魔力無し判定の令嬢は冒険者を目指します!
まるねこ
第1話 プロローグ
「まことに残念ながら、マーロア様の魔力は感知できませんでした」
神官の言葉にガイロンは声を詰まらせた。
「……どういうこと、だ?」
「マーロア様は魔力がありません」
「嘘よ。嘘よね? 検査器具が壊れているんだわ! もう一度、もう一度検査してちょうだい」
シャスの声で神官はもう一度赤ん坊を籠の上に乗せるがやはり変化はなかった。
「魔力なしですって」
「可哀想に」
「嫌だわ、わが子と同じ歳よ……」
ざわつく神殿の会場で居た堪れなくなり、二人は信じられない思いとショックでマーロアを抱きかかえながら足早に馬車に乗り込んだ。
――エフセエ侯爵邸の一室。
ウロウロと忙しなく出産を待つ男がそこに居た。
彼の名はガイロン・エフセエ侯爵。赤ん坊の泣き声が聞こえて来ると、待ち兼ねたようにガイロンは扉の前で声が掛かるのを今か今かと待っている。
しばらくすると産婆が子を抱えて部屋から出てきた。
「侯爵様、おめでとうございます。女の子でございます」
「…… 女だったか。残念だがこればかりは仕方がない。だが、シャスに似てとても可愛いな」
「旦那様にも似て目鼻立ちのしっかりしているお嬢様は将来美人になりますね。旦那様、お嬢様のお名前は決まっておいでですか?」
うしろにいた執事のオットーは部屋に入り赤ん坊を抱くガイロンに聞いた。
「勿論決まっているぞ。名はマーロアだ」
ガイロンは執事に笑顔で答えた。
父ガイロンは王宮勤めで朝から晩まで仕事に追われており、母のシャスも産後の体調がなかなか回復せず、マーロアはすぐに乳母に預けられた。
両親共には同じ邸に住んでいながらマーロアに会うことなく、乳母兼侍女のビオレタが付きっ切りでマーロアを世話している状態となっていた。
乳母として雇われたビオレタは背中に自分の子を背負いながら、マーロアと朝から晩まで一緒に過ごしている。
マーロア自身、乳児なりにも何かを察したのだろうかと思うほど、マーロアは夜泣きも少なく、ビオレタを困らせることは殆どなかった。
同じ邸に住んでいながら両親が彼女に会う事もなく、日々を過ごしているマーロアを不憫に思ったビオレタは我が子と変わらずマーロアの世話を一生懸命していた。
マーロアが生まれてから六ヶ月が経ったこの日、神殿に行く日がきた。マーロアだけでなく貴族や平民、全ての子は生まれてからおおよそ半年した頃に魔力測定を行うことと国で定められているのだ。
今日は生後半年の貴族の子が集まる日。マーロアは両親と共に馬車に乗り込み神殿へ向かった。
会場となっている神殿はいつもなら平民の参拝者が大勢いるのだが、この日は月に一度の特別な日のために礼拝用の椅子は片づけられ、中央には神官と魔力測定器が置かれている。
順番を待つ貴族たちが一列に並び、ガイロンとシャスもそれに習うように他の貴族たちに挨拶しながら順番に並ぶ。
すると突然、会場は騒然となりはじめた。
国王夫妻がガイロンたちの後にやってきた。王妃に抱かれていたのはこの国の第三王子のシェルマン殿下だ。シェルマン王子は他の子供に比べ一回り小さい。そして身体が弱いらしく、先月の魔力測定には参加せず体調をみて今月の参加となったようだ。
「セルロア陛下、どうぞ前へ」
国王陛下を貴族たちの列へ並ばせるのは良くないと誰もが感じているところへ神官が声を掛けた。
陛下が頷き、前へ移動しようとした時、王子は大声で泣き始め魔力を放出し始めた。王妃様がシェルマン王子をあやすけれど、泣き止む気配はない。
泣き声と共にシェルマン王子から放たれる魔力が会場内に広がり、窓を振るわせる。
そして王子の前にいたマーロアも王子の泣き声に刺激されたようで火が付いたように泣き始めた。
会場にいた神官たちは王子から漏れ出る魔力に驚き、陛下たちはシェルマン王子を必死にあやして止めようとするが、泣き止まない。
他の赤ん坊の測定に影響を及ぼしかねないと判断した陛下たちは今月の魔力測定を断念し、シェルマン王子を城へと連れ帰る事となった。
父と母はその騒動に驚きながらもマーロアの順番が回ってきたのでなんとかマーロアを落ち着かせながら神官の前に移動した。
「エフセエ侯爵、マーロア嬢をこの籠へ」
父は神官に言われるがまま神の籠と呼ばれる魔力測定を行う籠に私を置いた。魔力を持つ赤子が籠に置かれるとすぐに台座の水晶に変化があるのだが、マーロアを置いても反応がない。
「まことに残念ながら、マーロア様の魔力は感知できませんでした」
神官の言葉にガイロンは声を詰まらせた。
「……どういうこと、だ?」
その様子を見ていた神官たちの父の顔を気まずそうに見ている。
そして重い口を開いた。
「マーロア様は魔力がありません」
「嘘よ。嘘よね? 検査器具が壊れているんだわ! もう一度、もう一度検査してちょうだい」
それを聞いた父も母も言葉を失ったという。貴族はほぼ魔力を持って生まれる。魔力量は少ないが、平民でさえ持つ者も多い。
だが、娘にはない。
この時点で父たちは娘に烙印が押されたと感じ、愕然となった。
母の言葉に神官はもう一度赤ん坊を籠の上に乗せるがやはり変化はない。
両親と神官のやり取りに気づいた貴族たちからの声がしはじめる。
ざわつく神殿の会場で夫婦は居た堪れなくなり、二人は信じられない思いとショックでマーロアを抱きかかえながら足早に馬車に乗り込んだ。
車内はシャスの泣き声だけが聞こえ、二人とも暗い表情のまま邸へと帰りついたのは言うまでもない。
父と母は今後について何度も話し合ったと聞く。
父の出した結論はマーロアを領地に向かわせる事だった。
魔力を重視する貴族社会において魔力なしのマーロアは生きにくい。
大きくなるまでは伸び伸びと育ってほしい。そう願いを込め、これから先の将来のことも考え、そう判断したのだ。
私は乳母兼侍女のビオレタとその息子、護衛と共に侯爵家領地の端に位置するランロフト村で過ごす事になった。
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今回はじめてカクヨム主催のコンテスト、カクヨムコン10に応募してみました。
一次審査は読者様の評価で決まるようです。
ドキドキ!
もし、もしも、余裕があれば★評価を入れて頂ければ嬉しいです。
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