第8話 登校と学校と

「……兄さん、兄さん」


「どうしたの?」


「えへへ、呼んでみただけです。兄さんの手、冷たいのに温かくて大きくて優しくて気持ちよくて落ち着きますから。だから、呼んでみたくなりました」


「もう、何それ。よくわかんないや」


「ふふっ、何でもですよ、兄さん」


 ……


「……兄さん、兄さん」


「……」


「むむむ。兄さん、にーさん? 兄さん、兄さん。兄さん、兄さん」


「……もう、今度はどうしたの?」


「ふふふっ、今度も、呼んでみただけです、兄さん♪」

 隣で手を繋ぐ海未が、朝のキラキラ湖面に負けないくらいのキラキラ煌めく笑顔を浮かべた。



 ☆


「兄さん、今日は一緒に学校に行きましょう。久しぶりに海未と一緒に学校に行きましょう」

 朝の散歩の後、家に帰って海未の作った美味しい朝ごはんを食べて、洗い物中。


 カバンを抱きかかえながらソファに座って星占いを見ていた海未が首をぐるっと僕の方に垂らしてそう聞いてくる。


「うん、いいよ。今日は一緒に行こうか……そういえば射手座は何位だった、今日の星占い?」


「にへへ、ありがとうございます、兄さん。兄さんの射手座は6位でしたよ」


「うわっ、微妙な順位」


「正直になれば色々清算できるかも……だそうですよ。兄さん、正直になりましょう。ラッキーアイテムは白桃です」


「正直になれば、ねえ……よくわかんない占いだね、それ」

 何に正直なればいいんだろう?

 占いなんだからしょうがないけど、そういう所もはっきりしてほしいな。

 というか白桃って。そんなの簡単に用意できないでしょ。


「まあまあ、占いなんてそう言うものですよ。ちなみに海未のかに座は今日は星占い1位でした。ラッキーカラーは黒、今日一日良いことが起こる……えへへ、もうこの占い、結構当たっちゃってますね」

 でろーんと僕の方を見ながら、嬉しそうにケラケラ笑う。

 もう、そんな恰好だらしないよ、海未。


「良いじゃないですか、今はお家、兄さんと私しかいないんですから。だからちょっとはだらしなくもなりますよ」


「そんなこと言って、学校でもそんな恰好してるんじゃないの?」


「む、してるわけないじゃないですか。こんな姿見せるの、兄さんだけですよ……それより、早く洗い物終わらしちゃってください。もう結構、良い時間ですよ」


「はーい。もうちょっとで終わるから、準備して待っててね」

 海未に急かされたので少しピッチを上げて洗い物をする。

 もうちょっとで学校の時間だ……千尋には会いたくないから上手くかわさないとな。



 ☆


「もうすっかり霧もはれちゃってますね。朝のあれが噓みたいです、お天気さんさんです」

 すっかり太陽が出た外の世界を見ながら、海未がそう呟く。

 今日も秋晴れのいい日になりそうだ。


「ふふっ、兄さんと一緒に学校に行くの久しぶりですね。なんだか嬉しいです……いつも別々で学校に行くので少し寂しかったんですよ、兄さん」

 今朝のように隣を歩く制服姿の海未がのぞき込むように上目遣いでそう言う。

 まあ確かに同じ家に住んでて同じ学校に行ってるのに登校は別々って何か変な感じだね、今考えると。


「そうですよ、変な感じです。という事なので、これからは一緒に学校行きますからね、兄さん……ん」

 楽しそうに声を弾ませた海未が、軽いとステップを踏みながら、僕の方に小さい手をぴょんぴょこ揺らしてくる……どうしたの?


「どうしたの、じゃないですよ。手、繋ましょうよ、兄さん。朝の散歩の時みたいに、手を繋いで学校行きましょうよ」

 ルンルンと楽しそうな声で、ぺちぺちと僕のカバンに手をぶつけながらそう言って。


「……海未、今はダメ。学校行くときはダメです」


「む、なんでですか? 良いじゃないですか、私は別に恥ずかしくないですよ、オールOKですよ。それに兄妹だから大丈夫ですよ、兄さん」


「兄妹だからダメなの。兄妹で手を繋ぎながら学校行ったら変でしょ? みんなに笑われちゃうかもよ、いじられちゃうかもだよ」


「……別にそれくらいいですし、そんな事ならないですし。朝は手つないでくれたんですから良いじゃないですか、兄さん。海未の手もまた兄さんの冷たいのに温かくて大きくて安心する手に包まれたいって言ってますよ」


「そんなこと言ってもダメ。普通はしないんだから、そう言う事はダメです」


「はむー……別に普通じゃなくていいんですけど、海未は」

 むくれた顔で海未が僕の方を睨んでくるけど、その視線をかわしながら僕は歩を進める。


 別に家とかで甘える分には良いけど、こういう学校とかではしっかりちゃっかりしておかないといけないと思うから。

 兄離れしなさい、とは僕も寂しいから言えないし出来ないけど、でもみんなが見ているところではしっかりしておかないと。


「むー……兄さんはけちんぼの見栄っ張りさんです」


「けちんぼで結構です。ほら、早く学校行くよ」


「むむむ……そうですね、早く学校行きましょう。兄さんと学校に行けるだけ、プラスですね」

 少し怒っているけど、でも楽しそうな海未を促しなら、学校へ急いだ。



 ☆


「それじゃあ、兄さん、また放課後です。学校、頑張ってくださいね」


「うん、頑張る。海未も頑張るんだよ!」


「はい、頑張ります。今日は金曜日、最後の日ですが、色々チャージしたので頑張ります」

 学校に着くと、海未が元気にそう言ってたったか僕とは別方向に走っていく。

 昇降口で1年生と2年生が分かれているから、いったん海未とはさようなら。


 少しざわつく下駄箱から自分の靴を取って、階段を登る。

 よかった、千尋はいないみたい……あってしまったら最悪ではないけど、嫌だからね、色々思い出してしんどくなる。


 そんな事を考えながら自分の教室の前へ着いたので、ドアをガラガラ開ける。

「みんなおは……」


「おー、慶太! 良かった、慶太が無事だ、元気だ!!!」

 ドアを開けた瞬間、友人の谷川良哉たにかわりょうやが僕に向かって飛びついてきた……な、何事デスカ!?



 ★★★

 昨日の話で結婚最低年齢の話忘れていたので補足みたいな文章付け足しました。

 ごめんなさい。


 感想や☆やブクマなどいただけると嬉しいです!!!

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