第31話 名前どうしますか? 可愛いのがいい!

「……ん、もうやるよ! 楽しそうって思ったし、それにやってみたいと思ったから! 自分の気持ち大切にするから! だからやる、私もVtuberやる!」

 やってみたいとちょっとでも思ったから私はやるの! 

 もう後悔なんてしたくないから、後で気づいても遅いから!

 だから私は配信するんだ、挑戦してみるんだ!


「ふふっ、ありがとうございます。その言葉が聞きたかったんです、嬉しいですよ、梓さん」

 覚悟を決めた私の声に海未ちゃんはニヤリと楽しそうに笑う。

 なんか海未ちゃんの手のひらで踊らされた感もあるけど、でも私自身がやりたいと思ったから別にいいんだ、それに慶太ともっと仲良くなれるかもしれないし!


「そうですね、兄さんともなんかあるかもしれませんね。それでそれで梓さん。早速生放送、始めようと思うんですけど……」


「え、待ってもう始めるの? 早くない、こう言うのは、こう何というか……事務所に相談したりさ、そう言う時間もいるんじゃないの?」


「それはもう終わってます、昨日のうちに許可も全部取っておきました。大丈夫です、梓さんはすでに私の放送にミナレットのお姉ちゃん、マンドルラちゃんとして出る準備が出来てるんです。ヤマトさんも面白そうって言ってくれました!」

 自信満々にそう言って私に手を差し伸べる。

 そっか、面白そうか……ってマンドルラ? 何それ、何が由来?


「もちろん、ミナレットです。ミナレットの実のお姉ちゃんです……父親が違うので半姉でちょうどいいでしょう」


「なるほど、リアルミナレットのお姉ちゃんね……知名度低すぎないかな、それ? しかも名前あんまり可愛くないし……もっと違う名前にしようよ、他の穴馬の名前とかさ!」

 初めて聞いたもん、マンドルラなんて名前。

 薬草みたいであまり可愛くないし、もっと可愛い名前を所望する!


「確かにあんまり可愛くないですね……ん~、牝馬の穴馬ですか、どんな子がいましたかな……?」


「いや、別に穴馬にこだわらなくてもいいんじゃないかな? 普通に可愛い名前つけたらいいんじゃないかな?」


「ダメです、ミナレットのファンの方の名前は穴党なんですよ! それで普通に可愛い名前を付けたらそれこそファンの方に対する裏切り行為になります!」


「そんなものかなぁ?」


「そんなものです、ヤマトさんもそう言ってました! ……さて何にしましょうか、困った困った……」

 うんうんと首をひねりながら色々考えるためにうろうろうろ部屋中を歩き回る海未ちゃん。

 大丈夫かな、こんなに歩いて慶太に気づかれないかな……ていうか今更だけどヤマトさんって誰だろう?


「ヤマトさんは私をスカウトしてくれた人です、恩人みたいな人です。サツマイモみたいで面白い人ですよ、また会うと思います」


「さ、さつまいも……?」

 どういう表現だ、それ?

 なに、髪の毛とか体が紫色とか? なんかそんな感じの人なの?


「いえ、そう言うわけではないんですけど、でもサツマイモみたいな人です……そうだ、ラブカンプーはどうですか? 私の中では結構穴馬のイメージが強いんですが」


「あの、さつまいもがすごく気になるんだけど……まあいや。確かにラブカンプ―はそんなイメージあるね。CBC賞はびっくりしちゃった」

 13番人気で買っちゃったからね、あれはびっくりした。

 他にも人気薄での2着もあるし確かに立派な穴馬ちゃん。


「そうですよね。という事で、ちょっと取ってカンプ―ちゃんにしましょうか?」


「う~ん、ちょっと可愛くないかなぁ? もっとさ、良い感じのある?」


「なるほど……ラブですか?」


「それもそれじゃないかな? しかもそれ、冠名だし」


「もう、わがままですねぇ梓さんは……もう略してランプちゃんでどうですか?」


「あ、良いじゃんそれ可愛いかも! ランプちゃんいいじゃん、それにしよう!」

 なんか小物とか家具の名前って可愛い感あるし、それにいい感じに元の名前消えてるし! これが正解だ、絶対にこの名前が一番いい!


「もっと可愛いのある気もしますけど……それじゃあランプちゃんで行きましょう、名前変更のメール送りますのでしばしお待ちを」

 ポチポチとメールを打ち、その後しばらくおしゃべりタイム。


 これからどんなことするかとか、今後の活動の事とか……軽くだけどそう言うお話を海未ちゃんから聞いて。

 取りあえず私は海未ちゃんのお姉ちゃんで、そしていい感じのチャンネルが出来るまでは二人で配信とかお料理動画とかあげることが決定した。


「それでですね、ずんだもんの茶番も考えていただければという感じで、つむぎの……あ、メール返ってきました。OKだそうです、ランプちゃんで行く許可が下りました、可愛くていい感じだそうです」


「茶番づくりは結構好きだよ、私も自信はないけど頑張るよ! ほら、やっぱり可愛いじゃんランプちゃんで行こう!」


「はい、そうですね。それじゃあ配信中は私の事はミナちゃん、とでも呼んでください。私は海未ちゃんの事、お姉ちゃんって呼びますから」


「え、本当にそう呼んでくれるの? えへへ、なんだか照れるね、その呼び方。それにそれって……にへへ」

 なんだろう、一人っ子だから知らないけどお姉ちゃんって呼ばれるとすっごくドキドキしちゃう! 

 それに海未ちゃんからお姉ちゃんって呼ばれるってことは……えへへ、そう言う事だもんね、ねー!


「……何にやにやしてるんですか、梓さん? もう配信始めますから準備……おっと、そうだ梓さん。兄さんはどうしますか?」


「えへへ……え、慶太? 慶太は私のお兄ちゃんじゃないよ?」


「……何言ってるんですか、梓さん? ちょっとおかしくなっちゃいました?」


「し、失礼な! なっとらんわ、そんな事!」

 大変、ちょっと妄想の中で暴れちゃってた。

 ちょっと意識をこっちに戻して……ぺんぺんぺん、よし!


「……まあ、良いです話し続けます。兄さんがいたまま配信するか、お買い物にでも行ってもらうか、って話です。どっちがいいですか? 私は兄さんがいたままでも全然OKですけど」


「あ、そう言う事ね……慶太が家にいるのは困るよ、バレたら大変だし! それに海未ちゃんも大変でしょ、バレちゃったら」


「はい、大変です。でもその中のスリルが癖になってキュン……いえ、何でもないです。それじゃあ兄さんを追い払ってきますね、ちょっと待っててください」

 何か爆弾発言を落としかけた海未ちゃんがこほんと咳ばらいをして部屋のドアを開けて1階に降りていく。


 しばらく待っていると「梓、今日の晩御飯は何食べたい?」という慶太のよく響く大きな声……そっか、慶太昨日言ってたもんね、夜ご飯作ってくれるって。

 勝手にキスしちゃってその約束反故にしちゃったけど……ふふっ、本当に慶太は優しいな、そしてすごく嬉しいな!


「何でもいいよ! 慶太が得意な料理がいい……とびっきり美味しい料理期待してるから! だから慶太の得意料理で頼みます!」

 期待を込めて大きな声で呼びかけると「期待しすぎてていいよ! とびっきりの作るから!」という声……ふふっ、それじゃあいっぱい期待して待っときましょうか!

 慶太のご飯、食べるの久しぶりだからすっごく楽しみだ!


 ☆


「兄さんを追っ払ってきました、これで安心して配信できます」

 慶太の夜ご飯を想像してにまにましていると、少し不満顔の海未ちゃんがとことこ帰ってくる……そうだ、その前に配信あったんだった、そっちも頑張らなきゃだね!


「……本当に分かってるんですか、梓さん? さっきも兄さんと顔見てないのにいちゃいちゃして……兄さんの顔も……」


「いちゃいちゃしてない! ほら、慶太帰ってくる前に配信しなきゃだよ、頑張って配信するよ! えいえいむんだよ!」


「……そうですね、それじゃあこれ、梓さんのボイスチェンジャーです」


「あ、ありがと海未ちゃん……はーい、らんぷで~す……おお!」

 手渡されたピンク色のボイスチェンジャーを使ってみると確かに全然違う声、これはすごいよ科学の発展ってすげぇ! もっと色々話しちゃう!


「楽しいですよね、それ。でも遊びすぎちゃダメですよ……ん~。梓さんはモデルがないのでセンサーはいりませんね……それじゃあ梓さん、気を引き締めてください。本当に配信、始まりますよ!」

 私が遊んでいる間にゴソゴソ機械いじりをしていた海未ちゃんがそう楽しそうな声で言う。


「OK.配信楽しむよ! 私のデビュー戦だからね! 気合入れていくよ!」

 だから私もパンパンとほっぺを叩いてもう一度自分に気合を入れ直す。

 よっしゃ、これが私のデビュー戦、どんなもんでもかかってこいや!



 ★★★

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