第30話 配信に出てください!!!
「ふふふふふ~ん」
もう、海未ったらなんで一緒に遊んでる友達が梓だ、って事言ってくれなかったんだろう?
他の友達ならいざ知らず、梓が友達って知っていればもっと準備することとか色々あったのに……まあいいや、たまたま作ってたティラミス喜んでもらえたし。
でも二人で部屋にこもるなんて珍しいな、大体は部屋で僕も含めた3人でゲームするって言うのが鉄板だったのに。
二人とも高校生になったし、そういう所色々変わっちゃたのかな……女の子の事はよくわかんないや、僕は黙って皿洗いでもしておこう。
そうだ、今日こそ梓、うちでご飯食べてってくれるかな?
僕の作った晩御飯、食べてってくれるかな……あ、何食べたいかとか聞いておかないと。
☆
《ここから梓視点》
「梓さん、私と一緒に配信、出てください。ミナレットのお姉ちゃんとして配信に出演してほしいのです」
パチッと明るい電気のついた女の子っぽくないゴテゴテした部屋で、モニターを指さして海未ちゃんが私の方を見つめる。
なるほど、お願いがあるってそう言う事ね、配信に出る……え、配信に出る?
「ちょっと海未ちゃん、配信って配信? その配信って……配信って事?」
「……何が言いたいんですか、梓さん? 配信って言うにはもちろんミナレットの配信です。ミナレットの生放送に梓さんも出るんです……あ、もちろん梓さんの分のボイスチェンジャーも用意してます。名前も決めてますし、ガワも注文済みです……届くのは相当先でしょうけど」
「なんかすごい決められてる!? ……え、えっと、つ、つまりミナレットちゃんの配信にこのわたくしめも参加させていただくというわけで」
「はい、何度も言ってるようにそう言う事です。それにそんな緊張しないでください、梓さんはミナレットのお姉ちゃん設定で行くんですから。メインキャラなんですから」
「め、メイン!? そ、それはまずいよ、勝手に決めすぎだよ海未ちゃん! それに無理だよ、配信なんて!」
なんか外堀が凄い埋められてるんだけど!?
いつの間にか私があのいつも見ているミナレットちゃんの配信に出るって事に……いやいやいや私はただの一介の視聴者の穴党であるから、そんなミナレットちゃんの配信に出るなんて恐れ多いことできないよ、ダメだよ!
そんなことしたら他の穴党のみんなにペコペコにされちゃうよ!
「大丈夫です、自信持ってください。それに皆さん優しいですしペコペコにはされませんよ……そうだ、海未とおしゃべりする、て言い方だと大丈夫ですか? それなら緊張しないで出来ますか?」
「あ、それなら大丈夫、普通に出来ちゃう」
「そうですよね、大丈夫ですよね。という事で配信出てくれますよね? ちょっと準備するので待っててくださいね」
「うん、わかった……ってわかったじゃないよ! なんで勝手に色々決めちゃってるの! ちょっと自分勝手だよ、今の海未ちゃんは! 私出ないからね、無理だからね、配信なんて!」
なんか海未ちゃんに押し切られそうになったけど、そこは冷静になってちゃんとツッコミ。
無理だよ、ダメだよ、配信出るなんて!
不特定多数の前で、バーチャルな世界に身を置いて、それにコメントとかも読まないとだし、リクエストにも答えなきゃだし、絶対に海未ちゃんとおしゃべりするのとは違うよ!
自分以外のキャラを演じて色々するなんて今の私にはまだ出来ないよ、自分にも全然素直になれてないのに! 自分の人生ですら上手に出来ないのに!
「そんな事ないです……それに私はどうしても梓さんに配信に出てほしいんです。梓さんに配信、出てほしいんです」
「だからダメだって言ってるでしょ、それに無理だって!」
「無理じゃないです、絶対できます。私だってできたんですから、梓さんに出来ないはずないです……それに梓さんには常々才能があると思ってたんです」
「才能? なんの?」
「もちろんVtuberとしての才能です……うまくは言えませんがそう言うのを感じていたんです、ずっと。配信するようになってからは特にそう思うようになって……だから梓さんに配信してほしくて、外堀もちょっと埋めちゃいました、ごめんなさい」
ぼそぼそとそう言って少し困ったようにシュンと顔を俯かせる。
……私に才能? どういう事、そんなの感じたことないし、誰にも言われたことないよ!
「大丈夫です、ミナレットとしてそれなりに人気が出た私が証明します。梓さんには絶対に才能があるんです、Vtuberや配信者としての才能があると思うんです……どういうものかって言われると言葉に困りますけど、でも直感的に感じるんです。梓さんにはそう言う才能があるって」
「……直感じゃご飯は食べられないよ。それにそう言ってもし身バレなんてしたら一生モノの消えないデジタルな傷になるかもだし……私はやっぱり嫌だな、配信なんて」
「信じてください、私の直感はよく当たるって評判なんです! それに私が始めた理由もヤマトさんの直感でしたから」
「……そう言えば海未ちゃんは何で配信始めたの? それ聞かせてよ」
急に明かされたから聞いてなかったけど、そう言えばミナレットちゃんはコラボはしないとはいえ一応企業のVtuber、会社に所属してるんだ。
だから応募とかしたんだろうけど、その応募した理由とか聞きたいな、って……それ次第ならちょっとだけ考えるし。
「いえ、応募じゃないんです……私スカウトされたんです、ヤマトさんに」
「す、スカウト? 海未ちゃんが? どうして?」
海未ちゃんの普段の話し方って今のように結構抑揚が少ない感じでキャラ作ってないとスカウトなんてされない感じで。
なんで、どうしてスカウトなんて?
「たまたまアフレコをしていたんです。兄さんに彼女が出来たって、しかもその彼女がやばい奴だって知って、しかも兄さんは話聞いてくれなくて……だからちょっとやけになって街中にあったシャニマスのアフレコセットでアフレコしてたんです」
「え、そんなセットあるんだ、今は進んでるね……シャニマスってことは放クラのアフレコ? 凛世ちゃんのものまねしてたとか?」
「いえ、ノクチルです。ノクチルのアフレコで遊んでいたところを、『君面白いね! 才能グッドだよ!』ってスカウトされて、そのまま色々説明されて、Vtuberって面白そう! ってなりまして……だから今のミナレットちゃんがいるんです。それに配信するのが楽しくてずっとずっとしてしまうんです。不思議な魅力があるんですよ、ものすごく楽しいんです」
「な、なるほど……なんかすごいね」
ノクチルなのはちょっと意外でよくわかんないけど、でもそっか……楽しいのか、Vtuber。それに才能あるって言われた人に才能あるか……えへへ。
……こほん。確かに配信の中のミナレットちゃん=海未ちゃんは凄いイキイキしてるし、めっちゃ楽しそうだし、キャラづくりにしてもそれ以上に楽しんでる感じだし。
海未ちゃんがあれだけはっちゃけて楽しそうに出来るってことは本当に楽しいんだろうな、配信って。
なんかちょっと羨ましくなってきて、興味出てきた……かも? いやダメダメ、危険が多いよ!
「はい、すごく楽しいですよ。だから梓さん、物は試しです……一度やってみるのも良いと思いますよ? きっと魅力に気づいてもらえると思います」
「え、いや、でも……危険も多いし、まだお母さんにも許可取ってないし、それにそれに……」
「ふふっ、そう言うと思いまして電話、つなげておきましたよ」
ニヤリと笑った海未ちゃんがスマホの画面を見せてくる。
通話中の文字とともにうちのお母さんの名前が……い、いつの間に!?
【話聞かせてもらったわよ、梓!】
「お、お母さんいつから電話聞いてたの!?」
【最初からよ、海未ちゃんに話したいことがあります、って言われたから】
最初から聞いてたの!? すごいな、全然気づかなかったよ!
突然のお母さんの乱入にあたふたしていると、画面の向こうから「こほん」と咳払いが聞こえる。
この音は聞きなれた音……大事な話をする時の音。
【梓、Vtuberの配信に誘われてるんだって】
「うん……ちょっと興味出たけど、でも……」
【でもじゃない! 挑戦してみなさい! 何事も挑戦する心が必要!】
「……色々危険とかあるんだよ? 身バレしたり、色々変なこと言われるかもだし」
【始める前からそんな事気にしてどうするの! それに海未ちゃんは結構大きな会社の配信者なんでしょ? だからそう言うリスクは個人でやるより小さい、挑戦するにはもってこいだよ!】
確かにそうだけど、なんか詳しいなお母さん……でもやっぱりちょっと決心つかないな、まだ怖い気持ちが多いな。
【梓、あんたはそう言うとこだよ。今の自分に甘えて今を変えたくなくて……だから慶太君に告白出来なくて、彼女作られてご飯が喉に通らないくらい落ち込むのよ。もっと積極的に色々しないと】
「あー、それは言わんで! 海未ちゃんもいるし!」
【もうこの話してますよ。だから梓、今の自分に満足せずに、自分の気持ちに正直になってもっと高みを目指すんだ! 新しい経験を積まないと成長できないこともあるから……だからやってみなよ、そのVtuberとやらを。お母さんは応援してますよ!!! 頑張れ、梓!】
その言葉とともに電話が切れる。
も、もうお母さん言いたいことだけ言いやがって……も、もう!
「許可、出ましたね……梓さん、どうしますか?」
「……ん、もうやるよ! 楽しそうって思ったし、それにやってみたいと思ったから! 自分の気持ち大切にするから! だからやる、私もVtuberやる!」
少し挑発的に聞いてくる海未ちゃんに私は大声で意思表示をする。
そうだよ、私は臆病だよ! でも、だからこそ……今度は挑戦するんだ!
★★★
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