第27話 海未=ミナレット≠ネコパンチ

「やっほー、梓さん! 今日は楽しいですよ、梓さんとあえて」

 失礼します、そう呟いた海未ちゃんが耳元で囁いた小さいけど元気のある声。

 

 いつもの海未ちゃんとは違うけど、でもその声にはすごく聞き覚えがあって。


「……み、ミナレット、ちゃん?」


「正解です、私がミナレットです……兄さんの大好きなVtuberミナレットちゃんの正体はこの私、高梨海未です」

 私の言葉に海未ちゃんはニヤリと笑ってそう言う。



 ……んんん? どどど、どう言う事? 海未ちゃん=ミナレットちゃん……え、ちょっと待ってわかんないわかんないわかんない!

 急にそんなこと言われてもわかんないんだけど、全然意味が分かんないんだけど!


 私もミナレットちゃん好きだし、ずっと応援してるんだけどでも海未ちゃんとのかかわりなんて考えたことなかったし、そもそも声も違うし、慶太がいるところで配信なんてできないだろうし、でもさっき聞こえてきた声は完全にミナレットちゃんの声で、声真似とかそう言うレベルをはるかに超えててホンモノで……


「梓さん、焦りすぎですよ。いつもこのボイスチェンジャー使って配信してるんです、生声だとバレちゃいますから」

 クスクスと笑った海未ちゃんがひらひらと私の目の前に見せるのはさっきのピンク色のバイ……ピンク色の機械。


 なるほど、あれがボイスチェンジャーで、だから気づかれずに配信……ってならないならない! 

 全然わかんないよ、なんで海未ちゃんがVtuberやってて、それが慶太も私も大好きなミナレットちゃんで……ああ、やっぱりわからん、わからんから取りあえず!


「にゃー!!!」


「……どうしました、梓さん? 急にお胸を小突いてきて……海未のお胸はそんなに弾力ないですよ、寂しいですけど」


「ね、ネコパンチ! 日経賞! にゃー!!!」


「……どういうことですか? あ、もしかしてエダテルさん繋がりで、ってことですか? そう言う事ですか? ネコパンチじゃなくてミナレットですけどそう言う事ですか?」

 首を傾げながらそう聞いてくる海未ちゃんに頭をぶんぶん振って激しく同意。


 正直意味わからないことやったのは分かってるけど、でもでも海未ちゃんも意味わかんないもん、色々説明してよ! 穴党の私に色々説明してよ! ゲリラ配信もずんだもんも楽しみにしてる私に説明してよ、ミナレットちゃんの事!


「え、梓さんそんなに私……ミナレットの動画見てくれてるんですか?」


「うん、見てる。慶太と色々あった時にたまたま見始めたんだけどそこからはまった、好きになった、穴党になった」

 慶太が千尋ちゃんと付き合って、そして一悶着(半分私の自爆だけど)があったころ。

 やる気がなくなって絶望タイムだった私をミナレットちゃんは色々元気づけてくれたというか、何というか……とにかく救われたって言うか! ミナレットちゃんの動画のおかげで色々頑張れたって言うか!


「ちょ、ちょっと待ってください、そんな急に……照れちゃいます。ファンの人の生の声って感じで……えへへ、そんなこと言ってもらえるとすごく嬉しいです」

 熱い思いを語る私に対して、ほっぺを赤くしながら悶絶するように熱っぽく体を震わせる海未ちゃん。

 良かった、喜んでもらえて。推しに喜んでもらってそれでそれで……じゃなくて、じゃなくて! 今はミナレットちゃんの話だ、いやミナレットちゃんの話はしてるんだけど……それが本当に海未ちゃんかどうかって話! 証拠はあるんですか、証拠は!


「えへへへ……え、あ、証拠ですか、証拠ですか。はい、もちろんありますよ。これ見てください、チャンネルのページです。この画面は管理者以外は見れないやつです。あと他の人でもたまに話題に出てる事務所のヤマトさんとのメールです」

 ごそごそとポケットをまさぐってスマホの画面を見せてくる。

 そこに見えるのは私たち一般ユーザーでは見たことない画面、動画を投稿するためのページ。そしてミナレットちゃんの所属している事務所から送られてきている丁寧な文面。


「……信ぴょう性、増してきた。海未ちゃんがミナレットちゃんに見えてきたかも」


「増してきましたよね、見えてきましたよね。他にも明日投稿しようと思っているずんだもんの動画があるんですけど……先行で梓さんにだけ特別公開しても良いですよ?」


「……見せていただこうじゃないですか」

 スマホを操作しながら私の方にグイっとイヤホンを突き出した海未ちゃんに甘えて片耳借りてスマホの画面を覗き見る。


 再生されるのはいつものクオリティのずんだもん動画、いつもの調整の声。

「どうですか、梓さん。この動画面白いですか、ファンの梓さん視点で見てどんな感じでしょうか?」


「面白い、クオリティが変わってない、むしろ上がってるまであるよ!」

 ふんすふんすと鼻息荒く楽しそうに聞いてくる海未ちゃんに感想を伝える。

 このクオリティ、流石です……そしてこれはもう疑う余地がなさそうかな。


「海未ちゃん、もう疑う余地ないや。本当に海未ちゃんがミナレットちゃんなんだね。私たちの大好きなVtuberのミナレットちゃんなんだね」


「……はい、そうです! ようやくわかってくれたんだね、梓さん! ネコパンチじゃないけど、私がミナレットだよ!」

 ニコッと満面の笑みを浮かべた海未ちゃんがボイスチェンジャー越しにミナレットちゃんの声でそう言った。


 ☆


「もう海未ちゃん、ミナレットちゃんとして活動してるならもっと早く相談してよ! なんで今まで言ってくれなかったのさ!」


「だってそれはその……恥ずかしいじゃないですか」


「そうかもだけど、話してくれたら色々できることもあるしさ、だから……あ、そうだ。海未ちゃん、この活動って慶太に話してるの?」


「……話してないです。話せるわけないです、話しちゃダメです」


「……なんで?」


「それはその、だって……」



 ★★★

 感想や☆やフォローなどしていただけると嬉しいです!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る