第64話
「さぁ、準備も出来た事だし、さくっと行くか」
私たちは村の被害が出ている方向へと歩き出した。ブルードラゴンは基本的に少数の群れで生活し、縄張りから出ないのだが、稀に群れから離れて暮らすドラゴンがいる。
今回の村を襲ったドラゴンはどうやら単体のドラゴンのようだ。村の近くに巣を作ろうとしているらしいのですぐに見つかるはずだ。
私たちは物音一つ聞き逃さないようにしながら歩いていく。周りを見渡しながら探索しているがどうやら村には居ないようだ。
「これってドラゴンの足跡じゃないか?」
ファルスの声でイェレ先輩が確認している。
「この先にいるかもね」
森の入り口付近に足跡を見つけ、私たちは慎重に森の中に入っていく。
暫く歩いていると、一帯の木々がなぎ倒されている、この辺りで何か争ったような跡がみえる。村の人と戦闘にでもなったのだろうか。
――ガサリ。
草が揺れる音がし、私たちは一斉に視線を向けた。そこには一体のブルードラゴンが草むらを掻き分けるように現れた。
身の丈三メートルはあるのではないだろうか。尻尾を入れるともっと大きい気がする。
全身が硬い鱗に覆われていて、その鱗は艶めき薄い水色から紺色をしている。ブルードラゴンは鋭い眼光でこちらを睨み、グルルと威嚇しながら戦闘態勢に入った。
私たちも剣を抜いて戦闘態勢に入った。私とファルスは詠唱無しに身体強化を瞬時に行い駆けだす。
ファルスは小さなファイアボールを出し、ドラゴンの顔に向けて放った。
その瞬間、私はドラゴンの視界から抜け出るように右側後方に移動し、ファルスは飛び上がって上から剣を叩き込もうとしている。
ファルスが切り付けたと同時に私はドラゴンの首元を切り付けた。
「ファルスどう? こっちは硬いわ。何度か同じ所を切らないと駄目みたい」
「俺の方もそうだ。一度では大した傷にはなっていないな」
私とファルスがいつものように会話をしながら次の隙を窺っていると、
「マーロアもファルスも良いコンビだな。二人だけで倒せそうじゃないか」
「酷いなあ。イェレ先輩、見てないで手伝って下さいよ」
私たちを他所にアルノルド先輩は強化した剣で正面から切り付けている。私とファルスが切り付けた傷よりも大きな傷。本当にこの人は錬金術師なの? 騎士団長だと言い張っても可笑しくない。
「俺、ちょっと詠唱長いから少しだけドラゴンの相手を宜しく」
そう言ってイェレ先輩は詠唱を始めた。
そこからはアルノルド先輩の指示の元、三人で交互にドラゴンの注意を引きながら切り付ける事を繰り返す。
それにしてもなんて硬さなの。魔法を一度唱えてみたけれど全く歯が立たなかったわ。魔力耐性が高くて皮膚も硬い。そして動きも全然遅くならないのよね。
そうだわ、良いことを思い出した。
私はドラゴンの注意が他に移った瞬間麻痺効果のついたダガーナイフをドラゴンの傷口に刺した。流石に刺されると怒ったようで私に執拗に攻撃を始める。
結構強力な麻痺のはずなのだけれど、全身に回るには時間が掛かっているのかもしれない。
私はドラゴンの攻撃を避けるのが精一杯。ターゲットが私に向いた事でアルノルド先輩もファルスも攻撃がしやすくなったみたいだけれど。
「早くっなんとかして下さいっ。避けるので精一杯です」
「マーロアのおかげで攻撃がすんなり入るようになった。麻痺も効きだしたぞ」
アルノルド先輩がそう告げるとドラゴンは本当に動きが鈍くなり、体が徐々に動けなくなっているようだ。皆で一斉に切りかかろうとした時、
「お待たせ! みんな避けろよ!!」
イェレ先輩がそう大声で言った。
「マーロア、ファルス! こっちへすぐ避難だ!」
アルノルド先輩がそう叫び、私たちは全力でアルノルド先輩の元に駆け寄り、イェレ先輩の方に視線を向ける。
イェレ先輩はというと、巨大な魔法剣のような物を作り出していたのだ。その長さが五メートルはあろうかと思われる程の大太刀でブルードラゴンの前に立ち、水平斬りをしてみせた。
すると、ドラゴンは一瞬のうちに上下に切り離される。周囲の木々も。私もファルスも唖然とするしかない。あれだけ身体強化を使って斬り込んで切断する事が出来なかったのに一瞬で真っ二つになったのよ。
「ほらな。やはりお前一人で大丈夫じゃないか」
「そんな事はないぞ!? みんなが足止めしてくれたからだろう?」
珍しくイェレ先輩が焦っているわ。その様子が可笑しくてフフッと笑ってしまった。先ほどまでの緊張感はどこへやらいつものようなのんびりとした空気が漂う。
「それにしてもブルードラゴンは硬かったわ」
「何回切り付けても全然ダメージがないんだもんな。アルノルド先輩の一撃の方がダメージでかそうだし」
「そんなことは無いと思うが。違いがあるとすれば君たちは初心者用の剣だからじゃないか? そろそろ変えても良いと思うが」
!!!
なんという事でしょう。
全く気づいていなかった。確かにそうよね。最初にレコに選んで貰ったのは初心者が使えるような剣だもの。
「盲点だった。俺、帰ったら新しい剣にしよう」
「あぁ、そうだ、ファルス。ちょっと剣を貸すんだ」
「? 良いですけど……」
ファルスは首を傾げながらアルノルド先輩に剣を渡す。するとアルノルド先輩は剣に掛かっていた魔法を解除した。
「!? 先輩酷いですよ! 折角の魔法がっっ」
ファルスは膝から崩れ落ちる。かなりのショックだと思うわ私でも。
「? お前、二日後の闘技大会、失格になりたいのか?」
「……ははっ。そうでしたね」
アルノルド先輩はしっかりと覚えていたらしい。ファルスは先輩の言葉で思い出したようだ。涙目だったのは変わらなかったけれど。
「ファルス、明後日の闘技大会が終わったら剣を買いに行きましょう。また付与してもらえばいいんだし」
「そうだよな。闘技大会が終わったら絶対に買いに行く」
ファルスを元気づけるべく話をしていると、イェレ先輩が今日の討伐を手伝ってくれたお礼に王都一の武器を作る店を紹介してくれる事になった。
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