第32話 大好きだから! 配信スタート!

「……っとその前に。梓さん、一応配信のルールおさらいしておきましょう。挨拶とかの段取りもまだでしたし」

 さあ、スタートだ! と私が気合を入れたところで、海未ちゃんがそう言ったのでちょっと足踏み。


 ……そう言えば、挨拶とかそう言うの何も決めてなかったな。

 確かにそれは必要かも!


「はい、絶対に必要です、万が一本名で呼ぶようなことがあったら大変なことになりますし」


「確かに! そのあたり徹底しないと!」


「はい、そうです、徹底です。という事で挨拶の練習しましょう……まずは私が『穴党のみんなこんにちは! お兄ちゃん大好き系Vtuberミナレットだよ! 今日もありがとー!』っていつも通りの挨拶を……ってどうしました?」


「……やっぱりすごい変わりようだね、それ」

 急にいろんな意味でスイッチ入れるからびっくりしちゃった、普段の海未ちゃんのテンションと結構違うからちょっと怖いくらい。


「Vtuberはギャップが命です、多分。だからそれは誉め言葉です、ありがとうございます。それで続きなんですけど、その後に『今日は紹介したい人がいるのー!』って感じで私が言います」


「そこで私の出番だね! 『はーい、みんなこんにちは! ミナちゃんのお姉ちゃん、ランプだよ!』……こんな感じ?」



「はい、上手です梓さん。流石私が見込んだだけあります。それについでに……あれ? 梓さんの誕生日って9月でしたよね?」


「うん、先月だよ! 17歳になりました!」

 まあその頃は慶太と色々あって祝ってもらうことはできなかったんだけど。

 でも友達とかにはいっぱい祝ってもらった……でもなんで誕生日?


「いえ、兄さんが12月なので梓さんの方がお姉さん、だなって」


「お姉さんって言っても3か月だよ。そんな変わんないよ、同級生だし」


「いえ、それが今は大事なのです……という事で梓さんは弟大好き系Vtuberですね。さっきの自己紹介の前に弟大好き! ってつけてください」


「なるほど、弟大好きね……んん?」

 弟大好き系Vtuber? え、何それ何それ聞いてないんだけど、どういうことですか?


「どう言う事って……そう言う事ですけど。ミナレットと姉妹設定なんですから当然、兄さんとも兄妹の設定になります。なのでそうしないといけないのです」


「あ、なるほどそう言う……でもでもその設定いらなくない? ほら別に私は大好き系じゃなくても」


「でも兄さんの事大好きですよね?」


「……好きデス。慶太の事大好きです」

 それはゆるぎない事実ですけど! 

 慶太の事が大好きなのは事実だけど、でもそれは配信で言うかは……


「別に良いじゃないですか、バーチャルなんですから。『ミナちゃんのお姉ちゃんで弟大好き系Vtuberのランプだよ!』……ハイ復唱!」


「……言わなきゃダメ、それ? 別に言わなくてもいいんじゃないかな?」


「ダメです、キャラ付けはすごく重要なんですから。だから言ってください、自己紹介で言うんですよ」


「……わかったよ。『ミナちゃんのお姉ちゃんで弟大好き系Vtuberのランプだよ! 立ち絵はまだないけどこれから配信とかに出るからよろしくね!』……こんな感じ?」


「おー、セルフアレンジ完璧です、それです、それで行きましょう! あとはは威信の流れで私が何とかします!」

 パチパチと手を叩きながらそう海未ちゃんが褒めてくれる……嬉しいけど恥ずかしいよこのキャラは!


「大丈夫です、本心ですよね? 心の中で思ってることを口に出すことはすごく大切ですから!」


「なんかいいこと言ってる風だけどあまり関係ないよね!?」


「確かに特には関係ないですけど。でも言った方が良いですよ、その方が思いは本当に強くなりますから。それにずっと言ってますけどキャラ付けになりますし。兄妹で唯一の男を取り合う姉と妹……なんだか面白くないですか?」


「……それは確かに面白いかもだけど」

 なんかえっちな同じ……漫画の設定みたいで確かに面白いと思う。

 それにやっぱりキャラ付けしないとうまく行かないわけだし……うう、わかった! そのキャラで行こう、慶太の事好きなのは本当なんだし!


「はい、そう言う事ですよ、早く配信始めちゃいましょう。兄さん帰ってきたら大変ですから……梓さん、準備はOKですか?」


「……OK! 覚悟決まってるよ、準備万端だよ!」

 海未ちゃんの問いかけにぶんぶん大きく首を振って答える。

 その答えに満足した様にニコッと微笑んだ海未ちゃんは、「配信スタート!」と元気よくボタンを押した。



 ☆


 配信が始まってから数分後。

 ゲリラ配信だって言うのにもう人が700人以上集まっていて流れていくのはコメント欄。

 改めてミナレットちゃんの凄さを実感する……私この前で話すの、ちょっと緊張が……というか昨日までは画面の向こう側の存在だったのに急にこっち側の住人になったという事実がコメント欄見たら襲い掛かってきてそれでもまた緊張が……!


「大丈夫です、梓さん。緊張しなくていいです、私とおしゃべりすると思ってください」


「うん、そうだ……って海ミナレットちゃん!? 私の名前言っちゃって大丈夫なの!?」


「そんなに焦らなくて大丈夫です、今はマイク切ってあります。もうちょっとしたらマイクも入れますので」


「あ、そうなんだ……それなら良かった」

 私も名前言いかけてたし危ない危ない、本当に気をつけないと!


「はい、気をつけましょう……それじゃあ、マイク入れます、配信本当に始めます」

 そう言ってマイクをとんとおす。


「あーあー、入ってる? 入ってるみんな? 大丈夫、入ってるかな?」

 ミナレットちゃんボイスで話し始めた海未ちゃんの言葉に「待ってた!」「入ってるよ!」なんて風にさらにコメント欄の熱が加速して……ふーふー、深呼吸、平常心、私はランプちゃん!


「よーしそれじゃあ、今日もゲリラ配信来てくれてありがとね! 穴党のみんな今日もお疲れ様! お兄ちゃん大好き系Vtuberのミナレットだよ! 今日もみんなありがとねー!!!」

 少しだけ文言は違うけれど、でも同じようなことを言ってパチッと私にウインクで合図……よし気合い入れて……あ、でももう1フェーズあったわ、そう言えば。


「そしてそして! 今日はみんなに紹介したい人がいるの! えへへ、誰だと思う? 誰だと思う?」

 挑発するようなうミナレットちゃんの声にコメント欄は大盛り上がり。

「お兄ちゃんだ!」「ついに愛するお兄ちゃんが!」「いちゃいちゃ期待!」……これ私出て大丈夫なのかな?


「ふふ~ん、みんなの期待答えられるかな? それでは登場してもらいましょー、よろしく!」

 そう言ってもう一回私の方にウインク。

 ……ちょっと空気あれだけどでも頑張るぞ!


 えっと声出すときは喉からお腹から……やばい凄い緊張してきて声がうまく……

「あや、みにゃさん、こにゃ……あへっ!?」

 ……


 ……やってしまった! めっちゃ嚙んじゃった!

 やばいよ、大変だよ、大失敗だよ!

 多分海未ちゃんも白い目……あれめっちゃ優しい目? そしてくいくい画面見ろって?


「あ、あや?」

 海未ちゃんに指さされたように画面を見てみるとコメント欄には「可愛い!」「今の誰? めっちゃ可愛いんだけど!」「噛んだの? 天然推せる!!!」などの声……あれ、ウケてる? 何かわかんないけどウケてる?


「はいウケてます、実際可愛かったですし……という事で続けてください、自己紹介」

 そう耳元で囁くのは海未ちゃん……わかった、続けてみる!


「ご、ごめんね、えっと……穴党のみにゃさま! えっと、私はその……み、ミナレットちゃんの、おおおおお姉ちゃんのらららランプです! ランプですっ、う、牛さんの、牛さんの腰です、美味しいとこです! そ、その不つ……不束者ですがよろしくお願いします!!! あと弟が大好きです!!!」

 頭が真っ白になりそうになりながらもそう何とか最後まで自己紹介。


 流れてくるコメント欄には「牛さんの腰笑 このお姉ちゃん面白いかも」「お姉ちゃん! しかも奪い合い!? 牛さんの腰!」「可愛い! 推せるし、恋のライバル来ちゃぁ!!!」なんてコメントが一気に加速して流れ、視聴者さんの数も一気に1000人を超えて……すごい、何かわかんないけど……すっごい楽しい!!!



 ★★★

 新作投稿したので読んでいただけると嬉しいです。

 感想や☆やフォローなどしていただけると嬉しいです!!!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る