第20話 動物園だよ!
やっぱりちょっと意識してしまいながらクレープをのんびりと食べて、ショッピングモールをぶらぶらした後、徒歩数分。
「おー、ここが今日の目的地! なかなか広いね、大きいね! 動物さんの匂いがするね、鳴き声が聞こえるね!」
「うん、テンションが上がってきた!」
楽しい寄り道が長くなってしまったけど、ようやく今日の本来の目的地である動物園の前についた。
つんざくような高い鳴き声と、独特の匂い……うーん、動物園だ、久しぶりだ!
「あれ、慶太動物園久しぶりなの? 海未ちゃんとかといったりしないんだ」
「うん、最近は行ってなかったかな、多分1年くらいは。だからすっごく楽しみ!」
最後に行ったのいつだろう、彩葉と良哉と行って以来だから本当に1年ぶりかな?
この動物園もリニューアル入ったみたいだし、楽しみがMAX!
「ふふっ、そっかそっか。慶太が楽しいのが今日1番だからね、私も嬉しいよ……と、その前に。入園する前に1つだけ準備があります!」
「準備? 何かあるの? 虫よけスプレーとか?」
「そんなんじゃないよ、秋だし虫はいないだろうし。そんなんじゃなくて、もっと大事な準備……そい!」
ゆらゆらと揺れながらそう言った梓がトンと軽やかに僕の隣にステップ。
そしてそのまま僕の腕を自分の腕にギュッと絡めて……!?
「あ、梓さん!? 何事デスカ、急にどうしたの!?」
え、何々、何ですか?
急に腕組んで、少し赤いほっぺでさも当然のように僕の方を見上げて……え、え、本当に何ですか?
「も、もう、けけけ慶太焦りすぎだよ、もう! そ、その、あれ! あれ見てよ、ほら! きょ、今日はかかかカップルデーだからさ! カップルで入ると、半額になるから! その、だからね! わ、わかるでしょ!」
舌をくるくる回す梓が指さす先の看板には確かに「本日カップルデー!」の文字……あ、な、なるほどそう言う事ですか!
安い方が嬉しいし、なるほどなるほど!
「そう、そう言う事だよ、慶太! だから、その……ね! このまま、ね! 怪しまれたら、普通料金になるかもだから、ね!」
「う、うん、そうだね。このまま、うん、行こう!」
そうだそうだ、もし怪しまれたら大変だからね!
……でも、密着してなんか普段意識してなかったけどめっちゃいい匂いするし、腕にはむにゅっと柔らかい感覚で、梓って意外と胸ある……いやいや、ダメダメダメ!
そんなこと考えちゃダメ、平常心、平常心!
「け、慶太、顔真っ赤だよ、何考えてんの! こ、こんなことで顔真っ赤になるなんて、ホントに慶太は初心だな! も、もう慶太はホントにアレですな!」
「べ、別に恥ずかしいとか思ってないし! そ、それに梓の方こそ顔真っ赤だけど! 散々僕からかってるけど、梓こそ変なこと考えてんじゃないの?」
「は、ハァ? あ、赤くないし、変なこと言うなし!」
「絶対赤いって……はい、チーズ」
「マルゲリータ……ってな、何? 何写真撮ってるの!?」
「べ、別に……ほ、ほら、やっぱり赤い!」
さっき撮った写真をスマホ越しに梓に見せる。
やっぱり顔を赤くして恥ずかしそうな笑みを浮かべる梓が写っていて……僕も顔が結構熱いから多分真っ赤なんだろうけど、でも梓も真っ赤だ!
「な、か、勝手に写真撮らないでよ! 消して、消してよそんな写真! 恥ずかしいじゃん、もう!」
「嫌です、消しません! ノリノリでポーズしてたし、さっき変な写真撮られたお返しもだし!」
あわあわ焦ったようにスマホを取り上げようとしてくる梓の追撃をぴょんぴょんと華麗に躱す。
さっき僕も写真撮られたしお返しだ、仕返しだ!
「も、もう、けいたぁ……あ、そそうだ! やっぱり消さなくていいや、その写真! だ、だってべ、別に恥ずかしい写真じゃないんだから! あ、赤くなってるの、別に恥ずかしいからとか、緊張とかじゃないから! その、えっと……あ、熱いからだよ! 熱いから赤くなってるだけだから、恥ずかしい写真じゃないから! だから、その写真拡散はダメだけど、慶太が持ってていいから!」
開き直ったように声を大にしてそう言う梓。
「最初からそのつもりだよ……でも秋でもそんなに熱くなるかな?」
「ちゃ、ちゃんと保管しててよね……あと、秋でも熱いの! ポカポカなの! ……も、もうそんな事どうでもいいから早く行くよ、動物園! ここで色々してたら怪しまれるし、だから、早く行こ! 早く行くよ、慶太!」
「あ、うんそうだね……でもこの話梓が」
「何か言った!?」
「……言ってません」
ぷりぷり怒ったように顔を赤くする梓に強引に連れられて、腕を組んだまま動物園の入園ゲートへ。
係員さんの言葉に食い気味に「カップルです!」と言ってそのまま動物園の中に入る。
動物園特有のモアッとした空気、ワクワクするような空気と隣に感じるふにゅっとした感覚。
「……」
「あ、梓、そろそろ……」
「……え? あ、そ、そうだよね! ご、ごめんごめん、もうくっついてる必要ないもんね! アハハハ、ごめんごめん、アハハハ……」
パッと僕から離れた梓が紅潮したほっぺでアハハと申し訳なさそうに笑う。
途端に流れるかなり気まずい空気……これは嫌な空気だな、本当。
「あ、梓! その安い料金で入れたし、めっちゃ良かったよね! ほら、鳥の楽園だって、最初は! 鳥がいっぱいいるんじゃないかな、梓の好きなペンギンも! ほら、ペンギン見に行こうよ!」
「……う、うん、行こう! ちゃんと安い料金で入れたし、カップルに見えたみたいでよかったよ! よ、よし! 鳥の楽園行こうか!」
まだちょっと雰囲気は変だけど、でもそれなりに緩和されて。
「……慶太は鳥だったら何が楽しみ?」
「僕はオニオオハシかな? カラフルで可愛いし、嘴大きいし」
「あ、絶対いる奴じゃん、その子! ふふっ、楽しみだね、慶太」
「うん、楽しみ」
そんな会話をしながら、さらに一段階蒸し暑い扉に手を当てる。
☆
「慶太、餌やりできるって、餌やり!」
「お、良いね! しかもここオニオオハシいるじゃん、あの子に来て欲しい!」
少し鳥の楽園を行ったあたりある熱帯雨林の餌やりコーナー? で餌をもらう。
ここに来るまでにふくろうの森とか石みたいな嘴の鳥とか、しゃべるインコに言葉覚えさせたりしてかなり楽しかったけど、鳥の楽園のメインイベントはここみたいだ。
「おー、さっそく来てくれた……アハハ、手に乗ってて可愛いし、必死に食べてるのもキュートだね……でもちょっとくすぐったいかも。キレイな色だな、この子」
楽しそうに笑う梓の手にはすでに小さくて青い鳥が止まっていて、これまた楽しそうにエサを食べる。
ふふっ、梓も楽しんでるみたいで良かった……うーん、僕は普通の事するのも嫌だな、ここで……あ、そうだ!
「ねえねえ、梓、ちょっと見てて」
「ん? どうしたの慶太? 私の写真撮りたい?」
その言葉には首を横に振って、買ったエサをそのまま頭にのせる。
ほえ? っと目を開いた梓ににやりと笑いかけて少し待ってると、頭に重たくて少し痛い感覚。
目の端にうつるのはオレンジ色の鮮やかな色彩で……お、これビンゴじゃない!
「おー、慶太すごい! 頭の上にオニオオハシ乗ってる!」
キラキラと目を光らせた梓の興奮した声……お、やっぱり成功してる、あたりだ!
「すごいね、この子たち頭に乗るんだ! 私はできないけど!」
「梓はちゃんと髪セットしてるもんね……という事で梓、写真撮って写真!」
「そうだね、写真……あ、そうだ慶太。どうせだったら一緒に写真撮ろ、私の手にもキレイな青い鳥がいるわけだし!」
カバンからスマホを取り出した梓が思いついたようにそう言う。
確かに青い鳥もいれば色彩もグッドだ、良い感じだ!
「そうだよね、そうだよね……それじゃあ慶太もうちょっと私の方寄れる?」
自撮りモードの梓のスマホの画面に入るように体を調整……頭にオオハシ君のせたままだと結構難しいな、これ。
「入ってる、これで? あとフラッシュはたいちゃダメだよ」
「わかってる、フラッシュなんてたかない……うーん、もうちょっとしゃがんで……よしOK! それじゃあ写真撮るね、はいチージ!」
その掛け声とともにカシャッという音とともにスマホのカメラの音が鳴る。
「よし、写真撮れたよ、いい写真だね! 私と一緒に青い鳥も写ってるし、慶太の頭にオニオオハシの写ってるし……完璧だよ、慶太! 海未ちゃんに送っちゃえ、この写真! 見てみて、いい写真!」
そう言ってスマホ画面越しに写真。
写っているのは、青い鳥を腕に乗せた梓と、頭にオニオオハシを載せた僕の写真……うん、確かにいい写真、キレイに撮れてる!
「ふふっ、いい感じ! この写真なら海未に送ってもいいかもね!」
「そうでしょ! ふふっ、送っちゃおうかなぁ! いい写真撮れたなー!」
ポチポチとスマホを操作しながらそう答える。
まあ、この写真ならみんなに見られてもいいやつだね⋯⋯ちょっと嫌だけど。
「ふふっ、送らないよ、皆には! 海未ちゃんに送るだけだよ、この写真は!」
「アハハ、それなら良かった。送らないでよ、他の人に」
「うん、送らないよ……慶太と二人だけの秘密にする!」
そう言ってまたまたいたずらに梓が微笑んだ。
☆
「慶太、私ハシビロコウににらめっこで勝てる気がする!」
鳥の楽園を少し進んだ後、ハシビロコウの前で梓が自信満々に指を突き出す。
⋯⋯にらめっこで勝てるって言っても、ハシビロコウは動かない鳥として有名だよ?
そもそもしないで?
「そうだけどさ、でも人間として勝ちたいじゃん、色々と!」
「そう言うものかなぁ?」
「そう言うものだよ! だから、にらめっこするんだよ! ……その前に慶太とにらめっこだ!」
そう言ってグイっと顔を寄せてくる……OK,まずは僕を倒してからだね?
「そう言う事! という事で、にらめっこしましょ、あっぷっぷ!」
『あっぷぷ!』
梓の掛け声と一緒に僕もあっぷっぷ。
撲も全力の変顔、でも梓の顔も凄くて。
「ふふっ、ふふふっ……梓、何その顔! やばすぎるよ、その顔!」
梓の変顔が凄すぎて、思わず笑ってしまった。
何その顔、女の子がしていい顔じゃないよ、にらめっこ無敵だよ! 何だこの最強の顔、写真にとればよかった!
「そうでしょ、そうでしょ! 全力で顔芸してるもん……という事で私とハシビロコウ君の対決だね!」
「ほんと凄い顔してたよ、梓……じゃあにらめっこよろしく! この顔なら勝てるかも」
「うん、任された!」
そう自信満々に言った梓がニッコリと微笑んで、そのままハシビロコウと対決。
そしてそのまま、1秒2秒……でもやっぱりどちらも動かなくて。
「⋯⋯うーん、決着つかないや! ハシビロコウはにらめっこ強すぎるよ、本当に! これなら私絶対に勝てないや! 生命の神秘だね、慶太!」
しばらくにらめっこを続けた後、梓が負けたけど(引き分け?)すがすがしい笑顔を見せた。
★★★
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