川崎ちゃん
「慶太、仮面ライダー好きって言ったよな?」
連れてこられたお菓子コーナーで智樹の方から質問が飛んでくる。
今のはわからないけど、昔のは好きだったよ、特にオーズとか。
「そうか、ありがとう!」
「どういたしまして? それで仮面ライダーがどうかしたの?」
「そうだ、忘れてた……それで慶太、これ買って欲しいんだ! これ買ってよ、慶太!」
思いだしたようにポンと手を打ち棚の方からよいしょと商品を取り出す。
そこにあったのは食玩付きのお菓子で……ああ、懐かしい! 小さい頃カッコよくてよく買ってもらってたやつだ、相当進化してるけど!
「そうだろ、そうだろ! カッコいいだろ?」
「うん、カッコいいよね、こう言うの!」
「そうだろ……でも姉ちゃん買ってくれないんだよ。『どうせ無駄になるし、意味ない! 高い!』って。こんなカッコいいのに」
しょんぼりしたような声でそう言う智樹。
まあ確かに女の子の川崎ちゃんではこれのカッコよさとか上手く伝わらないところあるのかなぁ? でもこう言うの集めるのすごい楽しいよね、小学生の時なら特に!
「だよな、だよな! という事で買ってくれるか?」
「ふふっ、ちょっと待ってね……祐樹君も欲しい?」
僕の問いにこくんと頷く祐樹君。
よし二人分か、値段次第だな……って高! 490円もするの、これ? これはちょっと……
「……どうした、慶太? 買ってくれるか?」
「……慶太お兄ちゃん、買って欲しいな」
……でも二人ともすっごく期待した目をしてるし、こんな目されたら買うしかないし、断るのはあれだし……わ、わかった! これくらい買ってあげよう、高校生の財力舐めんな!
「よし、買ってあげるよ、二人とも! どれが欲しいか選びなさい!」
「わーい、ありがとう慶太!」
「僕はね、この「何を買ってあげるんだい、高梨?」
ワクワク楽しそうな二人の声が聞こえてきたとほぼ同時に、僕の背後にヌッと人の気配、そしてかなり怖い声。
「高梨、何買おうとしてたんだ? 智樹、祐樹、何買ってもらおうとしてたんだ?」
キリキリとおそるおそる振り返ると両手にかごを持った怖い笑顔の川崎ちゃんの姿が……いやはや、何でもないですよ! 何も買ってないよ、まだ何も買ってない!
「そ、そうだぞ! まだ何も買ってもらってないぞ、仮面ライダーのおもちゃ付きのお菓子なんて知らないぞ! 買ってもらう予定なんてないぞ!」
「う、うん、僕も知らない。か、仮面ライダーのお菓子なんてしらないよ」
「そうかそうか。じゃあ二人が手に持っているのは何かな?」
『ぴえっ……ごめんなさい』
バレバレの言い訳をする二人に笑顔のまま詰め寄る……一番怖いやり方だよ!
そのまま二人とも謝っちゃったし!
「全く、油断も隙もないんやから。高梨もあんま甘やかさんといて」
「……ごめんなさい」
ため息をつきながら僕の方もにらんでくる川崎ちゃんに僕も思わず委縮して謝ってしまう。
この顔は怖いや、こんな川崎ちゃんも初めて見たよ……ちゃんとお姉ちゃんだな、川崎ちゃん。
「……ううっ、姉ちゃん怖いぞ……」
「……うん」
「怖くて結構。子供の内からこんな贅沢覚えたらダメ。それじゃあ私は買い物戻るからね。今日買っていいのは150円のお菓子までだよ」
そう二人に注意すると、僕のかごを置いてもう一度買い物に行くためにすたこらと別のところへ歩いて行った。
「……さてと」
その背中が見えなくなったタイミングで二人の方をもう一度見る。
二人ともすねたように泣きそうに顔を歪めていて。
「ねえ、智樹に祐樹君。どれが欲しいんだったっけ?」
「……ふぇ? 俺はこの1番のやつ」
「……僕はこの3番……でももう買えない、怒られちゃったから」
「そっかそっか」
二人の欲しいものを聞いてそれを買い物かごの中に放り込む。
それを見た瞬間、二人の顔は何とも言えない顔に変わって。
「け、慶太買っちゃいけないって……!」
「そ、そうだよお姉ちゃんに怒られる……」
「ふふっ、大丈夫大丈夫。これは僕が個人的に買うんだから大丈夫だよ」
「へ?」
「だから二人へのプレゼントじゃなくて僕が自分のために買うんだ、僕も欲しいからね……あ、でも置くとこないや、僕の部屋ものいっぱいあるからな~」
「……!」
チラチラと見ながら話していると、意図に気づいたのか二人の顔がパッと輝く。
子供のころは我慢も大切だけど、でもちょっとくらいの贅沢も必要。
それにこう言う食玩を見ていると何というか……小学生の頃の心というかそう言うのが再燃するというか、今でも興奮するって言うか!
やっぱり仮面ライダーは全世代で最強って言うか!
「ふふっ、お姉ちゃんには内緒だよ」
『……ありがとう、慶太』お兄ちゃん!」
二人が今日一番の弾けた笑顔を浮かべた。
ふふっ、やっぱり子供は笑ってるのが一番だよね……それはそうとこれマジでカッコいいから自分のも買おうかしら。
☆
二人にヒミツのプレゼントをして、材料も色々買った帰り道。
弟二人と手を繋いだ川崎ちゃんが申し訳なさそうな顔で自分の分と川崎ちゃんの分の荷物を持つ僕の方を覗き込む。
「高梨、もう大丈夫やで? 荷物重いやろ? 私は平気やからもうええで?」
「いいよ、いいよ。弟二人見ながらこんな重いの運ぶの大変だし、危ないから。だからこれくらい手伝わせてください」
まあ確かに弟いっぱいなだけあって川崎ちゃんの荷物重いけど。
でも弟君たちが危ない目に合うのは怖いし、事故にあったりしない様にちゃんと見ていてほしいから。
だから荷物くらい僕が持ちますよ、せっかく外であったんだし。
「全く、そういう所やで高梨……」
「ん?」
「何もない! ほら、二人ともふらふらせんで。高梨に迷惑かけない様にはよ帰るで!」
『はーい! ありがとー、慶太!』お兄ちゃん!」
ニコニコの眩しい笑顔でそう答えるけどやっぱりふらふら好奇心旺盛興味津々で歩く二人。
花に立ち止まり、虫に立ち止まり、水たまりに、ワンちゃんに野良猫に……ふふっ、好奇心旺盛なのは良いことだね、川崎ちゃんは相変わらず申し訳なさそうにしてるけどでも小さい子はこれくらい元気でいろいろなものに興味持ってる方が絶対にいいよ。
「姉ちゃん、慶太、公園! 遊んで帰ろ!」
「遊ぼ、あそぼ」
色々ふらふらしている二人が公園を見つけて黙っていられるわけもなく、そのままダッシュで遊具に直行。
「ちょ、二人とも高梨に……」
「まあまあ、いいじゃん川崎ちゃん。元気が一番だからさ。遊んで帰ろうよ」
「……高梨は先に帰ってええで。こんな時間とらせるわけにいかんし、待っとる人もおるんやろ?」
「それが今日は妹がいないから。今日は一人なのです。だから二人に呼ばれたし、僕もちょっと遊ぼうかな? ふふっ、今も呼んでるし。それじゃあ荷物ちょっと……おらー、智樹、祐樹君! 慶太お兄ちゃんと何して遊ぶ!!!」
僕の心配をしてくれる川崎ちゃんに荷物を預けて、そのままずっと「慶太!」「お兄ちゃん!」と呼んでいる二人の下へダッシュで向かう。
「ハァ、全くもう……」
背中から川崎ちゃんのため息が聞こえた気がした……でも今は二人と全力で遊びましょう!
☆
「高梨、お疲れ。ごめんな、変な事付き合わせて」
智樹と祐樹君の二人と遊ぶこと数十分。
現在二人は砂遊び、だから僕は休憩中。
「変な事って……僕は楽しかったからいいよ! 小さい子と遊ぶのって、すごく楽しいし!」
「……まあ、それならええけど」
そう言って小さく笑う川崎ちゃん……そう言えばずっと気になってたんだけど、今日の川崎ちゃんなんかしゃべり方が関西の人みたい。
「え、嘘? そんな出とった?」
「ふふっ、今も出てる。今日ずっと関西というかそんな感じだったよ」
「あっちゃー、ほんまか。学校では出んようにきいつけとんやけどな。油断すると受かり出てしまうんや」
そう言って恥ずかしそうにポリポリと頭をかく。
別に隠すことでもないと思うけど。それに素の感じでいいと思うし。
「そうかもしれんけど……でも、弟ら普通やのになんか変ちゃう?」
「変じゃないよ。関西弁、面白いし……ところでなんでそんな話し方?」
「面白いはあかんで、ここで使ったら……私な、引っ越し族やってん。お父さんとお母さん劇団やってて、ここに家建てるまでいろんなところ引っ越してな。産まれた時と小学生くらいまで関西やったからつい染みついてるというか」
遠い昔を思い出すように空を見ながら語り始める。
そっか、そんなことあったんだ……転校は僕もしたことあるけど結構辛いよね。
「うん、友達と離れ離れなるからな……だからここに定住するようなったんは良かった思う。だってずっと友達と一緒やからな。高梨とも友達で一緒に遊べるし」
そう言って僕の方を見てニッコリ笑顔……なんかそんな言い方されるとちょっと照れるな、なんだか。
「そうだね、友達だね……それなら放課後また一緒に遊ぼ。弟君たちも一緒でもあいつらも困らないだろうし」
「それは私が困るわ……でも放課後遊ぶのは賛成! また福永とか谷川とか……みんなで遊べたらいいな!」
楽しそうに指を鳴らして、もう一度弾けるような笑顔で。
だから僕もその笑顔に負けないくらいの笑顔を川崎ちゃんに返した。
「疲れた、帰ろ……って姉ちゃん顔赤い! 慶太と何しとった?」
「何もしとらん。それならはよ帰ろ……慶太も荷物持ち、よろしくね」
「はいはい……ってあれ? 名前でよんだ?」
「ん~? 気のせいだよ、高梨」
★★★
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