第63話
「いやー本当ならファルス君もここに呼びたかったんだけどね。俺が呼んだ理由。ちょっと狩りに付いてきて?」
イェレ先輩は満面の笑みを浮かべながら最高級の茶葉を使ったお茶を淹れている。
「……やはりな。で、何を狩るんだ?」
「ブルードラゴン、かなっ!」
「お前一人でいけるだろう」
「ブルードラゴンって魔法耐性が異常に高い事を知っているよな!?」
「イェレならなんとかなるだろ」
アルノルド先輩は香りを楽しむようにお茶を飲んでいる。
「マーロアは付いて来てくれるだろう?」
「私より騎士団長クラスの誰かが行けばすぐ終わるのでは無いですか?」
私はそもそも学生だし。
「それなんだよね。そういう時に限ってさ、南部の国境付近でスタンピードの予兆があるらしくて他の魔術師と騎士団が向かっているんだよね。それと王太子殿下も隣国へ視察に出ているから警護に騎士団長も駆り出されているんだ。
陛下の護衛もあって人手が全く足りないんだよ。そこにブルードラゴンが北部の村に現れたってわけさ。運が悪すぎだろう?」
「私よりギルドで冒険者を募った方がいいんじゃないですか?」
「みんなスタンピードの方へ出払っているんだ。稼ぎ時だしね。それにドラゴンを倒す程の強さを持つ人間なんてそうそう居ない。
マーロアやファルスは俺もアルノルドも認める程の強さだし大丈夫。二人ともドラゴンを過去にも倒しているし」
「仕方がないな。報酬はきっちりと頂くからな。マーロアはどうする?」
ブルードラゴンがどんな強さかもよく分からないけれど、先輩たちとなら一緒に討伐に行っても大丈夫なような気がする。
「アルノルド先輩が行くのなら付いて行きます。ファルスは闘技大会が控えていますから参加するかどうか……」
イェレ先輩はニヤリと笑った。
「それなら大丈夫だ。行ってすぐ帰ってくるし、三日後の闘技大会は余裕だろう。学院長にも話しておくから」
ファルスは既に参加決定なのね。
「分かりました。帰宅後すぐに用意します。明日の朝、ここに来ればいいですか?」
「あぁ、早いうちに来てくれ」
私は必要な物を聞いてからすぐに邸に帰った。
ファルスも学院から連絡を貰ったようでクラブを途中で切り上げて帰ってきたらしい。
「マーロア、俺、先生からとりあえず帰れって言われたんだけど、何かあった?」
「学院長から聞いていなかったのね。イェレ先輩と一緒に明日の朝一番にブルードラゴンの討伐に行くのよ?」
「えぇぇっ!?」
ファルスは予想していなかったようで驚きを隠せないでいた。
「三日後闘技大会だぞ、俺」
「私もそうは思ったんだけれど、イェレ先輩は大丈夫だって言ってたわ」
ふふっと笑いながら明日の詳細を話す。ファルスは闘技大会を延期してほしいとぼやいている。
まぁそこは仕方がないわよね。
頑張ればきっとアルノルド先輩特製ドリンクをくれるかもしれない。ファルスはオットーに明日の事を報告してから明日の準備するって言ってすぐに部屋に戻って行った。
なんだかんだでみんなで討伐するのが好きなんだと思う。私も嫌いじゃないのよね。
私も明日のために入念に装備のチェックをしてからベッドへ入った。
「お嬢様、おはようございます。お時間でございます」
「今日は軽く体を温める位がいいよね。リストバンドも取るわ」
「俺も取ってきたよ。久々に取ると体が軽い。そうそう、サンドイッチを料理長に無理言って作って貰ったんだ。王宮に着いたら食べようぜ」
「きっと二人は食べていないでしょうね」
私たちは軽く体を動かした後、王宮へとフル装備で向かった。村に出るブルードラゴンってどれくらいの大きさなのかしら。アルノルド先輩の口ぶりではイェレ先輩一人で倒せるような感じだった。私もファルスも補助として参加するのかな。
「先輩方、おはようございます」
「マーロア、ファルスおはよう。早速だけど飛ぶよ」
イェレ先輩とアルノルド先輩は前もって準備をしていたようで魔法円と魔石の中に立っている。今回は遠い距離ということもあって魔石の魔力を利用して転移するらしい。
魔法円の線に魔石が置かれていつでも発動出来る状態になっていた。
私たちは素早く魔法円の中に入ると、イェレ先輩は詠唱を始め、魔法円が淡く光り始めた。そして景色が歪んだかと思うと、次の瞬間見たこともない村の中に居た。
村は人気が無い様子で静まり返っている。
「イェレ先輩この村は?」
「あぁ、この村はドラゴンが出たと言われている村だ。住民たちは今頃一番近い村に避難しているだろうからこの村には誰も居ないだろう」
イェレ先輩はそう言いながら消えた魔法円の上に置かれてあった魔石を丁寧に拾い上げていく。
「先輩、一応朝食を持ってきたのですが食べますか?」
「気が利くね。腹が減っていたんだ」
私たちは村の中央部まで歩いて行くと、広場のようになっていて椅子が設置されてあった。私たちが住んでいた村とは赴きが違うのね。
自分が住んでいた村やギルドがあった街しか知らない私にはちょっと新鮮に映ったけれど、村の端の方では建物が壊されていて被害の大きさに気を引き締めることになった。
私たちは素早くサンドイッチを食べて戦闘の準備を始める。
「ファルス、剣を貸せ」
「アルノルド先輩! いいんですか!?」
ファルスはもしや! と目を輝かせているわ。そして剣を渡すと、アルノルド先輩は指で剣の腹を撫でながら詠唱を始める。
私も先輩を真似てダガーに魔法を付与してみる。私が付与したものは麻痺と毒と腐食の三つ。それぞれのダガーに一つずつ付与してみた。
「マーロア、上手いじゃないか。アルノルドを超えるのも時間の問題じゃないか?」
イェレ先輩は面白そうにダガーを眺めている。その間にアルノルド先輩の魔法付与は終わったようだ。
「身体強化と威力増加、魔法強化だ」
ファルスは今にも踊りだしそうな程喜んでいるわ。
二日後の闘技大会には反則になるのでブルードラゴンを倒した後、魔法を解かれるのは黙っておこう。それにしても流石アルノルド先輩。三つも重ね掛けできるのは凄い。
私は一つがやっとだもの。
そして錬金術師の腕によって効果に大きな差が出る。気持ち程度から国宝に指定されるほどの効果もある。
先輩の魔法付与を見ているうちに私も自分の武器や防具は魔法効果の高い物にしたい、お金が貯まったらまたダンジオンさんの所に行こうと密かに決めた。
今アルノルド先輩が付与した魔法はあくまで簡易な物であり、使っていくうちに効果は薄れていく。
しっかりと長期間効果を持続させたいならダンジオンさんが行うような武器や防具に直接刻印していく事になる。
刻印すれば長期間効果が消えないけれど、種類は固定される。魔法で簡易的に付与するのはその場で出来るし、敵によって魔法を選べるので最適な魔法を付与出来る。が、魔力を消費するので魔力を温存したい時には向かない。
一長一短だ。ただ、それは錬金に覚えのある人が居てこそ出来るのであって普通は付与された武器や防具を買う事になる。
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