第9話
「さぁ、登録も済んだし依頼を受けるよ」
「はい、アレン先生」
私たちは先生に連れられて隣にある大きな掲示板を覗いた。様々な依頼が張り出されていて上の方を見ると『Aランカー求む!』みたいな紙が見える。私たちは一番下のランクFという所だった。
「薬草と毒消しの採取、ゴブリン退治でさっさとEランクになるぞ」
そう言って先生は三枚の依頼書を受付に渡して依頼を受ける。
初心者用の一番始めの依頼はCランク以上の冒険者かギルド員が付いて説明しながらやっていくらしいが、私達の場合、Aランクの先生が教えてくれるのでギルド員が付くことはない。
私たちは先生と三人でしゃべりながら町の外へと出た。村へと戻る方向へ道を少し歩いてから草むらの中へ入っていく。ずっと雑草だと思っていた草は先生の指摘により薬草という事が判明した。どうやらこの草むらは薬草と毒消しに使う草の群生地のようだ。
「こんな所に一杯あるんだな。俺、全然気づいてなかった」
「ファルスもロアもナイフを取り出して丁寧に上の葉を摘んでいくんだ。間違っても根本から引き抜いてはいけない」
「アレン先生それはなぜですか?」
「葉は何枚か切り取っても次が生えて来るけれど、引き抜いたり、根本から切ってしまえば生えなくなる。必要な時に取れないと困るだろう? 自然の物は次に繋げるために根こそぎ持って行ってはいけないんだ」
「そっか。勉強になった」
そうして先生の講義を聞きつつ薬草と毒消しに使う草を取ったその足でゴブリンの巣に向かった。ゴブリンは偶に村にも出るので私たちは何度も倒した事があるし、簡単だと思う。
ゴブリンは人のひざ丈より少し大きめの魔物で小鬼のような姿をしている。彼らは攻撃的で、尚且つ集団で生活している。ゴブリンキング等は少し大きい個体になっているので見分けもつきやすい。初心者向きの魔物といってもいい。
因みに全然可愛くないし、素材も取れないので旨味は全くない。
「先生、あっちにゴブリンの巣があります」
「よし、倒しておいで」
先生は後ろで見守るようだ。私たちは目で合図しながら頷く。ファルスが先制攻撃し、私は逃げるゴブリンを切っていく。
ゴブリン位なら身体強化を使わずに倒す事が出来る。1年間基礎をしっかり身につけたおかげで以前より楽に退治出来ているかな。
私自身、とても強くなったと実感しているわ。それはファルスも同じだったようでゴブリンを逃がしてしまう数もかなり少ない。ファルス一人でも巣を全滅させることが出来るの。私はそう思いながら一匹また一匹と退治し、ファルスが二十匹ほど倒しただろうか。
「アレン先生、巣にゴブリン居なくなったー」
ファルスの声がした後、先生は巣の中を確認する。
「ファルス、雑さが残っているぞ。これは後々命取りになるから気をつけるように」
そう言って一匹のゴブリンを捕まえて出てきた。先生は私に向かってゴブリンを投げてきた。仕方がないので私がゴブリンを切り、討伐は完了した。
私たちはゴブリンを拾い集め巣に投げ込む。そしてファルスは【ファイア】を唱え、ある程度焼いていき、砂をかけて巣ごと簡単にだけれど埋める。
ファルスはゴブリンの返り血で全身ドロドロになっていたわ。先鋒の人は大体そうなるけどね。私は【クリーン】を唱えてファルスも私も綺麗にする。
慣れているとはいえ、匂いを付けたままは他の魔獣も寄ってくる原因にもなるからね。
「さぁ、クエストを完了したので帰るぞ」
「「はーい」」
私たちは今日の反省を楽しくしゃべりながら町へと戻っていく。アレン先生は私たちの動きの良いところ、悪い所等を話してくれた。
ギルドに戻って私たちは手続きを済ませると、Eランクに昇格したの。
「先生Eランクにあがりました!」
「おめでとう。これで次から討伐に向かえるな。まぁ、今日は帰るぞ」
そうして私たちは村へと帰った。家に帰って夕食を取っていると、勿論話す内容は今日の討伐の事。聞いて聞いてと始まって私もファルスも一杯話したと思う。そして討伐にはレコも一緒に付いていきたかったらしい。ちょっと悔しそうだった。
もちろんレコもこの村に来てから冒険者登録しているらしく、ランクはAなんだとか。全然知らなかったわ。王都では護衛だけで冒険者登録しなくても過ごせていたらしいのだけれど、村に来るとギルドカードが活躍するらしくて冒険者登録したのだとか。
先生とよく剣術談義に花が咲いていると思っていたのよね。実はレコも強い人だったとは。これから実力を付けるために討伐も増えていくらしいのでその時はレコも一緒に来てくれるみたい。
四人でパーティを組んで魔物退治ってなんだか面白そうだわ。けれど、レヴァイン先生は勉強の事を忘れてはくれなかったみたい。
翌日はみっちりと勉強だった。ファルスが死んだ魚のような目をしていたのは気にしないでおく。
そして数日の勉強を終えて討伐に行く日。今日はレコも一緒に付いて来てくれるらしい。私たちが出る準備をしているとレコは準備万端、玄関前で『遅いですよ』と待っていたわ。
「アレン先生、今日は何の魔獣を狩るの?」
先生が掲示板を見ながら答える。
「君たちはまだ駆け出しだから今日は魔鳥にしよう」
「魔鳥ですか? 私、まだ見たことがありません。村の近くにはいませんよね?」
「そうだ。魔鳥は七面鳥に似ているがとても獰猛で町の東側の平原に生息している。数匹の群れで生活しているから見つけやすいが、ゴブリンと同じくらいの大きな鳥でとても獰猛なので気を付けないといけない。これを五頭分納品する」
先生は依頼書を持って受付に渡し、受注する。今回は四人パーティで申請したみたい。
私は魔鳥に内心ドキドキしている。だって、偶に我が家の食卓に上る肉だったはずだもの。お土産に持って帰ればビオレタはきっと喜んでくれるに違いないわ。
そうして私たちは町を出て平原まで一時間くらい歩いていった。目の前に広がる平原にポツン、ポツンと数匹単位で暮らしている魔鳥。鳥と言っても飛ぶことは出来ず素早く走る鳥で角が三本生えて嘴には牙が付いていて噛み付いたり、突いてくる。
「さぁ、着いた。まずは二人で倒してみるといい。駄目そうならレコが援護に回るから問題はない」
私が返事をしようと口を開くよりも先にファルスは魔鳥に向かって【ファイアボール】を打ち込んだ。するとどうだろう。魔鳥は飛び上がり、足でファイアボールを地面へ叩き落として消してしまった。そして怒ってファルス目がけて三匹の魔鳥が突撃してくる。
「ちょっと! ファルス! 何やっているの、駄目じゃない」
私は怒りながら斜め横に走り、ファルスから距離をとる。ファルスは残念な事に魔鳥たちに突かれているわ。自業自得ね。私は剣を鞘から抜き、一匹の魔鳥の後ろからそっと近づき首を刎ねる。
二匹目が私の方に気づいたけれど、私は素早く二匹目も首を刎ねた。首が長いおかげで注意さえ他で引いていたら簡単だわ。三匹目はファルスが切り倒せた。
「いやー突かれた所が痛い。頑張って防いだんだけど、あいつ等俺の剣を避けるんだぜ。酷いよな」
「ファルスが怒らせたからよ。でも私は無傷だったわ」
二人でしゃべりながら次の群れに走っていく。あと二匹。もう少し狩ってお土産にしたいわ。
次に私たちが選んだのは五匹の群れだった。
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