第28話 そう言えばここはカラオケです

「……あ、そうだ。海未ちゃん、この活動って慶太に話してるの?」


「……話してないです。話せるわけないです、話しちゃダメです」

 私の隣で恥ずかしそうにちゅーちゅーとジュースをすする海未ちゃんが私も慶太も大好きなミナレットちゃん(≠ネコパンチ)とわかったちょっとあと。

 気になっていたことを聞くいてみると海未ちゃんは首をぶんぶんと激しく振って私の言葉を否定する。


「……なんで?」

 私に言ってないのはわかるよ。

 だって最近会えてなかったし、それに私に言わなくても配信には絶対に影響でないだろうし。


 でも慶太には言わないとまずいと思うんだ。

 配信している場所も多分家だし、それにお兄ちゃん大好き系Vtuberって言って結構プライベートの話もしているし……確かに恥ずかしいだろうけど海未ちゃんと慶太の仲の良さなら別にお兄ちゃん大好き! って言っても問題ないと思うけど……世間的には問題ありかもだけど慶太ならまあいいやって許しそうだし。

 慶太の性格的に海未ちゃんに頼まれたら断れないだろうから「恥ずかしいけどまあいいや、バーチャルだし、身バレしてないし」くらいで済ませそうだし。


 それにこういう配信をするのって保護者の許可とかもいりそうだし……あ、もしかしてそれが原因? 無許可でやってたから怒られるのが怖い的な……慶太は絶対怒んないだろうけど。


「保護者の許可は太陽の国にいるお父さんお母さんにちゃんととっています、問題ないです。配信は家でやってますけど、兄さんがいない時を決め打ってやってます」


「あ、ちゃんと許可は取ってるんだ。配信自由にできるよ、慶太に話せば……やっぱりお兄ちゃん大好き! って言ってるのが恥ずかしい感じ?」


「いえ、それは別に問題ないのです。私が兄さんの事大好きなのは隠す気はありませんし、実際にラブラブしてますし、兄さんも私の事好きって言ってくれましたし。だから全然その所は問題ないです。それだけならむしろ言ってしまうのありだと思います、ラブラブ配信とかしたいですし。キャラの違う私も受け入れてほしいですし」


「あ、そ、そうなんだ、へー……すごく仲いいんだね、やっぱり」

 ……自信満々過ぎるよ、大好きすぎるよすごすぎるよ海未ちゃん! わかってるつもりだったけど、やっぱりすごいね海未ちゃんは! 

 それに慶太も好きって……流石シスコン大魔神……でもあれだよね、妹として好き、ってことだよね! そうだよね、慶太! というかそうであれ!


 ……あ、本題忘れてた、一回ちゃんと時を戻そう。

 恥ずかしくないんだったらちゃんと活動の事話した方が良いと思うのに……それに慶太もミナレットちゃんの事好きなんだから、海未ちゃん的にももっと仲良くなれるチャンスなんだと思うんだけど。

 慶太が海未ちゃんの事もっと好きになっちゃって私的にはちょっとむー、なところもあるけどでも海未ちゃん的にはいいことしかないんじゃないかな?


「そ、それはそうなんですけど、私ももっと仲良くラブラブしたいんですけど……でも言えない事情があるのです」

 私の言葉にキューっと顔を赤くして、でもでもやっぱり否定を続ける高梨・ミナレット・海未(15)。

 その事情ってのをちょっと聞きたいな、ミナレット・海未ちゃん?


「それはダメです、プライベートでセンシティブな話ですから、だから梓さんにも話せないです……あああ、こ、このセンシティブってのは繊細なって意味で、だからその、Vの界隈でつかわれているようなえっちなとかそう言う意味では決してなくてですね!」


「わかってるよ、大丈夫だよそんな焦らなくて。確かにセンシティブな話題かもしれないけど、でもさ私には話してくれたわけじゃん? 私って言う友達には活動の事話してくれたわけで……だから慶太にも、家族である慶太にも話しておいた方が良いと思んだ」

 どんなやばい事情が隠れてるのかは知らないけど。

 でも大好き、って言ってるのが恥ずかしくなくて、許可も取れてて、それに慶太ともっと仲良くなれるチャンスでもあると思うし。

 それに家族に言わないなんてちょっとおかしいと思うよ、一番大事な相手じゃん。


「それはそうですけど……でも、絶対にダメなんです。私の正体を明かすわけにはいかないんです。恥ずかしくもないし、好きって言ってくれてるのも嬉しいですけど、もっと兄さんといい感じになりたいですけど……でも絶対に海未がミナレットって言う事は言えないんです。言えない大事な理由があるんです」


「……その理由を私にちょっと」


「ダメったらダメです!!! 梓さんでも教えられません!!!」

 私の言葉を遮って耳とお腹にキーンズーンドーンと響く大きな声で海未ちゃんがマイク越しに叫ぶ……カラオケだから武器が合法!

 そしてそんなに教えたくないか……じゃあしょうがないか。無理に聞いてもかわいそうだし。


「はい、そうです、可哀そうです……という事でこの話は終わりです、私はミナレットちゃんですが、兄さんに言いません」


「OK,終りね、わかった……それにしても海未ちゃんがミナレットちゃんなんて信じられないな、あんなに人気のVtuberなんて。なんだか雲の上の存在みたいに感じてまた海未ちゃんを遠くにいるように思えちゃうよ」


「……今日私はミナレットの話をしようと思ってきましたが、でも海未として遊びに来たんです。ミナレットじゃなくて高梨海未として梓さんと遊びに来たんです……だから全然遠くないです、めっちゃ近いです。そんなこと思わないでください、一緒に歌いましょう」

 少しすねたようにそう言って私にマイクを手渡してくる。

 ……そうだよね。配信中はミナレットちゃんかもだけど今は海未ちゃん、私の友達で慶太の妹、そして恋のライバル(?)の海未ちゃんだもんね。


「よし、海未ちゃん一緒に歌おう! 昔みたいにいっぱい歌いうぞ!」

 そう言うと海未ちゃんは満面の笑みでギュッとマイクを握り直した。





 ―梓さんには言えませんでしたけど、私が兄さんに活動を言ってない理由は2つあるんです。


 一つは海未として兄さんに「大好き」って素直に言いたいから。

 兄さんに甘えてるときじゃなくて、もっと大事なところでしかるべきところで「大好き」って海未としていえるようになりたいから。

 バーチャルで作られた「ミナレット」で大好きって言うのはずるいし、簡単だから。

 私の「大好き」が薄っぺらくならないように兄さんにはまだ言えないんです。


 あと一つは……その、えっと……こ、興奮するんです。

 兄さんが知らない自分を作って、兄さんに隠れて何かをして見つからない様にコソコソ配信したりして、たまにスリル求めて兄さんがいる時に小声配信とか……そう言う事をするのに興奮しちゃうんです。

 背徳感というか、見つかりたいけど見つかりたくないというか……そう言う事をすると心臓がドキドキしてお腹がひゅーってなってお股がきゅんきゅんして……少しえっちな気分になってしまって、でもそれが大好きで癖になって。


 ……こんな事梓さんに言えないです、性癖暴露なんてできないです!!!



 ☆


「ひえー、いっぱい歌ったね! もう喉ガラガラだよ、海未ちゃんは大丈夫?」


「私は喉が強いので……ところで梓さん、この後も暇ですか?」


「暇だけど……どうかした?」


「そうですか、それは良かったです……それじゃあ、これから高梨家に来てください。兄さんにもすでに連絡してますので」



 ★★★

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