第24話 海未と梓

「ふふっ、やっぱり兄さんの焼きそばは絶品です。ソースと麺とキャベツさんの絡みが素晴らしいです、最強です。それにトマトサラダも美味しいです、やっぱり兄さんはお料理上手ですね」

 目の前に座ってパクパクと夜ご飯を食べていた海未が、焼きそばをごっくんしてニコニコ笑顔でそう言う。


 あの後、海未と買い物に行って、海未が見たい映画とゲームがあるって言うから欄たるショップによって、少し遅めの夕食タイム。

 絶品で料理上手なんて……いいこと言ってくれるじゃん、ちょっと褒めすぎだよ!


「褒め過ぎなんて事ないです、むしろ褒め足りないくらいです。兄さんのお料理とっても美味しいですから」


「そう、ありがと。でも海未の料理も美味しいよ、僕のよりずっと美味しい」


「それは自負してます。海未の料理は兄さんの料理より美味しいです」


「……そこは謙遜しないんだ」


「海未はお料理には自信がありますから。いつも兄さんがどうすれば喜んでくれるか、そう言う事を考えてずっとお料理してますから。だから海未のお料理が最強なのは変わらない事実です、そこは譲れません」

 エッヘン、と胸を張りながら、そう言って鼻を高くする。


 ……まあ、確かに海未の料理は最高だし。

 これくらい自慢したくなっちゃうのもわかるな、ホント。


「それもそうだね、海未の料理は最強だもん。これからもよろしくね」


「はい……でも兄さんのお料理も時々食べたくなりますから。だから兄さんもよろしくお願いしますね」

 ぺこちんと僕の方を指さして、青のりのついた歯を煌めかせた。




「……そう言えば、明日海未はお出かけします。お昼ごろから少し、お出かけです」

 夕食終わってお風呂入って、そして今日2回目の映画タイム。

 いつも通り隣にちょこんと座ってコーラに顔を歪めていた海未が突然思い出したようにそう呟く。


「そうなんだ。お友達と?」


「はい、友達です、今日の仕返しです……だから兄さんは一人でお留守番、よろしくお願いします」


「言い方に棘があるね、なんだか。でも分かったよ、お留守番しとくから楽しんでくるんだよ」


「はい、楽しんできます……そして今は兄さんとの映画タイム、楽しもうと思います。兄さん、もうちょっと体寄せていいですか?」

 そう言うと僕の返事も聞かずにぐいぐいとほかほかの体を寄せて。

 昨日みたいにギュッと腕を密着させて、撫でてほしそうに僕の肩に頭をぐりぐりと摺り寄せてきて……まったくもう。


「もう、どうしたの海未。なんでそんなに甘えん坊になっちゃたの?」


「えへへ、良いじゃないですか、海未は妹なんですから……兄さんは甘えん坊の妹は嫌いですか?」


「ふふっ、そんな事ないよ。嫌いなわけないじゃん」

 甘えた上目遣いで僕の方を見てくる海未の頭をいつものように撫でてあげる。

 お風呂上がりのシャンプーの匂いとサラサラの髪……流石僕の妹だ。


「んん~、兄さ~ん……嫌いじゃないじゃなくて、ちゃんと言う言葉ありますよね? もっときれいに言う言葉ありますよね?」


「もう、本当に……好きだよ、海未」


「んふふ~ん、ふふふ~ん♪ えへへ、私も兄さんの事好きですよ。兄さんの事、大好きです」

 蕩けた笑みを浮かべて腰骨をコリコリしながらじゃれついてくる海未の頭をもう一度優しく撫でる。

 ほんと、ちょっと困るけど、でも可愛い妹だな、海未は。


「えへへ、兄さん♪ 兄さん♪」


「……海未、そろそろ離れて。こしょばいよ、もう」


「ダメです、離れないです。映画が終わるまでは海未の時間ですもん、自由時間ですもん。だから兄さんも、海未の頭なでなでし続けてください」

 ……もうちょっと厳しくした方が良いような気がするな。

 ちょっと甘すぎるような気もするな、海未に対して。

 もう少し厳しい兄になった方が良いのかもしれない。


「んんん~♪ 兄さんのなでなで、テクニシャンです……えへへ」

 ……でも結局できないからシスコンとか言われるんだろうなぁ。



 ☆


 朝ごはん食べて、お昼ご飯を食べての太陽燦々1時前。

「それでは海未は行ってきます。兄さん寂しくて泣かないでくださいね」


「泣かないよ、海未じゃあるまいし」


「……海未も泣いてません。いじわる言う兄さんはメです……行ってきますね、兄さん」


「うん、行ってらっしゃい」

 いつもより少しオシャレした海未がそう言ってスニーカーを弾ませて外の世界へ。

 そして僕は一人で家の中でお留守番……暇だな、動画でも見るか。



「……あ、これ美味しそう。簡単そうだし、作ってみるか」

 最近はまっている投稿者さんの動画を見ていると美味しいそうなティラミスの作り方が投稿されていた。


 この人は普段は化石食べたり、炭とかダンゴムシとか粘土とか……まあゲテモノ食べてる人なんだけど、でもこのシリーズの料理だけは本当に美味しそう、カロリーえぐいけど、10分の1サイズとかならちょうど良さそう!


 ふふ~ん、海未が帰ってきた時に美味しいおやつ作って待っててやるか!

 という事で僕のこれからの予定はティラミス作りに決定、材料のお買い物、お買い物!



 ☆

《ここから梓視点》


「こ、ここでいいんだよね⋯⋯?」

 海未ちゃんに呼び出された駅前カラオケ106番号室。


「お、お邪魔しまーす⋯⋯」

 おそるおそる、遠慮したように小さな声でドアを開く。


 ⋯⋯大丈夫だとは思うし、海未ちゃん可愛いし、私も海未ちゃんのこと大好きだけど⋯⋯海未ちゃんも慶太LOVE勢の一人だから。

 海未ちゃんは慶太の妹だけど、でも慶太のことをお兄ちゃん以上に思っているから一人の異性として啓太のことが大好きだから。


 だから、その⋯⋯昨日のデートのこと怒ってるんじゃないかって心配になったんだよね。

 毎日一緒にいるから大丈夫だとは思うけど⋯⋯でもちょっと心配。


 だから少しゆっくり慎重に扉を開く。

「あ、梓さんお久しぶりです。元気にされてましたか?」

 開かれた赤い部屋の中から、海未ちゃんのくすぐったい声が聞こえる。


「う、うん、元気だったよ!」


「そうですよね、元気ですよね⋯⋯だって昨日兄さんと二人でデートしてましたもんね? 二人で楽しく、デートしてましたもんね?」

 そう言った海未ちゃんの大きなまんまるの黒い目がギラリと怪しく光る。


 ⋯⋯こ、この目は怒ってる目だ、嫉妬してる目だ!

 私がデートして慶太を独り占めした事を怒って⋯⋯!


「ち、違うの海未「梓さん、昨日の話いっぱい聞かせてください。昨日は兄さんとどんなイチャイチャしたんですか、どこまでラブラブしちゃったんですか? 梓さん、海未に聞かせてくださいよ!」


「⋯⋯はへ?」

 だから昨日は慶太と何もなかった、キスしたけどあれは事故だから⋯⋯みたいな事を言おうと思ったんだけど、帰ってきたのは怖い殺意の声じゃなくて、可愛い可愛いワクワク声。


 そして見える顔も般若じゃなくてキョトンと可愛いいつもの海未ちゃんで⋯⋯あ、あれぇ? 可愛いけどあれぇ?


「もう、どうしたんですか梓さん、そんなヘンテコな顔して? もしかして本当は一緒にデートしてないとか」



「いやいやデートはしたよ、慶太と楽しく二人でデート! 写真送ったじゃん、デートの写真⋯⋯そうじゃなくて、海未ちゃん怒ってないの?」


「怒る? 何でですか?」


「いや、だって私慶太とデートしたからさ、だから「私のお兄ちゃんなのに!」みたいな感じで怒ってるんじゃないかと⋯⋯」


「⋯⋯ぷぷっ! な、なんですかそれ、何ですか梓さん! アハハ、梓さんは面白いです!」

 私の声に海未ちゃんはぷぷっと吹き出してケラケラ楽しそうに笑う⋯⋯だってだって! 海未ちゃんも慶太のこと大好きだし、それでそれで⋯⋯!


「確かに海未は兄さんのこと大好きですし、梓さんとデートしたことに多少は嫉妬しましたけど⋯⋯でも怒ってはませんよ。ていうか梓さんと兄さんがイチャイチャする分には構いません」


「⋯⋯本当?」


「本当です、イチャイチャしてください。だって海未は⋯⋯」

 そう言いながら私の方に近づいてきた海未ちゃんが私の胸に倒れ込むように抱きついてきて⋯⋯!?


「ううう海未ちゃん!? どうしたの、急に!?」


「⋯⋯梓さんのお胸はむにむにで柔らかいです。おっぱいがむにゅむにゅぱふぱふで天国みたいな感触です⋯⋯兄さんのゴツゴツした硬い体も好きですが梓さんみたいな柔らかいのも大好きです。お胸のサイズ、どれくらいなんですか?」


「へ、変な感想言わないで! ど、どうしたの急に!?」

 ちなみにおっぱいはDよりのCだけど!

 適度に大きくて美乳ないい感じのおっぱいだけど!


「⋯⋯梓さんはこのおっぱいで兄さんのこと誘惑するのを許可します。ふかふかぱふぱふで素晴らしいので許可します。これはロータスランド⋯⋯!」


「う、海未ちゃん話聞いてる⋯⋯?」

 私の話を聞いていないのか、海未ちゃんは私のおっぱいをぱふぱふぎゅっぎゅっ⋯⋯ダメだよ、海未ちゃんほんとに何やってるの、変な気分になりそうになっちゃう、ダメダメだよ!


「⋯⋯ぬへへ、梓さ「海未ちゃん! ストップだよ、もう好きにはさせないよ!」

 私のおっぱいにぐりぐりと頭を押しつけて幸せそうな声を出す海未ちゃんの顔をアッチョンブリケ。

 いくら海未ちゃんが慶太の妹で私の可愛い友達だからってここまでの狼藉は許さんぞ!



「ふぁひふぃふぃふぇふんへふかふぁふふおふおん!」

 ほっぺをふにゃっとされた海未ちゃんがフガフガと文句ありげにぶーぶー言う。


 でもでも、文句あるのは私の方だよ!


「海未ちゃん、なんで私の胸にぐりぐりするの! 何がしたいの海未ちゃんは!」


「⋯⋯ふぉふぇふぁ」


「ちゃんと答えなさい!」


「ふぁあふぁふふぁふぃふぇふふぁふぁい⋯⋯」


「あ、ごめん離すね」

 海未ちゃんの柔らかくて絡みつくようなほっぺを離す。

 ⋯⋯やっぱり海未ちゃんはいいなぁ、ほっぺぷにぷにだし。

 でも狼藉だめ、絶対!


「⋯⋯それは梓さんの事も大好きだからです⋯⋯梓さんのことも好きで好きでたまんないからでふ」

 ぷにゃっと可愛い声を上げた海未ちゃんが唇を尖らせて答える。


 ⋯⋯私?


「はい⋯⋯私は兄さんのことが大好きですし、兄さんが他の人で仲良くなるの嫌ですけど⋯⋯でも梓さんの事も同じくらい好きですから。梓さんのこともだいすきですから。だから、梓さんは特別です⋯⋯兄さんに手を出してもいい、って言ってるんです」

 ぷふっ、とほっぺを膨らませながら恥ずかしそうに海未ちゃんがそういう。


 ⋯⋯そっか、私のことが好きなのか、海未ちゃんは!


「⋯⋯海未ちゃん!」


「⋯⋯何ですか?」


「⋯⋯んーっっ!!!」

 少し不機嫌そうに顔を逸らす海未ちゃんの薄くて頼りない体をぎゅっと抱きしめる。


「⋯⋯な、何するんですか、梓さん!?」


「んんんっ、海未ちゃんは可愛いなぁ! 私のこと大好きなんて⋯⋯私も海未ちゃんのこと大好きだよ!」

 ふがふがとジタバタする海未ちゃんのことをさらに強くぎゅっと抱きしめる。


 ほんと可愛いなぁ、最初疑ってごめんね、海未ちゃん! もー、ほんとほんとだなぁ、健気だなぁ海未ちゃんは!

 もっとぎゅーってしてあげるよ、私のおっぱいでよければぱふぱふしてあげる!


「むへっ、あずしゃしゃん⋯⋯でもロータスランド大好きあずしゃしゃん好き、ぎゅっと最高⋯⋯!」

 胸の中で海未ちゃんが幸せそうに蕩けた声を上げた。



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