魔力無し判定の令嬢は冒険者を目指します!

まるねこ

第1話 プロローグ

――とある邸の一室。


 ウロウロと忙しなく出産を待つ男がそこに居た。彼の名はガイロン・エフセエ侯爵。赤ん坊の鳴き声が聞こえて来ると、待ち兼ねたようにガイロンは扉の前で声が掛かるのを今か今かと待っている。しばらくすると産婆が子を抱えて部屋から出てきた。


「侯爵様、おめでとうございます。女の子でございます」

「…… 女だったか。残念だがこればかりは仕方がない。だが、シャスに似ているのか、とても可愛いな」

「旦那様、お嬢様のお名前は決まっておいでですか?」


後から執事のオットーは部屋に入り赤ん坊を抱くガイロンに聞いた。


「勿論決まっているぞ。名はマーロアだ」


そうして赤ん坊である私の名前が決まった。


 マーロアには乳母兼侍女のビオレタが付けられて世話をされている。

 父ガイロンは王宮勤めで忙しくしており、朝から晩まで仕事をし、母のシャナは産後の具合が思わしくないようで部屋から出る事はなかったため、二人は同じ邸に住んでいながらもマーロアに会う事はあまりなかった。

 ビオレタは背中に自分の子を背負い、マーロアの朝から晩まで付きっ切りで世話をしている。

 乳児なりにも何かを察したのだろうか、マーロアは夜泣きも少なくビオレタを困らせる事は少なく、実の両親に会う事もなく過ごしているマーロアを不憫に思ったビオレタは我が子と変わらずマーロアを一生懸命世話をしていた。



 マーロアが生まれてから六ヶ月、今日は両親と初めて神殿に行く日。


 何故神殿に行くのかと言うと、マーロアだけでなく貴族や平民、全て子が生まれてからおおよそ半年した頃に魔力測定を行う事と定められている。今日は月に一度、生後半年の貴族の子が集まる日。マーロアは普段抱かれ慣れない父と母と共に馬車に乗り込み神殿へ向かった。



 会場となっている神殿はいつもなら平民の参拝者が大勢いるのだが、この日は月に一度の特別な日のため礼拝用の椅子は片づけられ、中央には神官と魔力測定器が置かれている。そして順番を待つ貴族達が一列に並び、父と母もそれに習うように他の貴族達に挨拶しながら順番にならんでいたようだ。

 

 私達の後ろに並んだのは国王夫妻。王妃に抱かれているのはこの国の第三王子のシェルマン殿下だったようだ。シェルマン王子は体が弱いらしく、他の子供に比べ一回り小さかったらしい。そんなシェルマン王子が列に並んだ途端、王子は大声で泣き始め魔力を放出し始めた。


 つられるように前にいたマーロアも王子に刺激されたようで火が付いたように泣き始めた。


 シェルマン王子から放たれる魔力が神殿に広がり、ビリビリと窓を振るわせるほどだった。そのせいかほんの僅かに魔力を放ったマーロアだったのだが、皆王子に注目が集まり、マーロアが魔力を使った事に気づく者はいなかった。

 会場にいた神官達は漏れ出る魔力に驚き、陛下達は魔力が溢れ出ているシェルマン王子をあやして止めようとするが泣き泣き止まず。他の赤ん坊の測定に影響を及ぼしかねないため陛下達は魔力測定を断念し、シェルマン王子を城へと連れ帰る事となった。


父と母はその騒動に驚きながらもマーロアの順番が回ってきたのでなんとかマーロアを落ち着かせながら神官の前に移動した。


「エフセエ侯爵、マーロア嬢をこの籠へ」


 父は神官に言われるがまま神の籠と呼ばれる魔力測定を行う籠に私を置いた。魔力を持つ赤子が籠に置かれるとすぐに台座の水晶に変化があるのだが、マーロアを置いても反応がない。


その様子を見ていた神官達の父の顔を気まずそうに見ている。そして重い口を開いた。


「……エフセエ侯爵、非常に稀ですがマーロア嬢には魔力がありません」


 それを聞いた父も母も言葉を失ったという。貴族はほぼ魔力を持って生まれる。魔力量は少ないが、平民でさえ持つ者も多い。だが、娘にはない。この時点で父達は娘に烙印が押されたと感じ、愕然となった。

 夫婦の足取り重く、暗い表情のまま邸へと帰りついたのは言うまでもなかった。母は泣き、父と今後について何度も話し合ったと聞く。そして二人で出した結論はマーロアを領地に向かわせる事だった。夫妻は魔力を重視する貴族社会では生きにくい。仕方がないと判断したのだ。



 そうして私は乳母兼侍女のビオレタとその息子と共に侯爵家領地の端に位置する村で過ごす事になった。

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