第29話 梓in高梨House
「今日はティラミス作っていくで。ティラミスは私を元気づけてって意味やから、元気出したいときに食べるんがええな!(裏声)」
お料理作業中……
「できたで、完成や!(裏声)」
「ちょっと味見を……ん、うまい!(裏声)甘さもいい感じで……って一人で何やってるんだろう、アハハ」
ちょうど動画を見ながら作っていたこともあって少し関西弁をまねたり裏声で話したりしてたけど、人って急に冷静になる時間が来るんだね、めっちゃ恥ずかしくなってきた。
それに関西弁結構難しいし……そう考えると川崎ちゃんが関西弁抜けないのもわかるかも。
「でも、このティラミス本当に美味しいな。あの人だからちょっと疑ってたけど、これなら海未も喜んでくれるかな……あ、そうだ写真をあげよう、SNSに」
そう言えば僕には最近稼働してないけどスイーツとかの写真をアップするだけのアカウントがあったんだ。
初期のころは千尋との(無理やりとった)写真とかも載せてたけど、あれは「消せ!」って怒られたので今は本当にスイーツの写真だけ。
割と反応良かったような覚えがある……まあ10割友達からなんだけど。
という事でアップアップ、写真アーップ……って海未からLIME来てるじゃん。
なになに、「友達連れてきます、家に来ます」か……なるほど。その子、ティラミス食べれるかなぁ? ジュースは……色々あるからいいとして、お菓子もこれでいいや、手作りだけど我慢してくれ、すごく美味しいから!
そして写真もアップだ、バズれおらぁ!
写真をあげて1分2分、さっそく通知音が鳴り、コメントが書き込まれましたの文字。
確認してみると『ティラミスだ! 美味しそう! ボクも食べたい!!! 慶太ボクの家持ってきて!』……ふふっ、彩葉は相変わらずだな。
明日渡してあげるから、彩葉の分も取り分けておこう。
☆
ぴーんぽーんぴんぽーん
しばらく優雅にコーヒーを啜っていると寂れた電子音が部屋の中に響く。
インターホンを覗いてみると海未の姿……あれ、例の友達ってのはどこだろうか?
「海未、お帰り」
「はい、ただいまです……兄さんは海未がいなくて寂しくなかったですか?」
「大丈夫だよ、うさぎじゃあるまいし……ところで友達はどこにいるの?」
「む、そうですか……おーい、もういいですよ」
少し不満そうに顔を膨らませた海未が庭に向かって呼びかけると、ぴょこっと軽く人影が飛び出してくる。
ふわりと揺れる髪に少しオシャレした黄色い服、そしてすらっとした体型……
「あれ、梓?」
「うん、梓。昨日ぶりだね、慶太……海未ちゃん隠れる必要あった、これ?」
庭の方からにへへとはにかみながら飛び出してきた梓が海未に向かって疑問符を投げる。
なんだ、友達って梓か……確かに友達だけどもっと違う言い方あるじゃん、梓だったら手料理でも躊躇なくあげられるし。
ところで梓と海未が何か小声で言い合ってるけど……まあいいや。梓ならちょうどいい、さっき作ったティラミス食べてもらおう!
「梓、ようこそ高梨Houseへ。ちょうどティラミスが出来てるんだ、食べるでしょ? 海未も言い合ってないで中入んなよ、暑いでしょ?」
「だからそれは慶太……え、ティラミス? 慶太が作ったの?」
何か言い合ってた格好から、キョトンと目を丸くしたように僕の方を見てくる。
あれ、珍しい。梓が見てないなんて。
「うん、そうだよ。さっきのっけたんだけど……見てなかった? 結構美味しそうに作れたし、味ももちろん美味しかったよ!」
「うん、見てないけど、慶太のスイーツなら楽しみ! 食べるよ食べるよ、もちろんいただく! 海未ちゃんも食べるよね!」
「……はい、食べます。兄さんのスイーツ美味しいですか。楽しみですね梓さん」
「うん! ららら~ん、楽しみの舞!」
そう言って二人仲良く楽しそうに手を取り合ってくるくる回って……相変わらず仲良しで僕は嬉しいです! この二人にはずっと仲良くしてほしいからね!
「ふふっ、仲良さそうで良かった。それじゃあちょっと準備するから二人は手洗って待ってて。飲み物はカルピスでいいよね?」
「ららら~ん、もちろん! メロンのがあったらメロンが良いな!」
「兄さん、海未は濃い奴が良いです。濃い目のカルピスが良いです」
「OK.あるかわかんないけどわかった。それじゃあ二人ともちょっと待っててね」
二人の要望をしっかり聞いてから、準備をするためにキッチンの方へ向かう。
お歳暮でいっぱいカルピス貰ったし、まだまだ在庫はあるはずだよね!
「えへへ、さっそく慶太の手料理食べれるなんて海未ちゃんの言った通りだ……ってあれ? どうしたの海未ちゃん? ちょっと変な顔して」
「変じゃないです、可愛いです……いえ、意外と普通に話せてますね、と思いまして。兄さんにちゅーした、って聞きましたからもうちょっと態度が変わるものかと思ってましたけど」
「ああ、そう言う事ね……もう時間経ったし、昨日みたいに変な気を遣わせるのも嫌だったからね。それに楽しかった思い出は楽しく嬉しく考えようと思って。だかラ歓喜の気持ちだけで話せました!」
「……なるほど。やっぱり梓さんは少しずっこいです」
☆
「ん~、美味しい! サクサクの触感もありつつ、なめらかな舌触り、それにちょうどいい苦みもあって甘すぎずった感じで最高! 流石慶太だよ、それにカルピスも注文通りのメロンだし!」
「そうですね、チーズとコーヒーパウダーがいい味出してます……でも、なんで海未のカルピスまでメロンなんですか? 海未は濃いのが飲みたかったんですが」
「ふふっ、喜んでもらえたなら良かった。濃い目のカルピスはもう無くなってたから許して……自画自賛だけど、本当に美味しい!」
僕の作ったティラミスに幸せそうに舌鼓を打つ二人を見ながら同じようにティラミスを口に運ぶ……ふふっ、完璧な出来だ、最高!
濃い目のカルピスは海未がよく飲んですし、そりゃすぐなくなるよね。
「海未は別に普通の濃いめでもよかったんですが……まあいいです。ティラミスが美味しいので我慢します」
「そうだよ、海未ちゃん。こんなおいしいんだもん、感謝して食べないと……という事でおかわりだよ、慶太!」
「はやいよ梓、食べるの早すぎ。そんなに食べると太っちゃうよ?」
「もうレディーにそんなこと言っちゃダメ! それに今日はカラオケでいっぱい歌ったから平気なの、いっぱいカロリー使ったの! ららら~!」
ニコニコ笑顔で歌を口ずさみながら、グイっと皿を押し出してくる。
今日カラオケ行ってたんだ、二人……ところでカラオケってそんなにカロリー消費するの?
「それはいいの、もう! 慶太、早く、早く! ついでにカルピスおかわりも!」
「はいはい、わかったよ……海未もおかわりいる?」
「いえ、私は良いです。梓さんみたいに大食いではないので」
「もう海未ちゃん、私別に大食いじゃないよ!」
「それじゃあティラミスおかわりいらない?」
「それはいる! 慶太のいじわる、おかわり頂戴!」
少し怒ったように、でも嬉しそうにほっぺをぷくーっと膨らませる梓にニヤッと微笑んで、おかわりを持ってくることにした。
本当に梓よく食べるよね……それだけ美味しいってのなら嬉しいけど。
☆
「ふ~、食べた食べた。満足満足大満足!!!」
少し大きくなったお腹をポンポンと叩いて、梓が満足そうにぷふっと息をつく
「もうはしたないですわよ、梓さん……でもほんとよく食べるよね、3切れも食べるなんて
「そうですよ、梓さん……そう言えばカラオケでパフェ食べてましたよね?」
「あー、それは言わない約束なのに!」
いや、まだ食べたたんかい、めっちゃ食べてるじゃん梓!
どんだけ大食いなのさ、本当に。
「いや、違う、その……甘い物は別腹だから! 別に大食いとかじゃないから!」
「いつも言ってるよね、それ……でも本当に気がしてきた。そう考えないと梓のスタイルの良さとか説明できないし。そんなにすらっと細いの羨ましい」
「え、急にどうしたの慶太、そんなに褒めて……ど、どうしたんですか、何か裏あります? 私に何かあります?」
「別に。ちょっと思ったこと言っただけ」
「えへへ、そっか……それなら「はいはい、イチャイチャしないでください、海未がいるの忘れないでください。まったく……いつもこんな感じで触りあいっことかしてるんですか?」
『してないよ!』
ジトッとした目で見てくる海未の言葉に思わず梓と声がシンクロ。
何、触りあいっこって何かえっちな響き! そんなことしてないよ、そんな関係じゃないし!
「ふーん、まあいいです。海未と兄さんはたまにしますから……ところで、休憩も終わったので少し梓さん借りますけど良いですか? 良いですよね?」
そう言って「ちょっと海未ちゃん?」と焦る梓の腕を強引に引いて、そのまま自分の部屋へ連れて行く。
答える暇与えてないじゃん、即行じゃん……まあ、今日は海未の友達の梓だから別に問題ないけど。
それじゃあ僕は残りのティラミスを冷蔵してから洗い物でもしますか!
☆
「ちょっと海未ちゃんどうしたの、急にお部屋なんて……それに触りあいっこって、慶太とそんなことしてるの!?」
「してないです、冗談ですよ……ところで梓さん、少しお願いいですか?」
「なんだ、安心……お願い?」
「はい……梓さん、私と一緒に配信、出てください。ミナレットのお姉ちゃんとして配信に出演してほしいのです」
パチッと電気がつく。
吸音材とかセットとかでゴテゴテの部屋の中で海未ちゃんがビシッとテーブルのモニターを指さしていた。
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