第62話 好き
「え、慶太あの学校行くの? あそこってめっちゃレベル高いよね、確か。私と同じとこ、行くんじゃないの? そんなレベル高いところ慶太、受けるんだっけ?」
「うん、推薦貰ったんだ。この前とその前の模試の成績が良くて、学校の成績もちょうどいい感じで……あれ、言ってなかったっけ?」
高校入試があと3か月と迫ったとある日。
俺の家で一緒に勉強をしていた時に志望校の話題になった時に梓にそう言うと、ビックリ仰天まん丸お目目を見せてくれる。
あれ、言ってなかったっけ?
推薦貰って、それでって……あ、アレ?
「聞いてないよ、そんな話! 初めて聞いたんだけど、そんな話! え、私慶太と同じ学校行けると思ってたんだけど……ほ、本当に!? 本当なの、慶太? 私と同じ高校じゃなくて、あの高校なの!?」
「うん、ホント。先生も行ってくれたし、僕なら勉強推薦で合格できるって」
正直僕も最初は梓と一緒の学校を志望してたし、梓と同じ高校通えたらいいな、なんて漠然とそんな事を考えていた。
でも、受験が近づくにつれ段々と成績が伸びて行って、先生も高いレベルを目指せるって言ってくれるようになって、推薦が取れるレベルまでになれて。
それなら僕もより高いレベルで勉強してみたくなって、よりいいところに行きたくなって……だからその高校を志望した。
高いレベルで切磋琢磨して成長したいと思ったから。
「え、何それ意識高い系? 慶太そう言うの言うタイプだったっけ?」
「ふふっ、先生が言っててちょっと影響されちゃったかも」
「それは知らないけど、そっか……それじゃ私と慶太、離れ離れになっちゃうって事? 私たち、違う学校になっちゃうんだ……私にあの学校目指すほどの学力ないし。いつも慶太に勉強教えてもらってギリギリ試験を突破しているような私に、慶太と同じレベルの学校受ける学力ないし。私たち、離れ離れになっちゃうんだ」
「そ、そんな自分の事卑下しなくても……でも、そうだね。僕達離れ離れになっちゃうね。学校外では会えるし、いつでも遊べるけど……そうだね。そう言う事、だね」
梓ならいつでも僕の家に遊びに来て欲しいし、なんなら休みの日は毎日遊びたいし。海未も交えて3人で遊んで、ご飯食べてお泊りして……そう言う生活、高校になっても続けたいし、続けていけるとは思うけど。
でも学校で会えるのと会えないとのでは全然心持ちが変わってくるというか。
学校って長く一緒に居れる時間だから。クラスは違っても休み時間とかに会いに行ったり、色々できちゃう場所で、ずっと一緒に居れる場所。
だから、そこで会えないってのはその……やっぱり寂しいし、少ししんどい。
今みたいに学校でバカやったり、お弁当一緒に食べたり、放課後の教室で一緒に勉強したり……そう言う青春を梓と一緒に過ごせないのはやっぱり寂しい。
そんな僕の言葉を聞いた梓は、複雑な表情を顔に浮かべながら、
「ふふっ、慶太もそう思ってくれてるんだ。私も同じ気持ちだよ、慶太。私も寂しい、慶太と学校で一緒に居れないの寂しい。慶太と一緒に学校生活送りたい」
「うん、僕も。僕も梓と一緒が良い……で、でも、その……」
「わかってる、レベルの高いところで勉強、したいんでしょ? 先生が薦めてくれてるあの高校に行って、もっと勉強、頑張りたいんでしょ?」
「う、うん」
「うん、素直でよろしい。それでいいよ、慶太賢いもん……私なんかと同じ高校、行く必要ないよ。わざわざ慶太が私のレベルに合わせて、レベルの低い高校に行く必要ないよ……で、でもさ、慶太!」
そう言った梓がパンと机を叩き、僕の顔をジッと見つめる。
「ど、どうしたの、梓?」
「で、でもさ、慶太、その……が、学校が一緒じゃなくても、一緒に居る方法ある! いや、物理的には無理かもだけど、その……精神的というか、心の中で、というか……そ、そう言う事なら、ずっと一緒に居られる方法、あるよ!」
「え、方法?」
「うん、方法……わ、私と慶太が離れ離れになっても、ずっと一緒に居る方法! が、学校が違っても、ずっと私と慶太が、一緒に居られる方法!」
そう言った梓がグイっと身体を乗り出して、鼻息荒くテーブル越しの僕に近づいてくる。
少し赤く染まった表情は真剣で、ギュッと僕の方をまっすぐ見ていて。
「あ、あのさ、慶太! そ、その、私、私……私ね!」
「え、ちょ、梓……え? え?」
ドンドンと梓の顔が近づいてくる。
それに呼応するように早くなった心臓の音が聞こえて、それが僕にも伝わって、ドクドク早くなっていく。
「あ、あのね、慶太! ずっと、昔から、その……えっと、私、ずっと……け、慶太!」
「あ、梓! す、ストップ梓!!!」
梓が何か話すたびに空気が揺れて、部屋の色が変わっていく。
さっきまで青く染まっていた色は徐々に赤みを帯びて、今では淡いピンク色に……ダメ、梓この色はダメ! だって、これじゃ、だって……!
「ダメじゃない、止めない……だって、私慶太……私、慶太、慶太の……」
「あ、梓、その……えぇ……」
「だって、私、あうっ……慶太の、慶太のっ……す、好きな人、気になる……ぱひゅ……ぷしゅー」
「あ、梓、僕は……え?」
纏っていた空気の色が変わる。
それと同時に真っ赤な顔で僕の事を見つめていた梓の視線が切れ、湯気を立てながら俯いて……え、好きな人?
「ミスった、バカ、私の意気地なし……は、はぅ!? そ、そうだよ、う、うん! すすす、好きな人……け、慶太のそう言う人、気になるし! いや、そのね! 方法の前に、その……そう言う事、ちゃんと聞いておかなきゃと思って!」
「え、ど、どう言う事? どういう事、梓?」
さっきの雰囲気って、その……え、それならその……えぇ?
いや、丸く収まるのはそうかも……えぇ?
「どう言う事でも! と、とにかく教えてよ、慶太……一緒だったら、嬉しいし、私の意気地なし、慶太がカバー……と、とにかく! お、教えて慶太! 慶太の好きな人、私に教えて!!! 私に教えてよ……私の勇気のなさ、慶太でカバーしてほしい」
もじもじと身体を揺らして指を絡めながら、俯いた梓が虚空に向かって何か呟いたかと思えば、また俺の方をキッと睨んで声を張る。
……好きな人、か。
僕の好きな人、好きな人……これなら、大丈夫だけど。少なくとも梓とまた、一緒に居れると思うけど。
「お、教えて慶太……慶太の好きな人、私に教えて? そ、その、緊張しなくていいから、その……じゅ、準備はいつでもできてるから!」
「そ、そんな大げさな。うん、教える……僕の好きな人は千尋、って言うんだ。小さい頃に僕を救ってくれたヒーロー……その千尋が、僕の好きな人だ」
「わ、私も……え? えぇ!?」
☆
《現代に戻る》
「……なーんてことがあったよね。確か僕と梓、そこから疎遠になったよね。いや、疎遠は嘘だけど前より遊ばなくなったというか、互いの家にも……そんな事も、あったよね」
「た、確かにあったけど……な、何の話? なんで今、その話するの? その話はその……忘れるって言ったじゃん」
大盛り上がりのパーティー会場の隅っこで。
隣に座る梓と思い出話に花を咲かせていたけど、思ってた通りこの話をしたときに梓の表情と声が一気に不機嫌になる。
ごめんね、梓。でも、大事な出来事でしょ?
僕と梓がすれ違って、そこから疎遠になって、高校入ってほぼ会わなくなって……そんな事の原因になった大事な出来事だから。
だから梓に話したい……大事な話、したいから。
「な、何の話、慶太? 慶太は何が言いたいの?」
「アハハ、ごめんごめん。そのね、僕はね……うまく言えないけど、謝りたいんだ。あの時の梓に謝りたいというか、何というか……ふふっ、とにかく謝りたいんだ」
あの時の梓が本当は何をしたかったか当時からわかってた―あの時の梓は僕に告白しようとしてくれてたんだよね。
僕の事大好きって、ずっと一緒に居たいって……そう言う事、思ってくれてたんだよね? 僕のせいで言えなかったけど、そう言う事、思ってくれてたんだよね?
「は、はぁ!? なななな、何の話、も、もう! な、何言ってるの慶太、へ、変だよ今の慶太!!! そ、そんな私が、その……、いつもならそんな事言わない、そんなこと掘りかえして! そんな事、慶太……ち、千尋ちゃんに殴られて変になっちゃった!?」
「アハハ、なってないなってない。むしろあの時の方が変だったって」
真っ赤な顔を隠すように体育座りをしながら、わにゃわにゃと震えるように言葉を紡ぐ梓にそう笑いかける。
今の僕は正常だよ、ちょっと緊張してるだけ。
あの時の方がおかしいよ―あんな風に思っちゃってたあの時の僕の方がおかしいよ。
「な、何、本当に……け、けいたぁ?」
「ふふふっ、ごめんね、梓。その……あの時は言わなくて良かったけど、今なら言って欲しい、って事だよ」
あの時の僕は本当にどうかしてた―千尋の偽りの姿を崇めて、それを好きになって。梓の事なんて何も考えずに妄信的に千尋の事をヒーローと思って好きになっていた。
そのせいで高校に入ってから千尋の奴隷になって、海未とも関係がこじれて、梓とももっと疎遠になって……本当にバカで変だったよ、あの時の僕は。
あの時の僕、千尋以外が見えてなかった、それ以外をちゃんと見ることが出来てなかった……本当に好きな人がすぐそばに居るのに、それに気づくことが出来てなかったんだから。
「だ、だから何のはな……え?」
「そのままだよ。あの時は絶対断ってた。千尋の事が好きだったから、絶対断ってたし、酷い言い方もしてたと思う……でも、今は違う。だから言って欲しい、あの時の続き……ううん、違うな。僕に言わして、続き」
「え、え、え……ひゃ、ひゃへ……」
「梓の事、ずっと好きでした。俺と、付き合ってください!!!」
★★★
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