでもファルスも十回なんとか切り結べたみたい。
ヴィーノさんに褒めて貰っているわ。
「ファルス、おめでとう。これで一安心ね」
「あぁ、マーロアもおめでとう。凄いよなヴィーノさんって。かっこいいな! あれって本物の騎士だろう? 絶対そうだよな。俺の憧れだ」
「良かったわね」
私たちは興奮冷めやらぬまま事務室に行って手続きを済ませた。どうやら二週間後から寮に入る事が可能で筆記試験や実技試験で上位成績者は個室になると説明を受けた。
私たちは事務員から入学についての説明や書類、寮の説明を聞いた。
二人部屋もいいけれど、個室もいいな。
入学したら何をしよう、夢が膨らむわ。
でも、侯爵の父はなんて言うだろう。考えるだけでも少し憂鬱になる。私とファルスは事務員からの書類と魔法陣が書かれた魔法紙を受け取る。
「この魔法紙は何ですか?」
「あぁ、これはね、学院から上位成績者だった場合通知を送るんだけど、この魔法紙の元に届くようになっているの。住所を持ち歩いているようなものね。これがあれば宿にいても通知が届くのよ。便利でしょう?」
ユベールが日々の領地の報告を執事のオットーへ送るような魔法便とは少し違うみたい。何だか面白い。私たちは事務員にお礼を言って学院を出て辻馬車で帰る事にした。車内でファルスとさっきの打ち合いで話は盛り上がった。
邸に戻ってからはそのままオットーの元へ向かい、今日の書類を提出した。オットーは手続きを勧めてくれるみたいでほっと気持ちが少し楽になった。
父はいつ気づくのだろうか。
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