第24話
翌日、ファルスと街に出掛けた。
もちろんしっかりと外出許可証を持って。私たちは念のため帯剣して街に出ている。治安はいいとは聞いたけれど、やはり貴族令嬢が一人では歩かない治安らしいので念には念を。
そうそう、騎士科は外出時に帯剣するのは認められている。学院内での帯剣は駄目だけれどね。
騎士科の人の中には帯剣していないと寂しいのか模造剣や木刀を携帯している人が偶にいるのを見かける。
「こんにちは。防具を取りにきました」
そう声を掛けると奥から先日のおじいちゃんが出てきた。
「おお、待っていた。まず坊主合わせてみるからこっちへこい」
ファルスは服を脱ぎシャツの上から鎖帷子を着る。私が思っていたものより小さな鎖状の物で薄く、重さもさほど気にならない。ファルスは着心地を確かめながら動いている。
「じいちゃん、これすげぇな。軽い。これなら動きやすくていいや」
「そうだろう、そうだろう。どれ、嬢ちゃんの分も出来ているから着けてみてくれ」
私は胸当てを受け取る。胸当て部分は魔獣の革で出来ているようで薄くしなやかなのに引っ張ってもびくともしない。
衝撃緩和にはあまり効果がなさそうだけれど、刺されたり、切られたりした場合はかなり防いでくれそうな感じ。
そして肩当てとガントレット、グリーヴの部分には装飾が細かく施されていて屑魔石が宝石のようにちりばめられている。
「胸当ての内側に魔法円が焼き付けてあるだろう? それは魔法を使った時に隠ぺいする魔法円だ。これでお嬢ちゃんの魔力はほぼ見えなくなるはずだ。
そして肩当てとガントレット、グリーヴに埋め込まれた屑魔石が貯めこんである魔力で衝撃を緩和させるのとお嬢ちゃんの魔力を魔石の魔力だと周囲に思わせる事が出来る。例えわずかに魔力が洩れても大丈夫だろう」
装着してみてびっくり。とてもしっくりくるわ。そして重たさを感じさせない。そしてこの装飾も細かく繊細で私好み。
「おじいちゃん! ありがとう。一目で気に入ったけど、着てみて更に気に入ったわ」
「そうかそうか。よかった。これを着て闘技大会も頑張るんだぞ」
「「闘技大会?」」
「なんだ知らんのか。学院の騎士科の晴れの舞台とも言っていい大会だ。王都全土から観客がつめかける程の有名な大会でな。歴代の優勝者は大体王宮騎士団長か副団長になっている。レコは例外だがな。
王宮騎士を目指すなら絶対参加だ。それにスカウトも多いし、注目されれば就職に困る事はないと言っても過言ではないぞ」
レコ! 強いとは思っていたけれど、優勝者だったのね。それに歴代の優勝者は今の騎士団長たちって凄いわ。
「ファルスは絶対出ないとね」
「なんだマーロアは出ないのか?」
「だって私は冒険者になりたいのだもの。騎士団への就職は希望していないわ」
「そうだったな」
「まぁ、なんだ。活躍を期待しておるぞ」
「「はい!」」
私たちはウキウキした気分で防具を装備したまま学院寮へと帰っていった。
そして入学式までの間のする事といえば、日々の鍛錬と勉強。勉強はファルスと学院の図書室や食堂のテラスで一緒に勉強していた。
私たちがそうやって過ごしている間に平民や貴族の人たちは入寮が進んでいき、あっという間に平民用食堂は席の取り合いが始まる事となった。
私たちは寮に住み始めてまだ余裕がないから王都のギルドには行っていないのよね。学校生活が始まって少し余裕が出てきたら行ってみようかな。
そうして迎えた入学式。
朝からしっかりと起きて制服に着替えて髪も一つに纏め上げたわ。抜かりなくばっちりよ。ファルスも今日ばかりは髪の毛を撫でつけていて、いつもと違う雰囲気だ。
「馬子にも衣裳ね! ファルスとても似合っているわ」
ファルスは満更でもない様子。
「マーロア様もお似合いでございますよ」
私たちは笑い合いながら式が行われるホールの前に張り出されたクラス表を眺める。
「やっぱり私たちはSクラスね。では行きましょう」
「そうだな」
一応学院は貴族と平民との差は付けない事になってはいるが、やはり幼少期から勉強している貴族たちと平民では学力に大きな差があるのは否めない。
クラスはSからFまであるが、主に貴族がSクラスとAクラスが殆どである。
クラスの中にポツポツと平民が混じる感じだ。ファルスは平民だけれど、私と一緒に勉強してきて一緒のSクラスとなった。
それからクラスは学力で振り分けられており、共通の授業を教室で受け、騎士科、淑女科、文官科、魔術師科(錬金術含む)、侍女科と専門の学科を学ぶ時は別クラスへと移動となるようだ。
私たちはホールへ入場し、Sクラスの場所の座席に座った。
私は周りをキョロキョロ見渡したいけれど、流石にそれは子供だなと自重したわ。
代わりにファルスがキョロキョロしていたけれどね。そして続々と生徒たちは席に着き、式が開始された。学院長先生の有難い言葉や在校生代表として生徒会長の話があったわ。
次は新入生代表。
どうやら今年は王族が入るようだ。挨拶は第三王子のシェルマン殿下が挨拶をしている。
シェルマン殿下の挨拶が終わると黄色い声援がここぞとばかりに会場中に広がった。
確かにカッコいいと思う容姿をしている。ご令嬢たちに好かれそうな爽やかイケメンというやつだろうか。
私からみたらひょろっこい感じが否めない、つまり興味はないかな。
式も終わって私達は引率の先生と一緒にクラスへと向かった。
Sクラスは警備の観点からAとSクラスは他のB~Fクラスとは棟が違うらしい。平等と謳いながらその辺はやはり違いを実感する。
私たちは一階にあるクラスに入ると座席は二十五席ほどで名前順に席が決められているようだ。
今更だけれど、上位十名に入っている私とファルスは有難く学院の恩恵を享受しているのだが、他の八名は貴族らしく、学院の恩恵を辞退されたそうだ。
「さて、着席したな。私がこの一年、Sクラスの担任になるギャルロ・ファースだ。よろしく」
そう挨拶したギャルロ先生は体育会系のような雰囲気でニカッと笑い皆を纏め上げていきそうだ。
クラスの女子は十三名で、男子は殿下を含めて十二名になっている。
毎年Sクラスは男子が多いようだが、今年は見目麗しい王族のシェルマン殿下がいるため、お近づきになりたい令嬢が沢山いてSクラスには女子が多くなっている。
その中でも私が気になっているクラスメイト、淑女科の公爵令嬢のエレノア様とお付きの子爵令嬢のハノン様。二人ともとても優雅な仕草で女の私でも見惚れてしまいそうだ。
後はシェルマン殿下の側近で文官科ファノール様やニコライ様、魔術師科のミュル様くらいかな。殿下はとても見目麗しく、令嬢たちに大人気だ。殿下の側近も見目麗しい方ばかりでSクラスの令嬢たちはこれからの日々、眼福を感じながらで過ごしていくことになる。
ファルスも見た目はとても恰好良くて殿下や側近に見た目だけなら負けていないと思うのよね。
令嬢たちがファルスに話しかけているのを見て少し心のどこかで何かがチクリと痛んだきがする。
そうそう! なぜみんなを名前で呼んでいるのかと言うと、Sクラスは人数も少なく仲良くなっていこうという担任の提案で名前呼びになったのだ。
その後、授業はないので教科書が配られてこのまま解散となった。
「マーロアお嬢様、帰りますよ」
「そうね。では皆さまごきげんよう」
そう言って教室を出る。ようやく初日が終わった!
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